2015年3月28日土曜日

鹿児島県志布志市 白鳥神社のハナガガシ

3月18日

生態学会に参加するため、鹿児島県を訪れた。

志布志市中心部から10kmほど離れたところにある白鳥神社。

山間の集落にあるこの神社には、ハナガガシというドングリが生育している。
この写真は高知県で撮影したもの






ハナガガシQuercus hondaeはブナ科コナラ属の常緑高木。
四国(愛媛、高知)と九州に分布する日本固有種である。
漢字で書けば「葉長樫」で、本種の葉が細長いことに由来する。





葉裏は鮮やかな緑色で、葉の形状がやや似ているアラカシやシラカシなどで白色~黄褐色を帯びるのとは明らかに異なる。また、冬芽が際立って細長く鋭形なことなども特徴である。
日本において森林の主要構成種であることが多いブナ科にあって、ハナガガシは唯一全国レベルで絶滅危惧種(絶滅危惧Ⅱ類)に指定される希少種。
鹿児島県でも絶滅危惧Ⅱ類に指定され、その分布は限られている。


本神社のハナガガシについては次の文書に詳しい→「白鳥神社の社のハナガガシ(2015年3月28日現在)」。
この報告を書かれた方がどなたなのかは分からないが、地元校区のwebサイト内のページである。志布志自然愛好会(ホームページ無)主催の観察会が行われるなど、地元でも一応知られているようだ。





参道沿いの群落。高木のほとんどがハナガガシで、一部イチイガシやスダジイが混じる。直径1m近く、高さ約25mの大木が林立する様は壮観である。

神社は写真右手の谷部を流れる小川に向かって傾斜する斜面地にあり、このような立地がハナガガシの生育に適しているのだそうだ。
林床の実生。

発芽して間もない個体は多く見られたが、それよりもう少し成長した若木は少なく、明るい林縁に限って生育しているように見えた。

ハナガガシにとって懸念材料と思われるのがモウソウチクである。
写真に写る高さ8mくらいの若木は、真上をモウソウチクにほぼ完全に覆われている。

モウソウチクを始めとするタケ類は、樹木を被陰して光合成を妨げるだけでなく、強風時に大きくしなって枝を折ってしまうこともある。
白鳥神社の竹林が昔と比べてどの程度拡大しているのかは分からないが、ハナガガシの更新に悪影響を与えている可能性は十分に考えられる。

竹林は神社景観の重要な要素ではあるが、貴重なハナガガシに影響を与えているとすれば、いくらかの伐採など管理が必要なのではないかと思う。


サツマイナモリ Ophiorrhiza japonica
そのほかに見かけた主な植物。

シダ類
アマクサシダ、マメヅタ

単子葉類
マムシグサsp.、ムサシアブミ、ボウラン

(真正)双子葉類
サツマイナモリ、セントウソウ、ツルコウジ、ヤマビワ


<引用・参考>
白鳥神社の社のハナガガシ http://www.mura-saisei.jp/isakida/i_bunkan/sjinjiya/pdf/hanagakasi.pdf (2015年3月28日現在)
鹿児島県有明町伊崎田校区分館ホームページ(※) http://www.mura-saisei.jp/isakida/ (2015年3月28日現在)

※有明町は、2006年に志布志市と合併している。




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3月10日 三田市で観察した雪



3月10日

冬型の気圧配置となったこの日、兵庫県三田市では強風を伴いながら一時雪が降った。

昨年春に関東南部から引っ越して初めての冬を経験したが、三田市を含む兵庫県南部は関東南部よりも随分と雪が降る印象だ。



僕の抱いた印象が正しいのか、東京(関東南部)と神戸とで、過去の気象データ(1981~2010年の30年間の平均値)を比較してみる。
(気象庁ホームページよりデータ引用)

両地と比較すると、神戸で約2倍雪の日が多い。データ上でも関東南部よりも雪がよく降ることが見て取れる。


もう一つ。最深積雪の記録を比較してみた。
雪日数の少ない東京の方が、大雪に遭っていることがわかる。昨年2月に関東地方では大雪となった(東京の積雪は27cm)が、神戸では同規模の大雪を気象観測が始まって以来経験していないということになる。


標高2000m超の山脈によって日本海側からの雪雲が遮られる関東平野部と比較して、兵庫南部と日本海側とを隔てる中国山地は標高1510mの氷ノ山が最大でああり、しかも山地の幅が広くないことから、雪雲がしばしば太平洋側(瀬戸内側)にまで流れ込んできて頻繁に雪が降るのだろう。
一方で、関東地方では南岸を進む発達中の低気圧によってしばしば大雪となるが、近畿地方ではあまり大雪にはならないようだ。

今まで関東南部(神奈川、東京)に住んでいた時は、関東でも近畿でも太平洋側(瀬戸内側)は同じように冬晴れが続くのだとばかり思っていた。しかし、実際に移り住んでみると細かな気象の違いがあることが分かり、面白い。



ところで、この日降ってきた雪を観察すると、いわゆる六角形の結晶は確認できず、わずかに針状の結晶が見られる程度だった。今回降ってきたのはほとんどが雪あられだったようだ。
雪あられは、雪の結晶を核に水滴がくっ付いて凍結したもので、白色には見えるものの正確には雪とは別物になる。


<引用・参考>
・気象庁 過去の気象データ検索 http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/index.php?prec_no=44&block_no=47662&year=&month=&day=&view=h0 (2015年3月10日現在)
・Wikipedia 中国山地 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E5%B1%B1%E5%9C%B0 (2015年3月10日現在)




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2015年3月7日土曜日

オーストラリアの生き物 アオアズマヤドリPtilonorhynchus violaceus のバワー

The Bower of Ptilonorhynchus violaceus (Satin bowerbird)

2014年9月10日

シドニー近郊のブルーマウンテンズ国立公園にて。


森林内の遊歩道を歩いていると、左手前方に、青いものが散らばっているのに気がついた。

アオアズマヤドリPtilonorhynchus violaceusの巣である。
正確には、子育てに使う巣とは全く異なるバワーBower(あずまやの意味)と呼ばれるもので、オス鳥がメスを呼ぶことを目的に作るものだ。

アズマヤドリ(ニワシドリ)の仲間は、オスがメスを呼ぶ為に手の込んだバワーを作ることで知られ、僕もテレビや本を通して知っていたが、本物を目にすることができるとは思わなかった。

ちなみに、バワー(あずまや)という語が小屋状の構造物のみを指すのか、それとも装飾品が散りばめられた周囲の広場(広場も、アズマヤドリが林床の落ち葉を除けて作り出したもの)も含めた全体を指すのかは、調べた限りではあいまいで、両方の記述が見られた。

ここでは、アズマヤドリの研究者のサイト(Sexual Selection in Bowerbires) などを参考に、「広場も含むアズマヤドリが作り出した構造物すべて」をバワーとして話を進めたいと思う。


バワーの中央には、小枝か草本を集めた小屋状の構造物がある。
アオアズマヤドリのものは、2列平行に枝を立てていることから「並木型のあずま屋」などと呼ばれている。

オスは、並木の間に入ったメスを相手に、求愛行動を行うのだそうだ。

あずま屋の周囲の広場には、青色のものが集められている。そのほとんどは、人が作り出したプラスチック製品。
僕の見たバワーでは、ペットボトルのキャップや洗濯バサミなどが多く使われていた。





現地では人家の庭にやってきて、洗濯バサミを持ち去ってしまうことがあるようだ。
(参考:AUS アンティーのブログ

現地で観察しているときには気付かなかったが、撮影した写真を拡大してみると、青色のもの以外も集められていることが分かった。

左の写真に写っているのはセミの抜け殻。
(枝に紛れて分かりづらいので、矢印で示しました。)

こちらはカタツムリの殻と、タマネギの切れ端。
アオアズマヤドリは果実食性の強い雑食だそうで、タマネギも食料である可能性は否定できないが、おそらく装飾に使われているのだと思う。
人間の目には、タマネギの切れ端は魅力的なものとはとても思えないが、白色で光沢があるので、アズマヤドリには案外美しく見えるのかもしれない。


バワーに用いられている青色の飾りものは、ほとんどが人工物で、少なくとも観察地においてアオアズマヤドリは現在、バワー作りにあたって大きく人間に依存しているといえる。
かつては青色の羽根などを用いていたそうだが、天然物でほかに青色のものは多くなく、探すのは並大抵の苦労ではなかっただろう。そもそも、現在のように青色を主体に飾ることができたか疑問に思う。手に入れるのが困難な青色のものを集めること自体、オス鳥の行動力や頭脳の高さをメスにアピールする重要な手段となっていた(る)のかもしれない。




<参考>
・松本忠夫 1993. 生態と環境 生物科学入門コース7. 岩波書店.
・Bowerbird.  http://www.i-younet.ne.jp/~basaract/bowerbird.html (鈴木まもるさんのwebページ)(2015年3月7日現在)
・Sexual selection in Bowerbirds  Borgia Lab Web Site. http://www.life.umd.edu/biology/borgialab/ (2015年3月7日現在)
・AUS アンティーのブログ -AUS Auntie's Blog http://oceanbirds.blog134.fc2.com/blog-category-21.html (2015年3月7日現在)
・Wikipedia 英語版 Satin bowerbird  http://en.wikipedia.org/wiki/Satin_bowerbird (2015年3月7日現在)


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2015年3月6日金曜日

オーストラリアの植物 -ブルーマウンテンズにてトベラを見る-

2014年9月10日

時系列がずれてしまいますが、昨年訪れたオーストラリアで観察した生き物について。


ブルーマウンテンズを代表するThe Three Sisters
ブルーマウンテンズ(The Blue Mountains)は、オーストラリア最大の都市Sydneyから西へ100kmほどに位置する山地。

世界自然遺産に登録され、奇岩やユーカリを中心とした豊かな森林が広がる観光名所でもある。



道沿いの植生を観察しながら歩く。

水分条件が良好と思われる谷間などでは、高木層にユーカリ属(Eucalyptus)が優占し、亜高木~低木にはバンクシア属(Banksia)を始めとするヤマモガシ科や、アカシア属(Acacia)を始めとするマメ科、木生シダのヘゴ属(Cyathea)などが見られる。

観察地は標高約1000m。日本では主に亜熱帯に見られるヘゴの仲間が高地に生えているのは、何だか不思議だ。
亜熱帯と呼ぶには涼しすぎるブルーマウンテンズだが、気温の年較差が小さく、降雪や降霜がほとんどないことが影響しているのかもしれない。

少し乾き気味の尾根部。
高木層はユーカリ(谷間に生育しているものとは別種かもしれない)で変わりないが、亜高木層に樹高7~8mくらいの常緑樹が目立つ。



近づいて観察してみる。

見覚えのあるような葉だが、分からない。
つぼみがあったので、他に花や実が付いている個体がないか探す。

果実がついている木を見つけた。
思わず「おー」、と声が出る。日本の海岸に生育するトベラ(Pittosporum tobira)にそっくりだったからである。

あとで調べたところ、トベラ属のPittosporum undulatumという種であるらしいことが分かった。

花も咲いていた。
これも日本のトベラによく似ている。


日本では小笠原を除けば海岸部でしか見られず、しかも低木であるトベラの仲間が、オーストラリアでは内陸の森林の構成種であることに驚いた。




オーストラリアといえば、ユーカリやバンクシアなどのイメージが強いが、じつはトベラ科が多様な場所でもあるらしい。
日本ではトベラ属(Pittosporum)1属しか見られないが、オーストラリアではトベラ科に含まれる属全てにあたる9属が生育しそのうち7属はオーストラリア固有なのだそうだ。日本は、トベラ科の分布域の北端といえる。

ちなみに、オーストラリア固有属のうちソリア属(Solya)の一種は、オーストラリアン・ブルーベル、またはヒメツリガネなどの名で日本でも園芸植物として利用されているそうだ。


帰国後に、撮影した写真の中に他にトベラ科がないかを調べると、別属のものが見つかった。

Billardiera scandens と思われる。

ややつる性の低木。観察時には何の仲間か全く見当が付かなかった。



現地ではApple Berryなどと呼ばれ、果実は食用になるらしい。Wikipediaには、リンゴやキウイフルーツに似た味、と書いてあった。





最後に
日本のトベラの果実。(2014年11月撮影)

オーストラリアのP. undulatumのものとよく似ているけれど、日本のトベラは果実が3つに裂けるの対し、オーストラリアのものは2つに裂ける点が異なる。





<参考文献・サイト>
・Margaret Baker Robin Corringham. Native Plants of the Blue Mountains. Boner Bird Books, 2004年 第2版.
・Margaret G. Corrick, Bruce A. Fuhrer. Wildflowers of Southern Western Australia. Rosenberg Publishing, 2009年 第3版.
・Wikipedia 英語版 Billardiera scandens http://en.wikipedia.org/wiki/Billardiera_scandens (2015年3月5日現在)
・Wikipedia 英語版 Pittosporaceae  http://en.wikipedia.org/wiki/Pittosporaceae (2015年3月5日現在)
・ガーデニング花図鑑 オーストラリアン・ブルーベル http://sodatekata.net/flowers/page/563.html (2015年3月5日現在)


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2015年3月5日木曜日

浮くむかごと沈むむかご -2つの草の珠芽を比較する-

昨年10月、東北南部に植生調査を行うため訪れた時のこと。

ムカゴニンジンSium sisarum(セリ科) と

ウスゲタマブキ Cacalia farfaefolia(キク科) に出会った。(以下タマブキ)











ムカゴニンジンはかつて水田として利用されていた谷沿いの湿地に、タマブキは渓流沿いの礫(レキ)が多く、不安定な斜面地に生えていた。



ムカゴニンジンの珠芽
この2種に共通する特徴は珠芽、つまり「むかご」を付けること。
ヤマノイモやナガイモのものはよく知られていると思うが、それに限らず珠芽を作る植物は案外多い。

ムカゴニンジンの名はもちろんのこと、タマブキの「珠(たま)」も珠芽に由来している。

ウスゲタマブキの珠芽
















ムカゴニンジンとタマブキは生育環境が異なる。珠芽にもそれに対応した何らかの違いがあるのではないかと考えた。




そこで、両種の珠芽を水に入れてみた。
するとムカゴニンジンは浮かび、タマブキは沈んだ。外見では分からないが、比重が異なるようだ。

おそらく、湿地に生えるムカゴニンジンの珠芽は、水流で運ばれるために比重が軽いのではないか、と思う。
一方のタマブキは陸地に生えるから、水に浮かぶ珠芽を作る必要はないだろう。水に浮かぶ必要がないなら、養分を多く蓄えて充実した珠芽の方が初期成長に有利だろうし、重たい方が勢いよく斜面を転がって遠くへ移動できる可能性も考えられる。


ムカゴニンジンとタマブキの生育環境はかなり異なるけれど、不安定な立地、という点では共通している。
湿地は大雨が降れば洪水でかき乱されるし、レキの多い斜面は人が歩くだけで崩れるほどで、やはり大雨が降れば崩壊を起こす。

両種とも、珠芽と比較すると小さなタネ(※)も形成し、これによっても分布を広げることができる。特に、タマブキのタネ(正確には果実)はタンポポのタネと同様に綿毛を持っており、珠芽よりも遠方への移動が可能と思われる。また、花粉のやり取りによって形成されるタネは、種内の遺伝的多様性を保持していく上で重要な存在だ。
一方で、両種の生育する立地では、小さなタネからゆっくりと成長していると、成植物になるまでに再び攪乱が起きるかもしれない。養分を十分に持った珠芽から素早く成長する方が、確実に子孫を残せるだろう。
不安定な立地において、珠芽は散布体(タネを始め、親株から分離して別個体へ成長する器官のこと)としてかなり重要なのだと思う。

種子散布と比較して珠芽の散布に関する研究はあまり進んでいないようだが、案外面白い存在なのかもしれない。



※「タネ」は、正確には「種子」または果実と表現した方がよいと思いますが、「種(シュ)」などと紛らわしいのであえて「タネ」と書いています。


<参考文献・サイト>
・中西弘樹 1994. 種子(たね)はひろがる 種子散布の生態学. 平凡社.
・中西弘樹, 久保田信,中西こずえ 2006. ニガカシュウ(ヤマノイモ科)のむかごの漂着と海流散布
・山に咲く花. 山と渓谷社.
・ヤマノイモの会 http://p-www.iwate-pu.ac.jp/~hiratsuk/yamanoimo/index.html (2015年3月5日現在)



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