2012年2月26日日曜日

未記載属未記載種のゾウムシ発見の報告

最初にこのゾウムシに見つけたのは、昨年の5月のこと。
室内をひょこひょこと歩いているのを発見した。
とはいっても、ぱっと見どこにでもいそうな変哲のない地味なゾウムシである。その時は、「家の中にいたということは室内のどっかから発生したのかなぁ」とは思いながらベランダに逃がしてしまった。


サキシマスオウノキの果実。左の方に穴があいている。
それからしばらくして、2月に西表島で拾ってきたサキシマスオウノキの果実に穴があいているのを発見した。
「もしかして、この前のゾウムシはサキシマスオウノキの実から発生したのではなかろうか・・・」
そう思いつき、ネットや文献で調べてみた。しかし、それらしい情報は見つからなかった。また、サキシマスオウノキの果実にいつから穴が空いていたのかは分からず、そのため本当にゾウムシと関連があるのか断定することもできなかった。


10月、再び西表島を訪れ、サキシマスオウノキの果実をいくつか拾ってきた。
帰ってきてしばらくして・・・またゾウムシが発生した。 しかも、サキシマスオウノキの果実を入れた袋からである。みると、果実には穴が空いていた。
ゾウムシの足元に食痕が見える
試しに、栽培していたサキシマスオウノキに止まらせると、新芽や樹皮をどんどん食べた。「間違いない、このゾウムシは、幼虫も成虫もサキシマスオウノキに依存して暮らす種類だ」
そう思って再び文献やネットで調べはじめたが、またも情報は一向に見つからず。
ここである考えが浮かんできた。
「幼虫がサキシマスオウノキの果実内部を食べ、穴を開けて成虫が出てくるというこのゾウムシの生態はかなり変わったものだ。だから、もしこのゾウムシが既に知られている種ならそういう情報が出てくるはずである。しかし、それらしい情報が出てこないということは、もしや新種(※)なのではあるまいか・・・?」
また、こういう風にも考えた。
「僕が少しだけ拾ってきたサキシマスオウノキの果実から複数発生するなら(2月に拾ったものから2匹、今回は4匹発生した。(ただし、4匹中2匹は途中で脱走し行方不明))、恐らくそんなに珍しい虫ではないだろうし、既に知られた種である可能性が高いだろう。しかし、既知種だあったとしても生態についてはまだ知られていないということもありうるのではないか?」

新種かもしれないし、そうでないかもしれないが、折角の機会だからと考え、専門家の方に聞いてみることにした。
まず、沖縄大学准教授の盛口さんにメールをしてみた。すると、知り合いの知り合いに、吉武さんというゾウムシ屋さんがいて、その人が標本をもらえれば同定を行ってくれる、との返信が帰ってきた。
早速、吉武さんにメールをしてみた。
写真、それに僕が確認できた生態(サキシマスオウノキの果実から発生、成虫はサキシマスオウノキの葉や樹皮を食べる)について書いて送ったところ、
「こちらで把握している未記載種の可能性が高いと思います。サンプルを送ってください。」との返信があった。
それからまもなく、ゾウムシ2匹、穴のあいたサキシマスオウノキの果実、それに採集地、氏名、その他備考を書いた紙をまとめて吉武さんにお送りした。それが去年の12月末のことである。

それから2ヶ月弱。
吉武さんからメールが来た。
「クチカクシゾウムシ族の未記載属未記載種(新属新種)、和歌山県立自然博物館の学芸員の方も西表島のサキシマスオウノキ種子(果実か?)から羽化させておられるそうだ。九州大学名誉教授の方が、その他のクチカクシゾウムシ類に関する新知見とともに発表されると思う。」とのことであった。

つまり、今回のゾウムシは新属新種のゾウムシということである(名前はまだない)。自分はゾウムシを見つけて、専門家の方に送りつけただけではあるが、新種発見に関われたことはとてもうれしい。新種発見なんて今まで夢のような話だったから。

それでは、クチカクシゾウムシ族の未記載種ゾウムシを写真で改めて紹介する。

まず、横から。
大きさは1センチを少し超えるくらい。
(不覚にも計測するのを忘れてしまった)




次に背面から。
翅に2つの黒点であること、胸(昆虫の頭と腹の間の部位のこと)に2本の黒い筋があることが特徴である。









また、僕は次のように考えている。本種の幼虫はサキシマスオウノキの果実を食べ、成虫になる。そして、サキシマスオウノキの果実は海流で散布される。
そのことから、このゾウムシはサキシマスオウノキの果実とともに海流にのって分布域を広げる種なのではないか、と。
だとすれば、サキシマスオウノキの分布域には広くこのゾウムシが生息している可能性があると思う。


※追記(2015年3月)
この記事を書いた時には理解していなかったのですが、正確には「新種のゾウムシ」ではなく「未記載種のゾウムシ」です。未記載種というのは、現時点で分類学的位置づけが明らかでない生物、簡単に言えば「名前が付けられていない」生物を指します。
「新種」という言葉は、今まで名前のついていなかった生物(=未記載種)が、これまで知られていた種と異なるものであることが認められ、正式に命名が行われた時(要するに論文発表されるとき)に使われるものです。
なので、厳密には「新種」という語を使えるのは九州大の先生が論文として報告した後になります。その時に、「和歌山県博の学芸員さんと僕(他にもいらっしゃるかもしれない)が、それぞれに別に見つけたゾウムシの一種が、この度九大の先生によって○○ゾウムシとして新種記載された」と言うことができます。


それに従い、本文で「(新属)新種」と書いた部分を「(未記載属)未記載種」に直そうとも考えましたが、ひとまず題名を除いて現状維持としました。今後直すかもしれません。














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