2015年12月13日日曜日

嵐とマツグミ拾い

12月12日

昨日11日の兵庫県南部は、発達中の低気圧の影響で大荒れの天候となった。

11日6時の天気図 (気象庁ホームページより,一部改)
最寄りのアメダス(三田)では最大瞬間風速25.4 m、日降水量55.5 mm、日最大1時間降水量16.5 mmを記録したが、いずれも12月としては観測史上1位である。

翌12日、近くの公園を訪れた。

園内の歩道には、落ちてきた枝葉が散乱している。

その中に、マツグミTaxillus kaempferiを見つけた枝にはウメノキゴケの仲間がびっしり付いている。

マツグミはオオバヤドリギ科(エングラー体系ではヤドリギ科)の常緑低木で、モミやツガ、アカマツなどの針葉樹に寄生する。
落ちていた個体の大きさは約80 cmあり、マツグミとしてはかなりのサイズだと思う。


果実も付いていた。知り合いの方曰く、完熟したものは食べることができるらしい。

熟すのは初夏頃のため、今回見つけたものは残念ながら未熟果である。

マツグミが落ちていた横には、モミAbies firmaとツガTsuga sieboldiiが数本生えている。
これらの木のどこかに寄生しているはずだが、肉眼では確認できない。







マツグミは普段から旧葉を頻繁に落とすため、寄主木の根元を歩けば、ばらばらに落ちた葉は割合簡単に見つけることができる。
しかし、枝葉セットで新鮮なものは荒天の後でない限り、なかなか観察できないと思う。


<参考>
・気象庁 過去の気象データ検索
http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/index.php?prec_no=63&block_no=0969&year=2015&month=12&day=&view=h0 (2015年12月13日現在)

・気象庁 天気図
http://www.jma.go.jp/jp/g3/ (2015年12月13日現在)

・植物和名-学名インデックス Yリスト
http://ylist.info/index.html (2015年12月13日現在)


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2015年12月1日火曜日

カヤランは1年に何枚葉を出すのか (栽培下における観察)

自宅にて、カヤランThrixspermum japonicumラン科)を栽培している。自生地の地面に落下しているところを見つけ、拾ったものだ。

樹上生活者のカヤランを、近くで観察できる機会はあまり多くない。栽培下の環境は自生地のそれとは異なるものの、本種をじっくりと観察するよい機会であるといえる。

成長をしばらく追ってみた。

4月23日

約3週間前に拾った個体。
成長済みの葉4枚と、新葉1枚からなる。

新葉は今年出たのか、前年からあったのかは分からないが、ここでは今年1枚目の葉と仮定し、番号1を振る。


5月21日

1枚目の葉がほぼ伸びきった。


6月2日

2枚目の葉が出てきた。


7月8日

2枚目の葉が大分成長した。


7月27日

2枚目の葉がほぼ伸びきった。
3枚目の葉が出てきた。

葉に加え、新しい根が伸長を始めた。


8月24日

3枚目の葉が大分成長した。


9月29日

3枚目の葉がほぼ伸びきった。
4枚目の葉が出てきた。

新しい根の先端が、ヘゴ棒に付き始めた。


10月28日

4枚目の葉が少し伸びた。

根の伸長が著しい。


11月28日

4枚目の葉は、10月28日と比較してわずかに伸びた。

根はかなり伸長した。
先端の緑色の部分が少なくなったので、これからしばらくはあまり伸びないかもしれない。



4月から11月までの約7か月の間に、元からあった葉1枚が伸び、新しい葉3枚を出したことになる。冬季の成長速度が分からないので何とも言えないが、1年間で展開する葉は3-4枚、と考えることができそうだ。

野生化における展葉ペースについては、年2-3枚(4月-8月で1-2枚、9月-4月で1枚)との報告がある(松村・澤田 2009)。また、年3-4枚葉を展開するとの情報がweb上にある(「カヤランの一生」四国カルストで花道楽)。
我が家の栽培個体の展葉枚数は、これらと類似したものになった。

なお、web上には年に1枚だけ展葉する、との記述もある。これが正しい情報なのかは分からないが、個体の齢数や活力度、生育環境の違いなどによっては、ゆっくりと成長する場合もあるのかもしれない。



<参考>
松村俊和・澤田佳宏 2009. 風倒木着生個体から推定したカヤランの個体群統計

カヤランの一生
四国カルストで花道楽http://blogs.yahoo.co.jp/hanadouraku2/11660970.html(2015年11月閲覧)




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2015年10月16日金曜日

丹後半島にて グンバイヒルガオ

9月30日

ハマベノギク咲く砂浜海岸

修論調査で丹後半島(京都府の日本海側)を訪れた。

砂浜を歩いていると、所々にグンバイヒルガオIpomoea pes-caprae(ヒルガオ科)の姿が目に付く。

本種の日本における分布域(開花・結実できる地域)の北限は九州~四国だが、漂着種子から発芽した実生個体は、山形県でも確認されている。

丹後半島において、グンバイヒルガオの実生はそれほど珍しいものではないらしく、昨年の秋にも数個体を見かけた。

ただ、こうして芽生えた実生たちは冬の寒さに耐えられずに枯死する運命にある。温暖化が進行しているとされるが最近の冬の寒さは厳しいことも多く、現状の気候下での定着は困難と思われる。


丹後ではよく見かけるグンバイヒルガオだが、実家のある神奈川県の湘南海岸では、ほとんど出会ったことがない(もっとも、海水浴客が多い湘南海岸では、芽生えた実生が一掃されてしまうのかもしれない)。
神奈川よりも丹後半島の方が北に位置するが、対馬暖流が直接ぶつかるために種子がより多く漂着しやすいのだろうと思う。



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2015年9月9日水曜日

大台ケ原を歩く (東大台編)

8月10日

大学の先生方とともに、奈良県上北山村の大台ケ原を訪れた。

「吉野熊野国立公園」に指定地域の一つである大台ケ原は、隆起準平原からなる台地状の山である。屋久島と並ぶ日本最多雨地域であり、ブナや針葉樹などからなる広大な森林が広がっている。

豊かな自然が広がる一方、近年シカや人などによる影響が深刻であると言われ、トウヒの立ち枯れ地は象徴的な存在として紹介されることも多い。

大台ケ原ドライブウェイの終点にあたる、標高約1570mの平坦地。
ビジターセンターや土産物屋、宿泊施設があり、観光の起点となっている。
この平坦地をほぼ境に、東側は「東大台」、西側は「西大台」、と呼ばれている。



東大台方面への登山道を進むと、すぐに針葉樹林の中に入った。
中部地方以北の山岳地帯では広く見ることができる亜高山針葉樹林だが、高い山の少ない近畿地方では紀伊半島の大台ケ原や大峰山系に限って見られる。



高木層を主に占めるのは、ウラジロモミAbies homolepisとトウヒPicea jezoensis var. hondoensis。ときにヒノキChamaecyparis obtusaが混じる。このうち、トウヒは大台ケ原が分布の南限である。
ウラジロモミとトウヒは遠目にはよく似ているが、ウラジロモミの樹皮が黄褐色なのに対し、トウヒの樹皮は紫色がかった褐色なので、見分けがつく。

また、低木層にはタンナサワフタギSymplocos coreanaやオオイタヤメイゲツAcer shirasawanum、フウリンウメモドキIlex geniculata、リョウブClethra barbinervis、クロヅルTripterygium regeliiなど。
草本層はミヤコザサSasa nipponicaが優占し、ときにスズタケSasa borealisを交えている。登山道沿いなどの斜面では、ササの代わりに蘚類(コケ)が地面を覆い、ホソバトウゲシバHuperzia serrata var. serrataやイトスゲCarex fernaldiana、コミヤマカタバミOxalis acetosella、ヒメミヤマスミレViola boissieuanaなどが一緒に生えている。

ホソバトウゲシバ



イトスゲ




















トウヒやウラジロモミの根元を見ると、あちらこちらで樹皮が剥がされているのが目に付く。樹皮剥ぎを受けた木の多くは生きていたが、中には樹皮が幹一周はがされて枯死したものもあった。

関根,佐藤(1992)などによると、大台ケ原で樹皮剥ぎを行っている動物は、主にニホンジカであるという。
樹皮剥ぎ防止ネットが功を奏しているのか、多くの剥ぎ痕は随分と年数がたっているようで、新しいものは少なかった。

稜線に到着。

15km離れた太平洋から吹き付ける湿った風が斜面に直接当たるこの場所では、特に霧が発生しやすいらしい。
また強風の影響か、木々の高さは風背と比較して明らかに低い。

稜線では、ブナFagus crenataが果実(ドングリ)をたわわに付けていた。

ブナは、冷温帯(ブナクラス域)を特徴づける木である。針葉樹林が広がる東大台に生えていることに、おや、と思うが、亜高山帯(コケモモ-トウヒクラス域)の下限に位置するため、ブナが混生しているのだろう。

稜線沿いを右に進むと、トウヒの立ち枯れが目立つ正木峠に到着。ミヤコザサ草原が一面に広がる。

樹木はシロヤシオの他には、ウラジロモミの幼木などがわずかに見られるのみだった。

ミヤコザサを観察すると、あちらこちらにシカの食痕が見られた。


昭和38年当時の正木峠を示した看板。
ここはかつて林床をコケが覆う、うっそうとした針葉樹林だったという。

そこから現在の景観へと変化した要因として、看板には次のようなことが挙げられている。



①伊勢湾台風などによる樹木の多数転倒、および転倒木の搬出による林床の乾燥化。
②林床の乾燥化に伴うコケの減少と、ミヤコザサの繁茂。
③ササの繁茂による樹木の更新の阻害。
 ④大台ケ原周辺で増加したシカによる下層植生の採食や、樹皮剥ぎの増加。

これら様々な要因が重なり、現在に至っているという。


ササ草原内には、シカ除けネットで四角く覆われた場所があり、内側には植栽されたと思われるトウヒの若木が育っていた。


登山道を歩いていると、自然に芽生えたトウヒも点々と見られた。

その多くは、登山道沿いの日当たりが比較的良い場所で、コケ群落中や、湿った裸地に生じているようだった。

中には、発芽から間もないと思われるものだけでなく、それなりに大きな個体も見られた。
写真の個体はその一つで、高さ30cm超、枝を大きく広げていた。

ただ、このように大きく成長したものでは、新芽がシカに食べられているのも目に付いた。

正木ヶ原。
こちらは正木峠とは異なり、白骨化した枯死木と、生存木とが入り混じる。

生存木はヒノキとウラジロモミ、コメツガが主で、トウヒは少ない。また、トウヒの中にはやや衰えが見られるものも混じっており、枯死は多少なり進行中に思われた。


正木ヶ原からしばらく下ると、再び針葉樹林に入った。

左写真の奥に写っているのは、ヒノキの古い切り株。写真に写る看板や環境省のwebページによると、東大台において、大正時代に製紙材料として大規模に伐採が行われたのだそうだ。現在見られる林は、その後に実生個体から再生したものだという。


さらに進むと、林床を蘚類(コケ)やイトスゲが覆う場所になった。
大半の林床がミヤコザサに覆われる現在の東大台だが、多湿で岩が露出する斜面では、かつてのように(?)、蘚類が優占しているようだ。

翌日の西大台立ち入りに必要なレクチャーを受けるため、大蛇嵓などはパスして足早に下山。

写真は、ビジターセンター脇の球果(マツボックリ)を付けていたトウヒ。











<参考・引用>

  関根達郎, 佐藤治雄 1992. 大台ケ原山におけるニホンジカによる樹木の剥皮. 日本生態学会誌, 42: 241-248.
  環境省 吉野熊野国立公園 大台ケ原
http://kinki.env.go.jp/nature/odaigahara/odai_top.htm(2015年9月閲覧)
  Y List 植物和名-学名インデックス
http://ylist.info/(2015年8月閲覧)









2015年9月6日日曜日

シバンムシアリガタバチ Cephalonomia gallicola

7月21日


自宅にて、シバンムシアリガタバチ
Cephalonomia gallicolaを見つけた。
体長約2mmの小さなハチで、アリガタバチの名の通り、メスは翅を持たずアリそっくりの姿をしている。





本種の存在に気がついたのは、数日前に刺されたのがきっかけである。ごく小型のハチながら、刺された際にはかなり強い痛みがあり、その後数日間痒さが残った。



刺されるまでは気付かなかったが、その気になると床や壁を歩いている個体が目に付くようになった。
思えば、以前から床を単独で歩いていた小型であめ色のアリらしき虫が、本種だったのかもしれない。

アリガタバチは、害虫として知られるシバンムシ類の天敵(シバンムシの幼虫に産卵し、幼虫のエサとする)であり、益虫の一種といえる。
一方で、人を刺すという点では害虫に区分される。僕にとっては、今のところ目に見えた被害が見えないシバンムシよりも、実害のある本種の方が困った存在である。

再び刺されるのは御免だが、見た目・生態ともに変わったハチであり、いつかオスバチや、シバンムシの幼虫への産卵シーンは見てみたいと思う。



<参考>
  イカリ消毒オンラインショップ シバンムシアリガタバチCephalonomia gallicola(ASHMEAD)
http://www.ikari.jp/gaicyu/33010d.html(2015年9月閲覧)




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2015年5月12日火曜日

多年生化したヒシモドキ(栽培下にて)

5月7日

神奈川の実家に帰省した際、睡蓮鉢で栽培しているヒシモドキTrapella sinensis(オオバコ科(以前の分類ではヒシモドキ科orゴマ科))の様子を観察した。
以前に大学の友人に分けてもらったものだ。


水温が上昇し、成長を始めたヒシモドキ。観察したところ、種子から発芽した実生個体と越年した個体の2つがあることに気がついた。


実生個体。

棒状の子葉(双葉)が目立つ。


越年個体。

前年に成長した茎の節から新しい芽を吹いている。現時点では実生個体よりも弱々しい姿だが、この後どのように成長するのだろうか。





ヒシモドキが一年生草本であるか、それとも多年生草本であるかは図鑑によって記述が異なり、たとえば「日本の野生植物 草本Ⅲ 合弁花類 (平凡社)」では多年生、「日本水草図鑑 (文一総合出版)」や「日本水生植物図鑑 (北隆館)」では一年生、とされている。

野外に置いた睡蓮鉢の環境は、温度などの点で自生地とそれほど差はないと思われ(厳寒期には何度も氷が張った)、ヒシモドキは野生下でも植物体の一部が越冬し、多年生草本としてふるまう可能性は十分にあると思われる。
しかし、多くの多年生水草に見られるような殖芽※を作るわけではないし、実生個体の方が勢いよく成長しているところを見ると、水草に特化した図鑑に書かれている通り、基本的には一年生草本として振る舞う植物なのではないかと思える。そのうちに自生の姿を見てみたい。


※殖芽(turion)は、越冬などのために特殊に変化した植物体の一部(分かりやすくいえばイモや球根)のうち、水草が作るものを指すそうです。正月に食べるくわい(慈姑)も、クワイというオモダカを作物化した植物の殖芽に当たります。
殖芽はイモ状のもの(オモダカ、ヒルムシロ等)に限らず、茎の先端に葉が密集したもの(タヌキモ、マツモ等)など、多様です。しかし、ヒシモドキの場合、越冬した茎はあまり特殊化したものには見えず、殖芽とは言い難いように思います。

<引用・参考>
角野康郎 1994. 日本水草図鑑. 文一総合出版, 東京.
角野康郎 2014. 日本の水草(ネイチャーガイド). 文一総合出版, 東京.
大滝末男, 石戸忠 1980. 日本水生植物図鑑. 北隆館, 東京.
佐竹義輔, 大井次三郎, 北村四郎, 亘理俊次, 富成忠夫 1981. 日本の野生植物 草本 Ⅲ合弁花類. 平凡社, 東京.



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2015年5月9日土曜日

空から見た赤潮

4月27日

残雪の目立つ氷ノ山
大阪伊丹から飛行機で隠岐へ向かった。
この日は快晴で、窓から氷ノ山や鳥取砂丘を望むことができた。

鳥取県中部の東郷池の上空にさしかかる頃、海面の一部が赤く色づいていることに気が付いた。赤潮である。

この日流れていたニュースによれば、今回の赤潮は渦鞭毛藻の夜光虫(やこうちゅう、ノクチルカ)の大発生によるものだという。



隠岐の主島、島後にて。

毒々しい色合いの赤潮だが、夜光虫によるものは無害で、漁業被害もあまりないそうだ。




島後 浄土ケ浦海岸



赤潮の発生要因として、生活排水の流れ込みなどによる海水の富栄養化がよく言われる。

しかし、春季に日本海側で発生する赤潮は、必ずしも海水の富栄養化を示すものではないらしく、島根県では春の風物詩的な現象だそうだ。確かに、赤潮の発生していた隠岐の海は透明度が高く、汚染とはほとんど無縁に思われた。

もっとも、鳥取沿岸では河川の流れ込む場所を中心に発生しているようにも見えたので、川から流れ込む栄養塩の存在も重要なのかもしれない。

5月1日

帰りの飛行機から島後を見る。
風に吹き寄せられたのか、沿岸に赤潮が集中して見られた。








<参考・引用>
ノクチルカ赤潮(夜光虫)について
http://www1.pref.shimane.lg.jp/industry/suisan/shinkou/gyosei_info/akashio/suisanka.data/papaer.pdf (2015年5月4日現在)








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