2016年3月21日月曜日

兵庫にて 春植物の観察


3月5日

早春に花開く野草たちを目当てに、兵庫県中部のとある場所を訪れた。
この場所では、山林と集落との間に位置する斜面地に様々な草本が生えている。


キクザキイチゲ Anemone pseudo-altaica
ここで咲いていた花は、いずれも淡紫色を帯びていた。本種の花色は、日本海側に行くとバリエーションが豊かになるという。





アズマイチゲ Anemone raddena

キクザキイチゲに似ているが葉の形が異なる。また、アズマイチゲでは萼片の基部が紫色を帯びる。


セツブンソウ Eranthis pinnatifida

ニホンミツバチと思われるハチが訪花していた。
セリバオウレン Coptis japonica var. dissecta







ユキワリイチゲ Anenone keiskeana

西日本に分布する。

開花のピークはもう少し先のようで、しっかりと花開いた個体は見られなかった。



今回観察した植物をはじめ、春先に開花する草本は数多い。その中でも早春に葉と花を展開し、夏前に地上部が枯れてしまう多年生草本を「春植物」と呼ぶ。英語では「Spring Ephemeral」と言い、最近ではこれをカタカナ読みした「スプリング・エフェメラル」という呼び名もかなり知られていると思う(「春の妖精」という呼び方もあるが、これについては後述)。

今回観察した植物の中ではキクザキイチゲ、アズマイチゲ、セツブンソウが春植物の定義に当てはまる生活史を持つ。ユキワリイチゲは秋に葉を展開するが、これは温暖な西日本低地に適応して展葉期間が延びた特殊な春植物、といったところだろうか(正確なことは分からないです)。
セリバオウレンは、花は早春に咲くものの葉は年中展開しているので、いわゆる春植物とはやや異なるかもしれない。


早春に花開く野草を指す語として「春植物」や「スプリング・エフェメラル」と並んでよく見かけるのが「春の妖精」だ。春先に美しい花を咲かせ、わずか数ヶ月で地上部から姿を消す彼らを表現するのにふさわしい言葉であると思う。
しばしば「スプリング・エフェメラル」と「春の妖精」はセットで用いられることから、私は春の妖精、という語が前者を意訳したものなのだと錯覚していたが、辞書で調べてそれが正しくないことを(恥ずかしながら最近)知った。

スプリング・エフェメラル(Spring Ephemeral)の「ephemaral」は、和訳すれば「短命な、はかない」、などとなる(リーダーズ英和辞典、ジーニアス英和大辞典)。さらに、この語自体が「短命な(動)植物(ephemeral plant)」を指す(上2辞典、オックスフォード米語辞典)。調べた限りでは「妖精」を指すことはない。
すなわち、スプリング・エフェメラルの訳語は「春植物」でよく、もっと厳密に訳すなら「春型短命植物」といった感じがふさわしいと考えられる。「春の妖精」という言葉は、「スプリングエフェメラル」や「春植物」と直接対応する語ではなく、あくまで文語的な表現といえる。





<参考>
・畦上能力  1996. 山渓ハンディ図鑑2 山に咲く花. 山と渓谷社, 東京.
・Wikipedia 英語版 「Ephemeral Plant」(2016年3月閲覧)
https://en.wikipedia.org/wiki/Ephemeral_plant