2013年4月29日月曜日

4月19日 鎌倉で着生ランを見る

4月19日
鎌倉のとあるお寺にて。他の方々が仏閣や見頃のボタンを見ている中、一人ビャクシンを見上げる。

カヤランThrixspermum japonicumが開花していた。
着生ランとしては普通種であるそうだが、実際に見たのは今回が初めてだった。

こちらはムギランBulbophyllum inconspicuum
幹や枝に相当量が着生していて、今にも枝から落ちそうなほどだった。

花期は6月頃だそうで、種を飛ばした後の果実だけが残っていた。





神奈川県植物誌2001によれば、両種とも県内での分布は限られているようだ。特にムギランは極端に産地が限られており、県のレッドリストで絶滅危惧IA類に指定されている。
寺の背後に山があるから、生育に適した湿度が保たれたりしているのかもしれないが、門を出れば交通量がそれなりにある道路である。今回見た限りではそこまで特殊な環境だとは思えず、逆になぜ他の場所では見られないのか、不思議である。それとも既に周囲の環境は着生ランの生育には不適であり、昔から着生していたものが木とともに残存しているだけなのだろうか。(目立つ種ではないからエビネやカンランのように乱獲で減ったとは考えにくいだろう)

鎌倉の寺社は歴史的建造物として非常に価値のあるものだが、それと並んで多くの植物たちの住処としての価値も大きいように思う。周囲が開発などで生育に不適な環境に変化していく中、まさに駆け込み寺として機能していると言えるかもしれない。 将来的には再び分布を広げてほしいものだ。



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2013年4月22日月曜日

イワウチワを見に奥多摩へ

4月11日

インターネットで検索していたところ奥多摩でイワウチワという花が見られると知った。花期にはまだ間に合いそう、ということで早速行くことにした。


多摩川



スギ林の中を沢沿いに進む。少し尾根っぽくなっている所にはスギに交じってカラマツも見られた。かつて植林したのだろうか。

途中に咲いていたのはレンプクソウAdoxa moschatellina
他にヒトリシズカやヒトツバテンナンショウなどを観察しながら次第に標高を上げていき、尾根上の神社に着いた。

神社の周りを散策。ツガ、モミ、ヒノキ、アセビなどいかにも尾根らしい樹種が見られた。
斜面の下の方にイワウチワが開花しているのが見えたが、かなりの急斜面だったため残念ながら近くに行くことはできなかった。

神社の周りではヒカゲツツジRhododendron keiskei が開花していた。見たかった花のひとつである。

さらに先を進んだところでイワウチワ自生地に到着。既に盛りは過ぎていたようだが、何か所かで見ることができた。感動である。

イワウチワShortia unifloraはイワウメ科の多年生草本。漢字では岩団扇と書く。葉が団扇のような形をしている、というのが由来らしい。
多年生草本、とは書いたが、観察した感じでは根元は細いながら木化していたので低木とした方が良いのかもしれない。

アケボノスミレViola rossii
葉が展開する前に花を咲かせるようである。

カタクリErythronium japonicum
カタクリを見つけた頃から雲が広がり始めた。そのためかほとんどのカタクリは花を閉じかけていたが、一部はしっかりと開いていてくれた。

エンレイソウTrillium apetalon。湿り気のある場所でハシリドコロ、ヨゴレネコノメなどとともに多く見られた。

ところで日本の山地で見られる植物は北半球に同じ仲間が広く分布していることが多い。例えば、今回観察したエンレイソウやカタクリの仲間は北米大陸で種分化を起こして多様な種が見られるそうだ。機会があれば実際に行ってみたいものだ。


今回観察した植物。(科は新エングラー体系)
ヒノキ科 ・ヒノキ 
マツ科 ・アカマツ ・モミ ・ツガ
クルミ科 ・オニグルミ
ヤナギ科 ・ネコヤナギ ・バッコヤナギ?
カバノキ科 ・ヤシャブシ?
ブナ科 ・イヌブナ ・コナラ ・ミズナラ ・アラカシ ・シラカシ ・ウラジロガシ ・ツクバネガシ
イラクサ科 ・ウワバミソウ ・カテンソウ
ヤドリギ科 ・マツグミ
シキミ科 ・シキミ
クスノキ科 ・シロダモ ・クロモジ ・アブラチャン
フサザクラ科 ・フサザクラ
キンポウゲ科 ・ヤマトリカブト(葉) ・ニリンソウ ・アズマイチゲ ・セリバヒエンソウ ・ハンショウヅル(葉) ・サラシナショウマかレンゲショウマなどと思われる新芽もあった。
メギ科 ・メギ
アケビ科 ・アケビ
センリョウ科 ・ヒトリシズカ
ウマノスズクサ科 ・(カントウ)カンアオイ
ツバキ科 ・ヒサカキ
ケシ科 ・ミヤマキケマン ・ジロボウエンゴサク ・ヤマエンゴサク ・ムラサキケマン ・クサノオウ
アブラナ科 ・ミツバコンロンソウ ・ヒロハコンロンソウ ・コンロンソウ ・オランダガラシ ・オオバタネツケバナ  ・ユリワサビ ・ワサビ
ベンケイソウ科 ・ヒメレンゲ?
ユキノシタ科 ・ハナネコノメ ・ヨゴレネコノメ ・ツルネコノメソウ? ・ウツギ
バラ科 ・ユキヤナギ
ミカン科 ・ミヤマシキミ
カエデ科 ・ウリカエデ(花)
モチノキ科 ・イヌツゲ ・ソヨゴ
スミレ科 ・タチツボスミレ ・エイザンスミレ ・ナガバノスミレサイシン ・アケボノスミレ ・マルバスミレ ・ウモトスミレ ・アメリカスミレサイシン
キブシ科 ・キブシ
ウコギ科 ・タカノツメ
イワウメ科 ・イワウチワ
リョウブ科 ・リョウブ
イチヤクソウ科 ・イチヤクソウ?
ツツジ科 ・ヒカゲツツジ ・ミツバツツジ? ・アセビ 
ムラサキ科 ・ハナイバナ ・キュウリグサ
シソ科 ・キランソウ ・ホトケノザ ・キバナオドリコソウ ・ヒメオドリコソウ ・カキドオシ
ナス科 ・ハシリドコロ
イワタバコ科 ・イワタバコ
スイカズラ科 ・ニワトコ ・オトコヨウゾメ
レンプクソウ科 ・レンプクソウ
キク科 ・スズメノヤリ ・オオジシバリ ・ハルジオン ・モミジガサ ・その他にタカオヒゴタイ?やハグマ系の新芽が見られた。
ラン科 ・シュンラン ・ミヤマウズラ(葉のみ)
ユリ科 ・エンレイソウ ・シロバナエンレイソウ(ミヤマエンレイソウ) ・カタクリ ・ヒメニラ ・ヤブラン? ・ウバユリ
サトイモ科・ヒトツバテンナンショウ ・マムシグサ?
イグサ科 ・スズメノヤリ
カヤツリグサ科 ・タガネソウ ・ナルコスゲ ・カンスゲ ・他にも少なくとも3、4種は開花していたが種類は分からず。
コケ・シダ植物など ・ジャゴケ ・タマゴケ? ・コウヤノマンネングサ ・コケシノブ ・ヤブソテツsp

そういえば最近、山と渓谷社からAPG分類体系が用いられた植物図鑑が出たそうだ。今までの図鑑は形態に基づく新エングラー分類体系なのに対してAPGはDNAに基づく分類体系であり、より植物の種ごとの類縁関係を正確に表しているといえる。しかし僕を含めて新エングラーに馴染んでいる人が圧倒的で、今までの資料の多くも新エングラーに従ってきたのも事実。しばらくは混乱が起きそうだ。




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2013年4月9日火曜日

クヌギハケタマフシから羽化したハチ(その2)

4月5日
昨年学内で拾ったクヌギハケタマフシ(ハチのうしろに写っている褐色の丸いもの)からハチが羽化しているのを見つけた。大きさは2mmくらいだろうか。
(クヌギハケタマフシを採集した時の記事はこちら



実は、ハチが羽化してきたのは今回が初めてではなく昨年11月にも2匹が羽化している。(その時の記事はこちら

その時羽化したハチと比較して、今回のハチは尾端が鋭くとがっている、体が一回り小さい、脚の色が異なる、など明らかな違いがあり、恐らく雌雄ではなく別種である。
だとすると、一方がクヌギハケタマフシを作ったクヌギハケタマバチで、もう一方がクヌギハケタマフシをちゃっかり利用した、もしくはクヌギハケタマバチの幼虫に寄生した寄生バチというこということになるのだろう。

今回のハチについてはまだ調べていないが、そもそも昨年出てきたハチについても学校の図書館にある図鑑には載っていなかったために同定できていない。もう少し自力で調べようとは思ってはいる・・・。



昨年羽化したハチの写真。







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2013年4月7日日曜日

ウスタビガの繭から羽化した寄生バチ

4月7日

「カリカリ・・」という音で目が覚めた。最初は風で何かがこすれている音かと思ったが、どうも違う。部屋を探しまわり、2月にセツブンソウを見に山梨に行った時に拾ったウスタビガの繭が発信源であることが分かった。

ウスタビガの繭の上部には幅広で狭い穴(このあと出口と統一)があるが、そこから中を覗くと大柄そうな虫の顔が確認できた。
ウスタビガは年1化で晩秋に羽化するヤママユ科のガである。だからこの時期に羽化するとは考えにくい。とすると寄生バチの類だろうか?
観察を開始した。

(左写真は8時3分の様子)

8時29分

出口が少し広くなってきて中の様子が確認しやすくなってきた。触角とアゴが目立つのでハチの仲間であることは間違いなさそうだ。
出口の少し下辺りをかじり続ける。かじる幅はハチの頭より少し広い範囲で、写真の逆側をかじることも。


時間がたつにつれ繭の出口は段々と広がっているようだが、別にハチが押し広げたわけではなさそうだ。出口近くの内側をかじることで糸を切って繭の緊張を弱めているためだろうか。

8時47分

出口を押し広げて出られるかを確認しているのだろうか?
このような行動は何度も見られた。

8時56分

ほとんど同じところをかじり続けるため、繭のその部分が薄くなって大アゴの先端が貫通するようになってきた。

9時6分

出口のすぐ下に穴があき、今度は出口の縁の頑丈そうな場所を噛み始めた。

9時11分

大分頭が出るようになってきた。縁が噛み続けられたために柔らかくなり、出口を広げやすくなったのだろう。(噛んでいる場所が褐色に段々と湿ってきたのでハチが何らかの液体を出しているようだ。それも縁を柔らかくする意味があるのかもしれない)

9時15分

脱出開始。

9時15分

9時16分

脱出には1分もかからなかった。
ハチでは当たり前のことなのかもしれないが、翅は既に伸びきっていた。しかし全身は褐色の液体で汚れてとても飛べる状態には見えない。

9時17分

羽づくろい。

9時18分

翅についた汚れを払うことも兼ねた羽ばたき練習?

9時19分

体を軍手にこすりつけて表面についた汚れを取る。

羽づくろい(脚による全身のクリーニング)、はばたき、体こすりといった行動はしばらく続けられた。

9時26分

脱出したウスタビガの繭と。

ハチの体長は約4cmで、長さだけならスズメバチにも匹敵するほどの大きさ。ただ、体は細長くて随分と華奢な印象を受ける。
種類はコンボウアメバチHabronyx insidiator などではないかと思われる。
ちなみにコンボウアメバチの寄主はクスサン、ヒメヤママユ、ヤママユ、サクサンだそうで、いずれもヤママユ科のガである。
同科のウスタビガに寄生してもおかしくないとは思うが、今のところ確実な情報は見つけられていない。これからちゃんと調べて追記できたら、と思う。

追記(2013年4月17日)
原色昆虫大図鑑 Ⅲ で調べてみた。特徴からしてコンボウアメバチHabronyx insidiatorでよさそうだ(類似種も存在すると思うので、断定は避ける)。コンボウアメバチは「クスサン、サクサン、ヤママユ類の幼虫に寄生し蛹から羽化」とも書いてあるので、ウスタビガから羽化してもおかしくはないだろう。



羽化の途中の様子を動画で撮影したものをYouTubeにアップしました。よければ見てください。
その1http://www.youtube.com/watch?v=OLIIb21mwTM
その2http://www.youtube.com/watch?v=lfmz3C8d6WM



参考
・日本産ヒメバチ目録
http://cse.naro.affrc.go.jp/konishi/mokuroku/index.html
・新訂 原色昆虫大圖鑑 第Ⅲ巻 2008年1月25日 新訂版初版発行
監修 平嶋 義宏・森本 桂 発行 北隆館


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2013年4月3日水曜日

今年も咲いたアズマネザサの花


4月3日

農工大のキャンパス内で今年もアズマネザサPleioblastus chinoが開花していた。
(昨年の開花状況はこちら

開花していた場所は昨年とほぼ同じように見えた。つまり、同じ株?(ササは地下茎でつながっているからどこまでが同一株かよく分からない)が今年も開花していたといえるだろう。
すぐ隣りの群落が全く開花していないのも昨年と同様。

昨年の記事にコメントを書いてくださった方がいて、それによればアズマネザサの開花自体は(草刈りのあるところで)比較的よく見られることだ、とのこと。また花後の動態はその年に枯れたり、何年か咲いて枯れたり、開花しても結局枯れなかったりと色々だとのことである。(貴重なコメントを書いてくださり感謝です。)

農工大のアズマネザサはこの後どのようになるのだろうか。そして、ササ自体はあちこちで同じように刈られている(ように見える)のに開花が一部でしか見られないのはなぜなのだろうか。刈り取り、という行為がササに何らかの影響を与えて開花にいたっているのは間違いなさそうだが、それがどういう仕組みなのかも気になるところだ。
在学中は継続して観察したい。


追記(2013年4月18日)
その後に学内を回っていたら他にも点々と開花しているのが見られた。まだ花茎が伸びていなかったからか、単に見落としていたのかは分からない。残念ながら、昨年まで開花していたかも分からない。
もう少し詳しく調査することが必要そうだ。




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アキノエノコログサは越冬するのか?


4月3日 近所のコンビニの駐車場に1本のエノコログサの仲間を見つけた。驚いたことに根元は枯れずに新しい花穂を付けていた。
周りを見てみたが、枯れずに緑を保っていたのはこの1株だけだった。
拡大した写真。

種判別をしてみる。
穂のぱっと見はエノコログサSetaria viridis のように見えたが、小穂(左写真の一粒一粒)の第2包頴(真ん中の小穂の左側についているもの)が短いことからアキノエノコログサSetaria faberi と思われる。ちょっと自信が持てないが、ここではアキノエノコログサとしたい。
ちなみにエノコログサはこの第2包頴が小穂と同じくらい長いらしい。


それにしても、なぜこのアキノエノコログサは冬を越したのだろうか。

アキノエノコログサは手持ちの図鑑を見る限り全て「1年草」と定義されていた。      (ひとつだけ、日本の野生植物 平凡社 1983年初版第9刷には1年草・多年草のどちらも記述がなかった)ただ、インターネットで検索してみるといくつか「多年草」と記述されたページがあるので必ずしも1年草とは断定はできない。(多年草、というのはどこに元の情報があるのだろう?)
実際のところ、一年草と多年草の境界はあいまいなことも多い。例えば、野菜のナスは冬の寒さに耐えられないために日本では1年草の扱いになるが、温暖な場所では多年生になる。もし、アキノエノコロにも多年草になる能力があるとすれば、今回見つけたものはたまたま寒さから逃れて冬越しできたものである、ということだろうか。

もうひとつ、観察していて気になったのが採取したものの全てがしいな(実が育っていない)だったこと。単に寒さの影響で果実が熟さなかったのかもしれないが、もしかしてそもそも受精などがうまくいかず果実のならない株の可能性があるのではないかとも思った。
これは全く根拠のない考えだが、健全な果実ができないと果実を熟させるのにエネルギー投資が行えず、通常の株と異なっていつまでも新しい花や葉を作る、つまり株の成長にエネルギーが使われ、その結果枯れずに冬を越したのではないだろうか。  今回見つけた株はコンクリの塀のわきに生えていた。多少寒さから守られていたかもしれないが、似たような環境は他にも普通にあるように思われた。よって、今回の株だけが越冬したのは立地だけでなくその株の状態も考慮しないとうまく説明できないと思う。

今後、この株がどのように成長していくのか、夏に咲いた花はちゃんと実になるのか、またしいなになってしまうのか。再び観察してみたいと思う。(刈られなければいいが・・・)

参考 
・イネ科ハンドブック 文一総合出版 木場英久・茨木靖・勝山輝男 著 (2012年6月10日初版第2刷)


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