2017年7月31日月曜日

ブルカノ島 Fossa di Vulcanoの植生

6月26日

リパリ島からハイドロフォイルに10分ほど乗ると、エオリア諸島最南のブルカノ島(Vulcano)に着く。
ブルカノ島にはいくつかの火山があるが、港の南にあるのがブルカノ山(Fossa di Vulcano)。標高は391 mに過ぎないが、異様ともいえるほどの存在感を放っている。直近の噴火は1888年から1890年にかけておこった。

港から舗装路を20分ほど歩くと登山口に到着。

看板には噴気孔に近づくな、と書いてある。麓までかすかに火山ガス(硫化水素)の匂いが漂ってくる。

山麓から標高150 m付近には、Genista sp. ?(マメ科ヒトツバエニシダ属?)が優占し、Cistus sp. (ハンニチバナ科ゴジアオイ属)やキク科の?木本が混生する低木群落が広がる。

ストロンボリ島の標高約250 m以上とよく似た植生。

Genista sp. ?

キク科?の低木(Asteraceae sp. ?)

確認中。

低木群落は越年草を中心とした草本もまじえている。
日本でもおなじみのコバンソウBriza maxima L. (イネ科コバンソウ属)もみられた。

Citrullus colocynthis (L.) Schrad.(ウリ科スイカ属)は緑を保っていた数少ない草本の一つ。

スイカのミニチュア版のような実を付けていた。

標高が150 mあたりからは木本が姿を消し、荒涼とした風景になった。
灰色の部分は火山灰や火山礫(レキ)で覆われている。
しかしながら、岩盤が露出している場所では標高200 m付近まで木本が生育していた。
火山灰・礫で覆われた場所と比較すると基盤が安定しており、水も得やすいことから木本が生育できるのかもしれない。
Gran Cratereと呼ばれる火口の縁に到着。あちらこちらから噴気が上がり、硫黄の結晶が析出して黄色く見える。

道を外れると、強い硫化水素臭を感じることもあった。

山頂周辺は一見すると無植生に見えるが、小型の越年草が群落を作っている。

Aira sp.(イネ科ヌカススキ属)

本種が優占していた。
日本にはヌカススキとハナヌカススキが帰化しているが、そのどちらかかもしれない。

キク科の越年草?(Asteraceae sp.2 ?)

キク科と思われる小型の草本。これも多く生えていた。

山頂付近は越年草の天下となっていたが、木本もわずかに定着し始めていた。
写真はCistus sp.

Genista sp. ?もみられた。












噴火から130年弱がたっているにも関わらず、ブルカノでの植生遷移はまだまだ初期段階で、日本の火山と比較すると遷移のスピードはかなり遅いように思えた。例えば、日本の桜島では大正噴火で形成された溶岩上に、既にクロマツ林が成立している。

ブルカノは地中海性気候下に位置することから夏期の乾燥ストレスが強く、木本の侵入が容易ではないのだろう。噴出し続ける火山ガスや地熱も何らかの影響を与えているのかもしれない。

山頂付近に落ちていたヤギの糞。

不毛に見えるこの場所でたくましく生活しているようだ。
山頂から北側を向くと、リパリ島、サリーナ島、パナレア島が見えた。








■参考
http://volcano.oregonstate.edu/oldroot/volcanoes/volc_images/europe_west_asia/vulcano.html(2017年7月閲覧)

2017年7月29日土曜日

ストロンボリ島 火山の植生と噴火を見る

海岸植生を観察したあとは、標高400 m地点に向けて登山を始めた。

標高約50 mを超えると、低木群落の構成種が海岸部とは異なってきた。
シチリア本土の沿岸の低木林(マキーmaquisもしくはガリグーgarrigue)と共通する種が多いが、種組成はやや単純なようだ。

Euphorbia dendroides L.(トウダイグサ科トウダイグサ属)

種小名の通り、木本になるトウダイグサの仲間。

Pistacia lentiscus L. (ウルシ科カイノキ属)

ナッツのピスタチオと同属。
本属の数種は、地中海の低木林の主要構成種となっている。
シチリア本土では頻繁に見かけたが、ストロンボリではそれほど多くないように感じた。


低木としてはこれらの他に、Artemisia arborescens(キク科ヨモギ属)、Cytisus sp. (マメ科エニシダ属)、海岸部と共通のGenista sp. ?(マメ科ヒトツバエニシダ属?)などが見られた。

Rubus canescens DC. ? (バラ科キイチゴ属)

つる性木本も多く見られた。
これはキイチゴの仲間。美味しそうな実を付けていたが、残念ながら砂ぼこりをかぶっていた。


Smilax aspera L. (サルトリイバラ科サルトリイバラ属)














標高150 m付近の一部では、サトウキビの仲間Saccharum spontaneum L. ?(イネ科ワセオバナ属)の高さ2.5 m位の密な群落が見られた。

自然植生ではなく、人為攪乱の影響を受けているように感じたが、詳しいことは分からない。

Saccharum spontaneum ?の根元。

かたい毛が生えている。

Silene sp. (ナデシコ科マンテマ属)

サトウキビ属の群落などでよく見かけた。

シソ科の草本(Lamiaceae sp.

動物も見かけた。

写真はトカゲの一種。

ゴミムシダマシの仲間。
















標高250 m辺りを超えると、低木群落の構成種が少なくなってきた。
優占しているのはレダマ Spartium junceum (マメ科レダマ属)やGenista sp. ?(マメ科ヒトツバエニシダ属?)、Cistus sp. (ハンニチバナ科ゴジアオイ属)である。

レダマ Spartium junceum

恐らくレダマで良いと思う。
マメ科の低木は様々な種類があり、種同定が難しい。

Cistus sp. 
Cistisの仲間はバラに似た美しい花を咲かせる低木で、岩場によく生えることから「rock rose」と呼ばれる。但し、バラとは科が異なる。

Cytinus hypocistis (L.) L. ?(キティヌス科キティヌス属)

Cistisに寄生する全寄生植物。春先に美しい花を咲かせるらしいが、時期柄枯れていた。
一見するとハマウツボ科のように見えるが、別科に属する。

イネ科の一種(Poaceae sp.

標高が上がると木本が減少し、それを埋めるようににイネ科草本が目立つようになってきた。

Dactylis sp. ? (イネ科カモガヤ属?)

カモガヤの仲間と思われる草本。

標高400 mの展望ポイントに着いた。ここから上へはガイド無しでは進めない。

火口までの距離は1 km強。
しばらくすると山羊が姿を現した。「ぼんっ」という噴火の音に混じって彼らの鳴き声が山中に響きわたる。

噴煙をあげるストロンボリ山。
10分~数十分おきに噴火を繰り返し、噴煙と溶岩を出す。大きめの噴火の際には1 km離れた展望ポイントでも「ぼんっ」と爆発音が聞こえるが、小規模な場合はほとんど音が聞こえず、噴煙の放出量も少ない。

火口から噴き上がった溶岩(噴石といった方が正確か?)は、山頂から続く大崩落斜面、「シャーラ・デル・フォッコ(Sciara del Fuoco)」をゴロゴロと音を立てて転がっていく。シャーラ・デル・フォッコの奥に見えるのはサリーナ島(Salina)、フィリクーディ島(Filicudi)、アリクーディ島(Alicudi)。



日没を過ぎると、日中には目立たなかった溶岩が赤色を帯びて見えてきた。

この時間帯になると洋上から噴火を見るために、ツアー船がシャーラ・デル・フォッコ付近を目指して集まってくる。

空が暗くなると、火口からは常に少量の溶岩が噴き上がっているのが分かるようになる。

爆発音と共に、激しく溶岩が上がった。

21時頃に下山を開始、22時前に標高150 mに位置するレストラン「Osservatorio」に着いた。

ストロンボリの噴火と満天の星空を見ながらの夕食は素晴らしかった。



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2017年7月28日金曜日

ストロンボリ島 町並み、海岸植生

6月25日

シチリアのミラッツォから最初に向かったのはストロンボリ島(Stromboli)。エオリア諸島北東端に位置するこの島へは、ミラッツォから高速船(ハイドロフォイル)で約3時間半かかる。

船内から見たジノストラ
船はリパリ島、サリーナ島、パナレア島を経由し、まず島の西部のジノストラ(Ginostora)集落に寄港する。なお、ジノストラに寄らない便もある。






ジノストラには東部の集落とつながる陸路はなく、陸の孤島となっている。これは、ストロンボリ島が面積12.6 km2と小さいにもかかわらず最高標高が924 mもあり、集落が成立するエリアを除けば海岸部に断崖が続き、道を作ることが困難なためである。

ジノストラを発って10分ほどで、ストロンボリ島の中心地、ストロンボリ集落に到着。港からは早速、噴煙を挙げるストロンボリ山の雄大な姿を望む。

ストロンボリ島の路地は狭く、一般的な4輪自動車は走行できない。その代わりに、3輪自動車(現地名はアペApe)とバイクが活躍している。
道沿いには土産物屋やレストラン、ジェラート屋などが並ぶ。

港から徒歩20分くらいで宿に到着。チェックインをして荷物を置く。









ストロンボリ島での主なアクティビティは、火山の噴火を見ることである。日本にも数多くの火山があるが、噴火が観光資源としてここまで生かされている場所はないと思う。
催行されているツアーには、標高900 m付近まで登り噴火を火口間近で見るもの、船上から噴火を見るもの、の2つがある。
ツアーに参加しないで登れるのは標高400 mまでで、それ以上はガイドなしでは行けない(2017年6月現在)。

僕はゆっくりと植物を見ながら登山したかったので、ツアーに参加せずに自力で歩くことにした。

高台からは洋上に浮かぶ無人島、ストロンボリッキオ(Strombolicchio)が見えた。ストロンボリッキオは古い火山の名残で、波の浸食に耐えた固い岩の部分のみが残っている。

宿から徒歩30分くらいで、海岸に到着。溶岩で出来た黒い岩礁、砂浜がいかにも火山島らしい。

海水浴を楽しむ人たちを横目に植物観察を始める。

Crithmum maritimum L.(セリ科)

岩礁に生育していたのは、ほぼ本種に限られていた。
シチリア本土の石灰岩の岩礁には、本種に加えてイソマツの仲間(Limonium)やアッケシソウの仲間(Salicornia)、多様な一年草が見られた。
これほど種構成や種多様性が異なるのは、岩の種類の違いが効いているのか、島ゆえにシチリア本土の植物がなかなか進出できないのが効いているのか、気になった。

ギョウギシバ属の一種(Cynodon sp.)。

砂浜の植物相も単純で、湿り気のある場所に数種の草本が見られた他は、本種のみが生育していた。

砂浜後背の崖地には、多年草や低木からなる植生が見られた。

ナデシコ属の一種(Dianthus sp.

日本のカワラナデシコに似た可憐な花を咲かせていた。

キオン属の一種?(Senecio sp. ?)

キオン属と思われるキク科の草本。本種も多く見られた。

他にはウマゴヤシ属の一種(Medicago sp.)や属名の分からない草本数種が見られた。

Genista sp. ?

低木群落は主に、本種とギョリュウ属の一種(Tamarix sp.)で構成されていた。









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