用事があって大阪を訪れることとなった。折角なので、淀川沿いで植物観察を行うことにした。
お目当ては勿論(?)、日本では淀川と熊本でしか自生が確認されていないワンドスゲCarex argyiである。国外では中国に分布。
スゲ属を含むカヤツリグサ科はイネ科などと並ぶ”地味”な草であると思う。自分もしっかりと観察を始めたのは大学の研究で植物を扱うようになってからのことで、それまではほとんど関心を持ったことがなかった。
地味でどれも似通った見た目の植物、というイメージが強かったスゲ属だったが、観察を続けるうちに種ごとの特徴が見えてきて、なかなか面白いと思えるようになってきた。
淀川下流域にはワンドと呼ばれる池が連なって存在する。これらワンドの地形は自然のものではなく、明治時代の河川改修工事で設置された「水制」と呼ばれる構造物に由来するそうだ。
人の手により形成されたワンドであるが、河川本流とは異なる止水環境として貴重な存在であり、現在ではイタセンパラという希少な魚を始めとする様々な生物の住処となっている。
水際の植物をひたすら見て回る。
これはカサスゲCarex dispalata。
アゼナルコCarex dimorpholepis。
水田や河川敷などでよく見かける大型スゲ。
涼しげに花序が垂れる。
ヤガミスゲCarex maackii。(周りの葉は別種)
ミコシガヤCarex neurocarpa。
ヤガミスゲに似るが、花序に苞葉と呼ばれる葉が目立ち、全体が柔らかい。
様々なスゲ属の草本を始めとする植物たちに出会ったが、肝心のワンドスゲは一向に見つからない。あきらめて帰ろうと思っていたところ、偶然イタセンパラの調査をされている方にお会いした。ワンドスゲのことをお聞きすると、図を交えて丁寧に自生場所を教えてくださった。
お礼を言い、教わったポイントに向かう。
到着。
早速それらしきものを見つけた。
特徴からワンドスゲであることを確認。
ワンドスゲCarex argyi。
一見カサスゲにも似ているが、葉はより細く草丈は低い。また雄花序が複数本あり淡色であることなどから見分けられる。
株数自体はかなり多く見えたが、花序はまばらにしか付けていなかった。たまたま少ない年だったのか、それとも元々の性質なのだろうか。
イタセンパラの調査をされていた方によれば、ワンドスゲは淀川において幅10m足らずのこの場所でしか確認されていないという。
ワンドスゲのかつての自生状況を知らないので、減少してこの場所のみに残ったのか、それとも元々この狭い範囲でしか生えていなかったのかは分からない。
日本の大阪(淀川)と熊本、それから中国という局所的な分布パターンから、日本のものは過去の交易等で中国から偶発的に持ち込まれた古い時代の帰化植物、もしくは渡り鳥にくっ付いて運ばれたのではないだろうか、と思ったりする。
<参考>
・日本のスゲ 勝山輝男 著, 文一総合出版, 2005年12月31日 初版第一刷発行
・淀川河川事務所 淀川のわんど
http://www.yodogawa.kkr.mlit.go.jp/know/nature/wando/(2014年5月19日現在)
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