2018年5月31日木曜日

ヤマウツボの種子散布 Seed dispersal of Lathraea japonica (Orobanchaceae)


5月29日

富士山麓のブナ林にて。

ヤマウツボLathraea japonica Miq.Orobanchaceaeハマウツボ科)を見つけた。

ヤマウツボは多年生の全寄生植物。「改訂新版 日本の野生植物5(大橋ほか編 2017)」によれば、分布域は日本(本州の宮城以南と四国、九州)、韓国の鬱陵島、中国。属としてはブナ科、カバノキ科、ヤナギ科などの根に寄生すると書かれているが、ヤマウツボそのものの寄主に関する記述はない。

観察時は果期にあたり、花序には多くの果実がついていた。
知らずに踏んで折ってしまった1本があったので、詳しく観察するために持ち帰った。

持ち帰った花茎。長さは10 cmくらい。

果実は幅約5 mmで内部に2個の種子を入れ、下部が萼(ガク)に包まれる。オオイヌノフグリなどのクワガタソウ属Veronicaを思わせる形状だ。
かつての分類(エングラー体系)において、ヤマウツボ属とクワガタゾウ属は同じゴマノハグサ科に属していたが、それが納得できる気がする。

種子を放ったあとの果実。

ヤマウツボを含むヤマウツボ属は、種子散布様式が自動散布(autochory、植物体自身の何らかの運動で種子を散布する)であることが知られている(Fahn and Werker 1972; 中西 2014)。中西(2014)によれば、ヤマウツボの平均散布距離は110.1 cmで、最長で200 cmに達する。
種子を弾き出す勢いはかなりのもので、ビニール袋に保管していると種子が当たる音がバチバチと聞こえるほどである。


寄生植物の種子散布様式には風散布(ナンバンギセルやハマウツボ属、ツクバネなど)、アリ散布(カナビキソウやママコナ属など)、鳥被食散布(ヤドリギ)、昆虫被食散布(キヨスミウツボ)、重力散布?(ネナシカズラ)などがあり、その多様さを私は把握しきれていないが、自動散布を行うヤマウツボも個性的なものの一つだと思う。

種子を放つ前後の果実を並べた。下2つの果実が放出後である。
果皮が中央で縦向きに裂け、くるりと巻いているのが分かる。果皮の動作により種子を飛ばすようだ。

なお、自動散布の様式について、中西(2014)は「乾燥によって果皮が内側に巻く力で種子を飛ばす」と書いているが、Fahn and Werker(1972)は膨圧(細胞内の圧力)で果実が裂開する例としてLathraea clandestina(ヤマウツボと同属でヨーロッパに分布)を挙げている。

観察した限りでは、ヤマウツボの果実は種子散布の後もみずみずしさを保っていることから、本種も膨圧が動力源であるように思う。

種子。
直径2 mmほどで、表面にしわがある。
同科のハマウツボやナンバンギセルの種子は微細であり、それらと比べると随分と大きい。
これだけ種子サイズが大きければ、発芽から宿主に取り付くまでのしばらくの間は自活できそうな気がする。

Lathraea japonica Miq.Orobanchaceae) is a parasitic perennial of Japan. This plant considers parasitizing to Fagaceae, Betulaceae, and Salicaceae trees. The seed dispersal system of L. japonica and other Lathraea species are known as autochory.  According to a Dr. Nakanishi's study (Nakanishi 2014), the maximum seed dispersal distance of L. japonica is about 2 m. 



<参考・引用文献、サイト>
・藤井紀行 2017.  ハマウツボ科OROBANCHACEAE (大橋広好・門田裕一・木原 浩・邑田 仁・米倉浩司 編. 改訂新版 日本の野生植物5 ヒルガオ科~スイカズラ科). 平凡社,東京. pp149-162.

ヤマウツボ、カナビキソウの種子散布について
・中西弘樹 2014. 種子散布ノート2.  植物地理・分類研究, 62:15-16.
(http://phytogeogratax.main.jp/site/wp-content/uploads/2018/02/JPT62_1_15.pdf)

キヨスミウツボの種子散布について
・Suetsugu K. 2018.  Independent recruitment of a novel seed dispersal system by camel crickets in achlorophyllous plants.  New Phytologist, 217: 828–835.
(https://nph.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/nph.14859)

Lathraea clandestina(ヤマウツボ属)の種子散布について
・Fahn A. and Werker E. 1972.  4 Anatomical Mechanisms of Seed Dispersal (Edited by T.T. Kozlowski. Seed Biology: Importance, Development, and Germination).  Academic Press INC, New York. pp152-223.

ママコナ属の種子散布について
・Gibson W. 1993.  Selective advantages to hemi-parasitic annuals, genes Melampyrum, of a seed-dispersal mutualism involving ants: II. Seed-predator avoidance.  Oikos 67: 345-350.
・松江の花図鑑「ミヤマママコナ」
(https://matsue-hana.com/hana/miyamamamakona.html)