2015年2月18日水曜日

ワダンノキの花の匂いを嗅ぐ

1月11日

母島の乳房山で観察したワダンノキ。
花期は11~12月と聞いていたが、まだ咲き残りの花が見られた。

前回記事はこちら→
ワダンノキDendrocacalia crepidifolia


花の拡大。
紫色の花びらを持った小さな花の集まりであることが分かる。
小さな花が一か所から5つずつ咲く。この5つの花のまとまりを「頭花」という。




ノジギクの花


ワダンノキに限らず、キク科植物の花はこの頭花で、一見一つに見える花は沢山の小さな花(小花)の集まりである。
ただ、よく知られる菊やタンポポは小花の数が多く、また大きな花びらを持つ花(舌状花)も付けて鮮やかなので、随分雰囲気が異なる。




ちなみに、ワダンノキは雌雄異株(雄株と雌株に分かれる)だそうだ(Kato & Nagamasu 1995)。
この論文では雄花と雌花の違いとして、「雄花では葯から花粉を多く出すが、雌花ではほとんど出さない」、ということが区別の一つとして挙げられている。撮影した花の雄しべからは、黄色い花粉が沢山出ている様子が確認できるので、これは雄花ということだろうか。写真を見返すと、今回撮影したものは全て雄花だったようである。

ワダンノキが雌雄異株ということは、帰宅後に初めて知った。事前に雌雄があることを知っていれば、観察する目も違っていたのかな、と少々残念である。



ひときわ沢山の花を付けたワダンノキの横を通過した時、辺りに匂いが漂っていることに気が付いた。発信源はワダンノキの花であった。
決してよい香りとは言えず、僕は真っ先に納豆を思い浮かべた。




シイノキ、クリ、ガマズミの仲間、サトイモ科のテンナンショウ属など、人にとって不快と感じる臭気を発する花はそれなりに多い。しかし、「納豆のような」匂いの花は自身の経験上では初めてだった。

変わった香りを持つのだから、ワダンノキの花にはそれに見合った特定の虫が来るのではないか、と考えた。
観察時は訪花昆虫を確認できなかったので、帰宅後に少し調べてみた。

Kato & Nagamasu( 1995)によれば、現在の訪花昆虫の大半は外来種のセイヨウミツバチApis mellisferaであり、かつては固有のハナバチが送粉の役割を担っていたとのことであり、また郷原 (2002)はオガサワラクマバチを候補に挙げている。
また、小笠原の自然を紹介するサイト「ガイドの日記帳~つれづれなるままに~」では、小さなハエが訪花していたことが書かれている。

これらの情報から、ワダンノキは特定の虫がパートナーというよりも、様々な虫を送紛者としている、と言えそうだ。
安部(2009)によれば、小笠原諸島のような海洋島における送粉系(植物と送紛者との関係)は多くの場合一対一でなく、特定の種にこだわることなく様々な花を訪れる虫により成り立つそうだ。ワダンノキもこれに当てはまることが考えられる。


僕はワダンノキの独特な花の香りは、特定の虫を呼ぶためのものだ、と思い込んでいたが、実際には一種の昆虫ではなくハチやハエなど様々な虫を呼び寄せるための工夫ということなのだろう。「匂い」は色と異なり、姿が見えなくても感知できる。
外来種のミツバチが主要な送粉者とされているけれど、もしかすると、夜行性の昆虫の存在も案外重要なのではないか、と思ったりもする。


ワダンノキの果実。タンポポなどと似ている





ワダンノキの芽生え。ただし日当たりが悪く、生長は困難

























<引用・参考文献、サイト>
安部哲人 2009. 小笠原諸島における送粉系攪乱の現状とその管理戦略. 
  地球環境 Vol.14 No.1: 47-55.
Kato Makoto, Nagamasu Hidetoshi 1995. Dioecy in the Endemic Genus
  Dedrocacalia (Compositae) on the Bonin (Ogasawara) Islans.
  Journal of Plant Research, 108(4):443-450. 
  (ただし、全文の入手は有料のため、要約と本文の一部のみ参照。)
郷原匡史(2002)小笠原諸島のハナバチ相とその保全.  杉浦ほか(編) 
  ハチとアリの自然史. 北海道大学図書刊行会: 229-245.
  (ただし本文に当たれなかったので、牧野俊一 2004. リレー連載レッド
  リストの生き物たち 15 オガサワラクマバチ. 林業技術 No.774: 36-37 から
  の孫引き)
清水善和 2001. 小笠原諸島におけるワダンノキの現状と更新様式. 
  駒澤地理 No.37: 17-36.
豊田武司 2014. 小笠原諸島 固有植物ガイド. 株式会社ウッズプレス, 東京. 
ガイドの日記帳 ~つれづれなるままに~ ワダンノキ
  http://hahajimaguide.seesaa.net/article/128716947.html
  (2015年2月7日閲覧)




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