2014年5月6日火曜日

カヤランの花粉塊と自家受粉

4月11日 開花始め
今年の3月に栃木県のとある寺院で拾ったカヤランThrixspermum japonicum が先日開花した。
境内には今年2月の大雪で折れたスギの枝が散乱し、それらと一緒に数多くのカヤランも落下していたのである。

着生ランはセッコクをはじめ観賞価値が高いものが多く、しばしば園芸用に採取され、それが減少の一要因であるとされる。
樹上に着生したランを根こそぎはぎ取るのは断じて許されることではないが、一方で、大雪や強風によって樹上から自然に落下することも時にある。地面に落下した着生ランは環境の違いや捕食者の存在により長くは生きられず、枯死する運命にあるといえる。

「枯れゆく運命にあった着生ランを助けてあげた」というのはさすがに傲慢な気がする(そもそも、カヤランは継続栽培が相当難しいそうだ)が、少なくとも拾うという行為が自生地の個体群へ与える影響はまずないと考えられる。



4月21日 開花ピーク
折角拾ったのだから、自生地では観察できない細部を見てみることにした。

花は径1cm強、日中に嗅いだ限りでは香りは感じられなかった。

ラン科の花は3枚の花弁(側花弁2枚と唇弁1枚)と、3枚のガク片からなり、6枚の花ビラで構成されているように見える。
この写真のカヤランの場合、真横に細長く伸びる2枚が側花弁、真ん中の赤い筋が入っているのが唇弁、斜め上と真下に伸びているのがガク片である。
また、唇弁の内側の白っぽいものがずい柱である。ずい柱はラン科などに見られるもので、雄しべと雌しべが合わさったものである。


花粉塊を取りだしてみた。

左上の小枝の先に付いているのが花粉塊である。大きさは2mmに満たないごく小さなものであった。右下の三日月型のものは葯帽といって、花粉塊がずい柱に付いていた際に上に被さっていたもの。



花粉媒介者を考えてみる。
・香りがなく鮮やかな黄色の花色から、主に視覚で花を探す昆虫であると思われる。
・花はぶら下がって咲き、いわば地面に向かって花を開いているから、下向きの花につかまることのできる昆虫が適していそう。
・花粉塊は葯帽が外れないと付かず、花の中にある程度押し入る昆虫でないといけないと思われる。口吻を伸ばして蜜を吸うチョウや蛾は厳しい?
・花に合った体サイズの昆虫。

小型のハナバチやハナアブ類がこれに相当するのかな、と思ったりするが分からない。実際に野外で訪花する昆虫を観察したいものだ。



5月6日
受粉も行ってみた。同じ株で開花した花粉を用いたので自家受粉である。

結果、4つの花で受粉に成功して子房がふくらみ始めた。
受粉作業を行ったのは5、6個の花なのでそれなりに結実率はよいようだ。また、今後も順調に成熟してくれるか分からないが、自家受粉も可能なようである。

栽培困難種とも言われるカヤラン。植物の栽培がそれほど得意でない僕にとって手に負えるものかは未知数だが、果実の成熟を含めてなるべく長く観察できるよう頑張りたいところだ。



<参考>
・山に咲く花 写真/永田芳男 編・解説/畔上能力 山と渓谷社 2008年4版第6刷
・YList植物名検索 http://bean.bio.chiba-u.jp/bgplants/ylist_main.html(2014年5月6日現在)



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