2013年2月28日木曜日

シマテンナンショウ Arisaema negishii


2月下旬の八丈島の林内では、ちょうどシマテンナンショウの花が見ごろであった。写真のように群生する所もあり、個体数は多かった。
雄株

シマテンナンショウArisaema negishii
は、サトイモ科の多年生草本。伊豆諸島の三宅島、御蔵島、八丈島、青ヶ島に分布する。花期は1~3月頃とのことで、島を訪れた時(2月20~23日)には山麓ではちょうど満開、三原山山頂付近では芽を出したばかりでこれから開花、という状態だった。
花とはいっても外から見えるのは花序を覆う仏炎苞、および花序の上部にある花序付属体と呼ばれるものであり、本当の花は内部の花序(肉穂花序という)に多数つくごく小さなものである。

雌株

シマテンナンショウには雄株と雌株がある。ただしイチョウなどのように雄株と雌株が個体ごとに決まっているのではなく、栄養状態のいい個体は雌花をつけ、逆によくない個体は雌花をつけるという変則的なものである。つまり、発芽後最初につける花は株が小さいため雄花だが、成長して栄養状態がよくなれば雌花を咲かすということであり、逆に何らかの要因で成長が阻害されれば前年に雌花をつけたのに雄花をつけることもある。このような生態はテンナンショウ属に広く見られ、雌雄が決定している雌雄異株に対して「雌雄偽異株」と呼ばれる。

雌花序。突起が確認できる
シマテンナンショウの雌雄の見分けとしては、雄株では花序柄(花の下の茎)が葉柄よりやや短い程度なのに対し、雌株では花序柄が葉柄より明らかに短いこと、仏縁苞内部をのぞくと雌株では花序付属体の基部に突起が見られること(これは退化した花)、などがあるそうだ。また雌雄は栄養状態によって決まるから、あいまいではあるが小さな株は雄株、大きな株は雌株だといえるだろう。

雄花序。
突起はなく、雄花(黒いつぶ一つ一つ)が確認できる。

雄花序内部をのぞいたら花粉だらけの小さなハエが死んでいた。ハエは花粉媒介の重要なパートナーのはずだから、ここで死んでしまっては花粉を運んでもらえず意味がないと思うのだが・・・。

花を咲かせた株のそばに小さな個体が見られた。最初はこれは去年落ちた種から発芽した1年目だろうと思ったが、調べたところシマテンナンショウは発芽した年は地上に葉を出さず、2年目にやっと葉を地上に広げるという生態を持つそうなので、これは発芽後2年目の個体なのだろう。




八丈島にはシマテンナンショウのほかにハチジョウテンナンショウA. hatizyoenseとウラシマソウA. thunbergii ssp. urashimaの2種のテンナンショウ属が分布する。3種の見分けとして簡単に、
・花期 
シマテンナンショウ1~3月、ウラシマソウ3~4月(ただ、今回開花始めを観察できたし、ハチジョウテンナンショウよりは早いと思われる)、ハチジョウテンナンショウ3~4月
・花序の形態 
シマテンナンショウ・・・花序付属体がムチ状に伸びて外に飛び出す。仏炎苞は緑色で白い縦筋はない。
ウラシマソウ…花序付属体がムチ状に伸びて外に飛び出す。仏炎苞は濃赤紫色。
ハチジョウテンナンショウ…花序付属体は太棒状。仏炎苞は緑、稀に紫を帯び、白い縦筋がある。
・開花株の葉の枚数
シマテンナンショウ、ハチジョウテンナンショウ・・・おおむね2枚。
ウラシマソウ…1枚。


ところで、シマテンナンショウの芋(球茎)はかつて食用として用いられていたそうである。八丈島では「茹でてもちのように搗き、噛まずにつるりと飲みこんで食べた」(八丈島の植物ガイドブックp.101より)とのことで、どんな味がするのか気になるところだ。
サトイモ科の植物にはシュウ酸カルシウムという有毒物質が含まれ、テンナンショウ属も例外ではない。そのため、テンナンショウの仲間は通常は有毒植物として扱われる。(ただし、芋を食べるよりも赤く色づく果実の誤食が主な食中毒の原因) シマテンナンショウは恐らく、このシュウ酸カルシウムの含有量が比較的少ないのだろう。ちなみに、ウラシマソウは姿は似ているものの食用とはならず、シマテンナンショウが「へんご、まへんご」と呼ばれていたのに対し、食べると口の中が腫れあがるために「ぱれへんご」と呼ばれていたそうだ。


参考 
・厚生労働省 自然毒のリスクプロファイル:高等植物:テンナンショウ類
http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/poison/higher_det_12.html (2013年2月28日現在)
・八丈島の植物ガイドブック 発行 八丈島観光振興実行委員会 2007年5月1日初版第1刷発行 
・原色植物分類図鑑 日本のテンナンショウ 邑田 仁著 北隆館



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