昨年10月、東北南部に植生調査を行うため訪れた時のこと。
ムカゴニンジンSium sisarum(セリ科) と
ウスゲタマブキ Cacalia farfaefolia(キク科) に出会った。(以下タマブキ)
ムカゴニンジンはかつて水田として利用されていた谷沿いの湿地に、タマブキは渓流沿いの礫(レキ)が多く、不安定な斜面地に生えていた。
ムカゴニンジンの珠芽 |
この2種に共通する特徴は珠芽、つまり「むかご」を付けること。
ヤマノイモやナガイモのものはよく知られていると思うが、それに限らず珠芽を作る植物は案外多い。
ムカゴニンジンの名はもちろんのこと、タマブキの「珠(たま)」も珠芽に由来している。
ウスゲタマブキの珠芽 |
ムカゴニンジンとタマブキは生育環境が異なる。珠芽にもそれに対応した何らかの違いがあるのではないかと考えた。
するとムカゴニンジンは浮かび、タマブキは沈んだ。外見では分からないが、比重が異なるようだ。
おそらく、湿地に生えるムカゴニンジンの珠芽は、水流で運ばれるために比重が軽いのではないか、と思う。
一方のタマブキは陸地に生えるから、水に浮かぶ珠芽を作る必要はないだろう。水に浮かぶ必要がないなら、養分を多く蓄えて充実した珠芽の方が初期成長に有利だろうし、重たい方が勢いよく斜面を転がって遠くへ移動できる可能性も考えられる。
ムカゴニンジンとタマブキの生育環境はかなり異なるけれど、不安定な立地、という点では共通している。
湿地は大雨が降れば洪水でかき乱されるし、レキの多い斜面は人が歩くだけで崩れるほどで、やはり大雨が降れば崩壊を起こす。
両種とも、珠芽と比較すると小さなタネ(※)も形成し、これによっても分布を広げることができる。特に、タマブキのタネ(正確には果実)はタンポポのタネと同様に綿毛を持っており、珠芽よりも遠方への移動が可能と思われる。また、花粉のやり取りによって形成されるタネは、種内の遺伝的多様性を保持していく上で重要な存在だ。
一方で、両種の生育する立地では、小さなタネからゆっくりと成長していると、成植物になるまでに再び攪乱が起きるかもしれない。養分を十分に持った珠芽から素早く成長する方が、確実に子孫を残せるだろう。
不安定な立地において、珠芽は散布体(タネを始め、親株から分離して別個体へ成長する器官のこと)としてかなり重要なのだと思う。
種子散布と比較して珠芽の散布に関する研究はあまり進んでいないようだが、案外面白い存在なのかもしれない。
※「タネ」は、正確には「種子」または果実と表現した方がよいと思いますが、「種(シュ)」などと紛らわしいのであえて「タネ」と書いています。
<参考文献・サイト>
・中西弘樹 1994. 種子(たね)はひろがる 種子散布の生態学. 平凡社.
・中西弘樹, 久保田信,中西こずえ 2006. ニガカシュウ(ヤマノイモ科)のむかごの漂着と海流散布
・山に咲く花. 山と渓谷社.
・ヤマノイモの会 http://p-www.iwate-pu.ac.jp/~hiratsuk/yamanoimo/index.html (2015年3月5日現在)
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