2015年2月3日火曜日

小笠原の植物 ワダンノキDendrocacalia crepidifolia

1月12日

母島の乳房山遊歩道を散策した。標高461mの乳房山は母島最高峰であり、多くの固有植物を観察できるルートである。

遊歩道沿いで見られる植物の一つがワダンノキDendrocacalia crepidifolia
キク科の木本で、小笠原諸島の固有属、固有種。母島とその属島に見られる。




本種の特徴は、草本が大半のキク科にあって木本であること。観察した個体のうち、最も大きなものでは目測で高さ約5m、根元直径15cmに達していた。






木本のキク科は少ないとはいえ、日本国内に限ってもコウヤボウキ、ハマギク、モクビャッコウなどがあり、小笠原諸島では他にヘラナレンとユズリハワダンの2種が木本になる。しかし、これらは茎が木質化するものの肥大生長はあまりせず、背丈前後の低木に過ぎない。
このため、日本で立派な木になるキクはワダンノキだけ、と言ってよいだろう。


本種の生育地は主に母島の山地尾根部に限られる。小笠原諸島では、標高300mを超えた辺りから霧がかかりやすい環境となり、雲霧帯と呼ばれる。ワダンノキはこの雲霧帯の住人と紹介されることが多い。実際、今回林道沿いのワダンノキの個体位置を記録していったところ、最低標高320mの辺りで生育が途切れた。
しかし、単純にワダンノキを雲霧帯特有の植物と決めつけることはできないようだ。記録によれば母島の海食崖の標高100メートル付近まで生育が確認されているという(小野,奥富1985)。また、母島属島の湿性地にもわずかに分布し、さらに小笠原群島北端の聟島列島でもかつて生育があったという(小野,奥富1985, 豊田2014)。母島の低標高地や他の島の標高では、雲霧帯は存在しえない。このため、霧がかかるかどうかは生育のための絶対条件ではないらしい。

小笠原の植物を長年研究されている豊田氏も、著書の中で本種を「雲霧帯植物」とすることに疑問を呈している。


乳房山中腹のヒメツバキ優占林
他の要因を考えてみる。

母島において、水分条件のよい場所ではヒメツバキやアカテツ、シマホルトノキなどを中心とした高木林が成立し、乳房山の稜線以外の大部分もそうである。ワダンノキは木本とはいえそこまで大きくなる種ではなく、また陽地を好むとされる。高木林が安定して成立する場所では生育が困難と思われる。
また、低標高の尾根は高木が少なく草原や低木林が成立するため、競争相手の面では問題なさそうだが、ここはとりわけ高い乾燥ストレスがかかる場所である。


これらのことから、ワダンノキは雲霧帯を好む種というよりも、競争相手の高木が少なく、また乾燥が激しくないことが生育に重要で、たまたま雲霧帯の尾根部がそれに合致した環境ということなのではないかと思う。
とはいえ、本種が母島の雲霧帯の稜線付近で主に見られる種である、とすることには問題はないだろう。


母島の稜線部ではツルアダン(固有種とするならタコヅル)の繁茂が著しいのも特徴である。

ツルアダンは樹木に付着根ではりつきながら高木層まで達するが、支えのない尾根部では2メートルくらいの高さである。

左写真は、ツルアダン群落中に生育するワダンノキ。
このように、ワダンノキは成木になればツルアダンよりも樹高が高くなる。しかし、幼個体は暗いツルアダン群落内で成長できないので、世代交代が困難になるそうだ。現状、ワダンノキの更新はうまくいかず、減少傾向にあるとのことである(清水2001)。

清水(2001)によれば、ツルアダンに加えて外来種のアカギの侵入が今後の更新に影響を与えるかもしれないという。





外来種のアカギはともかく、ツルアダンによってワダンノキの更新が妨げられるのは、自然の摂理で仕方がないのではないか、と考えることもできる。しかし、実際はそう単純な問題ではないらしい。




左写真は、母島にあるロース記念館で展示されていた戦前の母島の写真。中央付近に高くそびえているのが乳房山である。
光の反射で少々分かりづらいが、山のかなり上の方まで畑が広がっているのが見てとれる。

現在緑豊かに見える母島の山地も、かつてはサトウキビ畑などが山頂近くまで開墾され、今見ることができる林の多くは二次林である。確かな情報は見つけられていないが、稜線の広大なツルアダン群落も本来の植生ではなく、二次的なものである可能性がある。


これは推論にすぎないが、かつての稜線は今よりもツルアダンが少なく、森林(低木林?)が成立していたのではないだろうか。台風が来てもほとんどビクともしないツルアダンと異なり、樹木は強風でしばしば倒れる。樹木が倒れてできた日当たりのよい場所に、真っ先にワダンノキが入り込んで世代交代していたのかもしれない。

ワダンノキの現状が人間によって作られたものだとしたら、ツルアダン群落の一部伐採など、人為的な管理もやむをえないだろう。


2月7日追記
ワダンノキに関してもう一つ記事を書きました。「ワダンノキの花は納豆の匂い
よろしければ見てください。


参考
小野幹雄・奥富清 1985. 小笠原の固有植物と植生. アボック社.
清水善和 2001. 小笠原諸島母島におけるワダンノキの現状と更新様式. 駒澤地理 No.37.
豊田武司 2003. 小笠原植物図譜 増補改訂版. アボック社.
豊田武司 2014. 小笠原諸島 固有植物ガイド. ウッズプレス.



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