2015年2月18日水曜日

ワダンノキの花の匂いを嗅ぐ

1月11日

母島の乳房山で観察したワダンノキ。
花期は11~12月と聞いていたが、まだ咲き残りの花が見られた。

前回記事はこちら→
「ワダンノキDendrocacalia crepidifolia」


花の拡大。
紫色の花びらを持った小さな花の集まりであることが分かる。
小さな花が一か所から5つずつ咲く。この5つの花のまとまりを「頭花」という。




ノジギクの花


ワダンノキに限らず、キク科植物の花はこの頭花で、一見一つに見える花は沢山の小さな花(小花)の集まりである。
ただ、よく知られる菊やタンポポは小花の数が多く、また大きな花びらを持つ花(舌状花)も付けて鮮やかなので、随分雰囲気が異なる。




ちなみに、ワダンノキは雌雄異株(雄株と雌株に分かれる)だそうだ(Kato & Nagamasu 1995)。
この論文では雄花と雌花の違いとして、「雄花では葯から花粉を多く出すが、雌花ではほとんど出さない」、ということが区別の一つとして挙げられている。撮影した花の雄しべからは、黄色い花粉が沢山出ている様子が確認できるので、これは雄花ということだろうか。写真を見返すと、今回撮影したものは全て雄花だったようである。

ワダンノキが雌雄異株ということは、帰宅後に初めて知った。事前に雌雄があることを知っていれば、観察する目も違っていたのかな、と少々残念である。



ひときわ沢山の花を付けたワダンノキの横を通過した時、辺りに匂いが漂っていることに気が付いた。発信源はワダンノキの花であった。
決してよい香りとは言えず、僕は真っ先に納豆を思い浮かべた。




シイノキ、クリ、ガマズミの仲間、サトイモ科のテンナンショウ属など、人にとって不快と感じる臭気を発する花はそれなりに多い。しかし、「納豆のような」匂いの花は自身の経験上では初めてだった。

変わった香りを持つのだから、ワダンノキの花にはそれに見合った特定の虫が来るのではないか、と考えた。
観察時は訪花昆虫を確認できなかったので、帰宅後に少し調べてみた。

Kato & Nagamasu( 1995)によれば、現在の訪花昆虫の大半は外来種のセイヨウミツバチApis mellisferaであり、かつては固有のハナバチが送粉の役割を担っていたとのことであり、また郷原 (2002)はオガサワラクマバチを候補に挙げている。
また、小笠原の自然を紹介するサイト「ガイドの日記帳~つれづれなるままに~」では、小さなハエが訪花していたことが書かれている。

これらの情報から、ワダンノキは特定の虫がパートナーというよりも、様々な虫を送紛者としている、と言えそうだ。
安部(2009)によれば、小笠原諸島のような海洋島における送粉系(植物と送紛者との関係)は多くの場合一対一でなく、特定の種にこだわることなく様々な花を訪れる虫により成り立つそうだ。ワダンノキもこれに当てはまることが考えられる。


僕はワダンノキの独特な花の香りは、特定の虫を呼ぶためのものだ、と思い込んでいたが、実際には一種の昆虫ではなくハチやハエなど様々な虫を呼び寄せるための工夫ということなのだろう。「匂い」は色と異なり、姿が見えなくても感知できる。
外来種のミツバチが主要な送粉者とされているけれど、もしかすると、夜行性の昆虫の存在も案外重要なのではないか、と思ったりもする。


ワダンノキの果実。タンポポなどと似ている





ワダンノキの芽生え。ただし日当たりが悪く、生長は困難

























<引用・参考文献、サイト>
安部哲人 2009. 小笠原諸島における送粉系攪乱の現状とその管理戦略. 
  地球環境 Vol.14 No.1: 47-55.
Kato Makoto, Nagamasu Hidetoshi 1995. Dioecy in the Endemic Genus
  Dedrocacalia (Compositae) on the Bonin (Ogasawara) Islans.
  Journal of Plant Research, 108(4):443-450. 
  (ただし、全文の入手は有料のため、要約と本文の一部のみ参照。)
郷原匡史(2002)小笠原諸島のハナバチ相とその保全.  杉浦ほか(編) 
  ハチとアリの自然史. 北海道大学図書刊行会: 229-245.
  (ただし本文に当たれなかったので、牧野俊一 2004. リレー連載レッド
  リストの生き物たち 15 オガサワラクマバチ. 林業技術 No.774: 36-37 から
  の孫引き)
清水善和 2001. 小笠原諸島におけるワダンノキの現状と更新様式. 
  駒澤地理 No.37: 17-36.
豊田武司 2014. 小笠原諸島 固有植物ガイド. 株式会社ウッズプレス, 東京. 
ガイドの日記帳 ~つれづれなるままに~ ワダンノキ
  http://hahajimaguide.seesaa.net/article/128716947.html
  (2015年2月7日閲覧)




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2015年2月3日火曜日

小笠原の植物 ワダンノキDendrocacalia crepidifolia

1月12日

母島の乳房山遊歩道を散策した。標高461mの乳房山は母島最高峰であり、多くの固有植物を観察できるルートである。

遊歩道沿いで見られる植物の一つがワダンノキDendrocacalia crepidifolia。
キク科の木本で、小笠原諸島の固有属、固有種。母島とその属島に見られる。




本種の特徴は、草本が大半のキク科にあって木本であること。観察した個体のうち、最も大きなものでは目測で高さ約5m、根元直径15cmに達していた。






木本のキク科は少ないとはいえ、日本国内に限ってもコウヤボウキ、ハマギク、モクビャッコウなどがあり、小笠原諸島では他にヘラナレンとユズリハワダンの2種が木本になる。しかし、これらは茎が木質化するものの肥大生長はあまりせず、背丈前後の低木に過ぎない。
このため、日本で立派な木になるキクはワダンノキだけ、と言ってよいだろう。


本種の生育地は主に母島の山地尾根部に限られる。小笠原諸島では、標高300mを超えた辺りから霧がかかりやすい環境となり、雲霧帯と呼ばれる。ワダンノキはこの雲霧帯の住人と紹介されることが多い。実際、今回林道沿いのワダンノキの個体位置を記録していったところ、最低標高320mの辺りで生育が途切れた。
しかし、単純にワダンノキを雲霧帯特有の植物と決めつけることはできないようだ。記録によれば母島の海食崖の標高100メートル付近まで生育が確認されているという(小野,奥富1985)。また、母島属島の湿性地にもわずかに分布し、さらに小笠原群島北端の聟島列島でもかつて生育があったという(小野,奥富1985, 豊田2014)。母島の低標高地や他の島の標高では、雲霧帯は存在しえない。このため、霧がかかるかどうかは生育のための絶対条件ではないらしい。

小笠原の植物を長年研究されている豊田氏も、著書の中で本種を「雲霧帯植物」とすることに疑問を呈している。


乳房山中腹のヒメツバキ優占林
他の要因を考えてみる。

母島において、水分条件のよい場所ではヒメツバキやアカテツ、シマホルトノキなどを中心とした高木林が成立し、乳房山の稜線以外の大部分もそうである。ワダンノキは木本とはいえそこまで大きくなる種ではなく、また陽地を好むとされる。高木林が安定して成立する場所では生育が困難と思われる。
また、低標高の尾根は高木が少なく草原や低木林が成立するため、競争相手の面では問題なさそうだが、ここはとりわけ高い乾燥ストレスがかかる場所である。


これらのことから、ワダンノキは雲霧帯を好む種というよりも、競争相手の高木が少なく、また乾燥が激しくないことが生育に重要で、たまたま雲霧帯の尾根部がそれに合致した環境ということなのではないかと思う。
とはいえ、本種が母島の雲霧帯の稜線付近で主に見られる種である、とすることには問題はないだろう。


母島の稜線部ではツルアダン(固有種とするならタコヅル)の繁茂が著しいのも特徴である。

ツルアダンは樹木に付着根ではりつきながら高木層まで達するが、支えのない尾根部では2メートルくらいの高さである。

左写真は、ツルアダン群落中に生育するワダンノキ。
このように、ワダンノキは成木になればツルアダンよりも樹高が高くなる。しかし、幼個体は暗いツルアダン群落内で成長できないので、世代交代が困難になるそうだ。現状、ワダンノキの更新はうまくいかず、減少傾向にあるとのことである(清水2001)。

清水(2001)によれば、ツルアダンに加えて外来種のアカギの侵入が今後の更新に影響を与えるかもしれないという。





外来種のアカギはともかく、ツルアダンによってワダンノキの更新が妨げられるのは、自然の摂理で仕方がないのではないか、と考えることもできる。しかし、実際はそう単純な問題ではないらしい。




左写真は、母島にあるロース記念館で展示されていた戦前の母島の写真。中央付近に高くそびえているのが乳房山である。
光の反射で少々分かりづらいが、山のかなり上の方まで畑が広がっているのが見てとれる。

現在緑豊かに見える母島の山地も、かつてはサトウキビ畑などが山頂近くまで開墾され、今見ることができる林の多くは二次林である。確かな情報は見つけられていないが、稜線の広大なツルアダン群落も本来の植生ではなく、二次的なものである可能性がある。


これは推論にすぎないが、かつての稜線は今よりもツルアダンが少なく、森林(低木林?)が成立していたのではないだろうか。台風が来てもほとんどビクともしないツルアダンと異なり、樹木は強風でしばしば倒れる。樹木が倒れてできた日当たりのよい場所に、真っ先にワダンノキが入り込んで世代交代していたのかもしれない。

ワダンノキの現状が人間によって作られたものだとしたら、ツルアダン群落の一部伐採など、人為的な管理もやむをえないだろう。


2月7日追記
ワダンノキに関してもう一つ記事を書きました。「ワダンノキの花は納豆の匂い」
よろしければ見てください。


参考
小野幹雄・奥富清 1985. 小笠原の固有植物と植生. アボック社.
清水善和 2001. 小笠原諸島母島におけるワダンノキの現状と更新様式. 駒澤地理 No.37.
豊田武司 2003. 小笠原植物図譜 増補改訂版. アボック社.
豊田武司 2014. 小笠原諸島 固有植物ガイド. ウッズプレス.



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2015年1月20日火曜日

シマゴショウ Peperomia boninsimensis その種子散布について

2015年1月

固有種のヒメツバキ、タコノキ等から成る森林
小笠原諸島を訪れた。

大陸と一度も繋がったことのない海洋島の小笠原は、ここでしか見ることのできない固有の生物が多く、このうち植物は自生種の約4割が固有種である。

コショウ科のシマゴショウPeperomia boninsimensisも固有種の一つ。小笠原諸島のうち父島、兄島、母島、それから火山列島に分布する。
四国・九州~琉球の海岸近くに生育するサダソウP. japonicaなどが近縁種とされる。
海から離れた林内の樹木の幹や岩などに張り付くように生育し、とりわけ霧がかかりやすい高標高域で個体数が多いようだ。


シマゴショウは茎の先に花序を上向きに付け、小さな花を咲かせる。花後に付ける果実も大きさ約1mmと目立たない。

サダソウ(ペペロミア)属の植物は多肉質の葉などが美しく、観葉植物に広く用いられるが、多くの種が同様に地味な花と果実を付けるようである。


しばらく観察しているうちに、手に細かな粒が付着していることに気が付いた。
シマゴショウの果実である。たまたま花序を触った際にくっついたらしい。
軽く払ったくらいでは外れないことから、小さなトゲか粘液を出しているのではないか、と考え、果実を詳しく観察することにした。

手持ちのデジタルカメラ(STYLUS TG-3)のマクロモードで撮影する。

拡大してみると、果実の表面に白色のボツボツが沢山生えていることが分かった。カギ針が生えているか、粘液で覆われているか、と考えていたので、思いがけない構造に驚く。

後日、図鑑を開いてみると、この構造について、「子房は球形で表面に乳頭状突起がある」(小笠原諸島 固有植物ガイド 豊田武司)と記述があり、以前から知られていたものと分かった。果実の中には1個の種子が入っているとのことである。


許可なしの採取はできないので顕微鏡などでの観察はできなかったが、果実に他の目立った構造物はなく、粘液で覆われている様子もないので、恐らく乳頭状突起が”のり”のような役割を果たしているのではないかと思う。
シマゴショウは、果実の特徴から何者かにくっ付いて分布を広げる「付着散布」の戦略を取っていると考えられる。

シマゴショウのように木の幹や岩などに張り付いて育つ植物を「着生植物」といい、シダ植物やラン科植物などが主なメンバーである。彼らは非常に細かい胞子や果実(種子)を風で飛ばし、樹上にたどり着くことができる。
シマゴショウの果実は小さいとはいえ、風で飛ばされるほどのものではなく、どうやって樹上や岩上にたどりついたのか疑問だったが、恐らく樹上を歩き回る小動物の体表にくっ付いてあちこちに運ばれているのだろう。小笠原諸島において、固有種のメグロやハシナガウグイスなどの小鳥、外来種のクマネズミなどがその役割を担っているのかもしれない。
もっと大きな時間スケールで考えると、付着散布という特性を持っていたがために、シマゴショウの祖先は鳥にくっ付いて小笠原にたどり着くことができたのかもしれない。

近縁のサダソウの果実も良く似た構造を持つようで、同様に付着散布であることが伺える。他のサダソウ属Peperomiaの植物がどのような種子散布戦略を持つのか、気になるところである。


<参考・引用>
・小笠原諸島 固有植物ガイド, 豊田武司著, 株式会社ウッズプレス発行, 2014年12月15日 初版第1刷発行

 ・愛媛県レッドデータブック2014 サダソウ
http://www.pref.ehime.jp/reddatabook2014/detail/09_08_005690_2.html(2015年1月20日閲覧)






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2014年11月16日日曜日

ヒメシロアサザの種子散布 その2

11月14日

先日から次々と種子を放出しているヒメシロアサザNymphoides coreana 。
前回の記事(→リンク)で、種子が表面張力によって水面に浮かび、水の流れで散布されるらしい、ということを書いた。

では、果実から出た種子がどのようにして水面へと達するのだろうか。

ヒメシロアサザの果実。

まず、果実を付けた花柄が水面近くまで伸び、果実が水面で割れることで種子が浮かぶのではないか、と考えた。
しかし、少なくとも我が家の栽培株においては、成熟したと思われる果実を付けた花柄も多くが下を向き、水面近くまで達することはなかった。

そこで、水中で果実が割れた場合に種子がどのように水面へ到達するのかを確かめることにした。
果実が割れる瞬間をずっと待ち続けるわけにはいかないので、果実を水中で強制的に割ることにした。

果実に割れ目を付け、種子を押し出す。
すると、種子とともに気泡が姿をあらわした。

種子をまとった気泡はそのまま水面へと上昇、気泡がはじけると同時に種子は水面に浮かび上がった。

外部から空気が入り込まない水中での実験であり、自然状態でもこれに近い形で水面へと運ばれるのではないかと思う。



種子ではないが、沖縄の海に生えるウミショウブは、水中で形成された雄花が気泡とともに浮かび水面を滑走して雌花にたどり着くことで有名で、時々メディアでも紹介される。
ヒメシロアサザの種子散布はそれを彷彿させるもので、興味深いものだと思った。





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2014年11月13日木曜日

ヒメシロアサザの種子散布

花期の様子。花径は1cm以下と小さい
2014年10月31日

栽培しているヒメシロアサザNymphoides coreana が今年も結実した。
埼玉県のとある工事予定地の休耕田から希少種を移植するアルバイトに参加した際、無数に発芽していた幼個体をいくつかいただいたものだ。



本種は自家受粉を行うためよく結実する。
環境さえ整えば爆発的に増える種と思うが、現状は開発などの影響を受け、国のレッドデータブックで絶滅危惧Ⅱ類。採取地の埼玉県では絶滅危惧Ⅰ類に指定される。

割れた果実から飛び出した種子は水面に浮かぶ(そのまま水底に沈むものもあるかもしれないが)。
茶色い粒々が浮かんでいるのを見つけた時、最初はそれが何なのか見当がつかなかったが、しばらくしてヒメシロアサザのものと気づいた。


表面張力で浮かんでいるようでちょっと突くだけで沈む。自然界でも水面を流れて移動した種子が、波などを受けて適当な所で沈み、広がっていくのだろう。
種子や果実の内部に空気をため、その浮力で浮かぶ戦略を取る植物は多いが、表面張力を利用するものはあまり多くないと思うので、面白い。


・11月15日 追記
追加の記事を書きましたのでリンクを貼ります。
→「ヒメシロアサザの種子散布 その2」

・11月26日 追記
ヒメシロアサザの種子散布について、記事を書いた時にはそれに関する情報を見つけられなかったのですが、その後に「ため池の自然-生き物たちと風景 (浜島繁隆・土山ふみ・藤蔵繁生・増田芳樹 編著 信山社サイテック 2001年」に、ヒメシロアサザの種子について、”種子の表面は水をはじき1~2日浮遊した後沈むが、その間、水の働きで種子散布が行われる”、との記述を見つけました。この本の記述は著者の一人の浜島さんの論文が引用されているようなので、そちらにはもっと細かい内容が書かれているのかもしれません。機会があれば読んでみたいと思います。

ただ、僕が観察した限りでは種子は1~2日の浮遊ののちに沈む、というよりも、波などの影響で適当なタイミングで沈む(言い換えれば穏やかな水面では自動的に沈むことなくかなり長時間浮かび続ける)のではないかと思います。自生状態を観察したことがないので、偉そうなことは言えないのですが・・・。






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2014年10月24日金曜日

佐渡の植生 海岸湿地の植物たち

10月21、22日

佐渡の西側の海岸で、塩性湿地に生える植物を観察した。

自然豊かな佐渡島であるが、大部分の海岸線で護岸工事やテトラポットの設置がなされており、海岸が自然のまま良好に保たれている場所はそう多くない。人の生活圏と接する海岸植生は開発の影響を受けやすく、今日の佐渡において特に脆弱な存在の一つであると考えられる。



岩礁海岸に成立する植物群落。小さな岬の付け根に当たる場所であり、多少なりとも日本海の荒波から守られていると思われた。
右側の赤茶色で背丈の低い群落の主な構成種はヤマイFimbristylis subbispicata (カヤツリグサ科)、左側の背丈の高い群落の構成種はヨシPhragmites australis (イネ科)とシオクグCarex scabrifolia (カヤツリグサ科)など。


(写真は佐渡の別の場所で撮影したもの)
海側の最前線に主に見られたのがウミミドリLysimachia maritima (サクラソウ科)。

北方系の植物で、佐渡は分布の南限に近い。(日本における分布南限は石川県の能登半島)

卒論で、東北の海岸に成立する湿地の植生を扱った自分にとってはなじみ深い植物である。



ヤマイ群落内から流れ出る水
塩性湿地というと塩分(海水)の影響が着目されやすいが、実際には陸側からの淡水の流入も大きく影響していると思われる。

つまり、塩性湿地の水質は海水とイコールではなく、海水と淡水の混じった汽水である。

陸側から流れ込む水が開発等により遮断されたり、または極度に汚染された場合、塩性湿地の植物たちに何らかの影響が及ぶことも考えられる。


この場所でも明らかに陸側から水が流れ込んできており、ヤマイはその水が流れたり湧き出していると思われる場所に生育していた。

写真では分かりづらいと思うが、靴の先の辺りを右から左へ水が流れていた。

その他に見かけたもの。

左写真はドロイJuncus gracillimus (イグサ科)。
イヌイとも迷ったがおそらく本種。

湿地に生えていたものとしては、他にトウオオバコ、アキノミチヤナギなど。

湿地の背後の礫地にはハマゴウVitex rotundifolia が生育していた。

ハマゴウは暖かい地域の海岸を代表する低木で、本州の暖温帯域の海岸を北限に、沖縄の海岸でも普通に見かける。



北方系のウミミドリが生育する湿地の背後にハマゴウが生える構図は、通常異なる気候下で生育する植物が同所的に見られる佐渡を象徴するかのようで、とても面白かった。

佐渡島の希少植物のうち海岸植物として、ウミミドリをはじめ北方系のハマベンケイソウやハマハコベなどが挙げられているが、今回の観察では発見できなかった。次回訪れた時は見つけたいと思う。



<参考>
・Y List 植物名検索
http://bean.bio.chiba-u.jp/bgplants/ylist_main.html (2014年10月24日現在)
 

・高木政喜・白井伸和 2013.  上野海岸におけるウミミドリの生育環境 ~植生調査と土壌塩分濃度の測定から~, , 石川県立自然史資料館研究報告 第3号 : 1-9.
http://www.n-muse-ishikawa.or.jp/motto/docs/%E7%A0%94%E5%A0%B13%E5%8F%B7_1-9.pdf(2018年2月28日現在)
※2018年2月28日 リンク先を修正しました





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佐渡島の植生 安養寺のブナ林

10月22日

植生学会の観察会で佐渡島を訪れた。


今回訪れた場所のひとつが安養寺。
大佐渡山地と小佐渡山地に挟まれた国中平野に位置する。

標高約60mの当地には佐渡島で最も低標高に成立しているブナ林が見られる。

ブナ林の外観。


林内。

白っぽい樹皮の木がブナ、真ん中の褐色の木はスギ。高木層には他にアカシデ、ホオノキなどがあった。
スギは佐渡島では自然林の構成種で、尾根部にスギ林も形成しているが、お寺の隣なので植栽起源かもしれない。

林床を覆う低木は日本海側のブナ林の構成種のひとつであるヒメアオキ。

丸く大きな葉が特徴のオオカメノキ(ムシカリ)。
本種もブナ林の低木層の重要な構成種。

このように、安養寺のブナ林ではブナだけでなく、ブナ林を構成する植物が多く出現していた。
低木としては上記以外にハイイヌツゲ・エゾユズリハ・オオバクロモジ・ハウチワカエデ、ヤマモミジなど、草本としてコシノカンアオイなどが見られた。

(背後に写るサクラはウワミズザクラ、ササは恐らくヤダケ。)

ブナ林、つまり冷温帯域の植物が多く見られる一方で、暖温帯の常緑広葉樹林(照葉樹林)で見られる植物も混生していた。

写真の右側に写るのは、冷温帯で見られるヒノキアスナロ、左側に写るのは常緑広葉樹林の構成種であるシロダモ。

主に暖温帯で見られる植物として他に見られたものはヒサカキ、ヤブコウジ、ヤブツバキなど。少し離れた所ではスダジイの大木もあった。
ちなみに小佐渡山地では日本海側ブナ林に生育するユキツバキも見られるそうだが、ここではヤブツバキのみ。


当地の気候は、気温をもとにすれば暖温帯域に属するといえる。
最も近いアメダス(両津)で観測された1981年~2010年平均の月別平均気温をもとにWI(温量指数)、CI(寒さの指数)を算出すると、WI=105.5、CI=-4.5となる。
暖温帯のWIは85~180、CIは-10以上とされているので、これに当てはまる。
両津のアメダスの標高は5mと少し低いが、安養寺の気候もこれと大きくは違わないはず。

(WI(温量指数)については説明が長くなるので、詳しくは「Wikipedia 暖かさの指数」などを参考にしていただければ、と思います。)

ブナの幼個体(高さ約40cm)。発芽から5年くらいだろうか。
暖温帯域でブナが見られる例はいくつかあり、例えば東京近郊で有名なのは高尾山のものがあげられる。
高尾山のブナは、200~300年位前の小氷期の時代に生育したものの生き残りと言われ、現在残るのはいずれも成熟個体。充実した果実が形成されず、次世代への更新はできていないと考えられている。

一方、佐渡の安養寺のブナ林では少ないながらも幼個体が見られた。また、亜高木~高木層に達した個体も直径は様々で、一次的に成立して消えつつある群落ではなく、ある程度持続的な群落であると思われた。

伊藤邦男氏の1984年の調査報告によれば、安養寺のブナ林のブナの樹高や幹径は小さく、その他の構成種などから「伐採など人為の加わった若いブナ林の特徴」があるという。
つまり、安養寺のブナ林は原生的な森林ではなく、人為が大きく加わった存在であると考えられる。お寺の周囲は田畑が広がり、人々の生活空間にきわめて近い場所に成立していること、近くには雑木林でよく見られるコナラやクヌギなどが見られたことからもそれが伺えた。

暖温帯域の二次林、つまり雑木林には冷温帯域で主に見られる植物が構成種に現れるというが、佐渡でも本来、スダジイを始めとした暖温帯の植物が生育する場所に、人の手が適当に加わり続けたことで、ブナを始めとする冷温帯の植物が進出して両気候帯の植物が混在する独特の森林が形成されたのかもしれない。(

ただ、佐渡島では異なる気候帯(暖温帯~亜高山帯)の植物が同時に現れる例がしばしば見られるので、人為だけでなく佐渡特有の気候(雪、強風、暖かい冬と涼しい夏など)が成立に関わっているのかもしれない。佐渡島低地の自然林がほとんど残っていないので、この場所が元々ブナ林が成立する条件であるのか、それとも常緑樹林が成立するのか、この2つが混じった林ができるのかは何とも分からない。

伊藤氏の調査からちょうど30年たった今、報告に書いてあったよりもブナは大きくなり、また高木に挙げられていたアカマツはほとんど枯れていたようだった。また、「林内には林縁に生育する植物が多く見られる」という内容の記述があったが、今回はそれらの植物はそれほど目立っていなかったように感じた。
安養寺のブナ林は、今の姿のまま安定することなく、これからも少しずつ姿を変えていくのではないだろうか。




<参考文献・URL>
・植生管理学, 福島司著, 朝倉書店, 2006年3月30日 第2刷

・佐渡の花 携帯版, 伊藤邦男・村川博實著, 山歩きガイドクラブ, 2008年3月31日 改訂版第2刷

・気象庁 過去の気象データ検索
http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/index.php?prec_no=54&block_no=0518&year=&month=&day=&view=(2014年10月23日現在)

・佐渡の貴重な植物群落1 佐渡:安養寺のブナ林 佐渡における最低海抜のブナ林, 伊藤邦男
http://dspace.lib.niigata-u.ac.jp/dspace/bitstream/10191/10222/1/03_05_0006.pdf (2014年10月23日現在)

・Wikipedia 暖かさの指数 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9A%96%E3%81%8B%E3%81%95%E3%81%AE%E6%8C%87%E6%95%B0 (2014年10月23日現在)

・高尾通信 1-5 元禄ブナの危機
http://www.takaosan.info/mame1-5.html (2014年10月23日現在)


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