我が家のボウランLuisia teresが10日ほど前から開花している。
ボウランはラン科の多年生草本で、葉が多肉質で棒状の特異な姿をしていることからその名が付く。
花のアップ。
ラン科の花には6枚の花びら状のものが付くが、うち3枚が花弁、もう3枚がガク片である。
下部にべろんと伸びている赤紫色のものが唇弁と呼ばれる花弁、あとの花弁とガク片は黄緑色。中心にある丸いものはずい柱で、雄しべと雌しべが融合したもの。
先端には葯帽と呼ばれるフタが付いていて、その内側に花粉塊がある。
赤紫色の唇弁が独特の雰囲気を放つが、どちらかといえば地味な花であると思う。
ボウランの花を特徴づけるものがもう一つあり、それが独特の香りである。
生臭いが少しフルーティーな感じもあり、個人的にはバナナの皮の香りに最も近いと思っている。
あまり目立たない花姿と独特の香りを持つボウランのポリネーターは誰なのか。
6月19日にニクバエの一種と思われるハエがやってきた。
唇弁を舐めるような仕草を見せたり花の周りを歩き回ったりしたが、ずい柱のある奥へは潜り込まなかった。
このハエがボウランの送紛者(ポリネーターpollinator)と考えるのは少々難しいのではないかと思われた。
ボウランの花粉塊は軽く触っただけでは外れないことから虫が力強く花の奥にもぐり込む動作が必要と考えられ、ハエのように花を軽くなめる程度の動作では花粉塊が外れてハエの体に付着する可能性は低いと考えられるからだ。
6月25日
今度はコガネムシの一種のアオドウガネがやってきていた。
左目の上には花粉塊が付いていた。
唇弁を除く花弁が食害されたもの。左の花には花粉塊が見える。 |
有力なポリネーター候補と思われたアオドウガネだが、同時にボウランの花をひどく食害していた。
25日時点で30個余り咲いていた花のうち12個が食害された。食害部位で分類すると、
①花弁、ガク片のみが食べられ、ずい柱に変化なし・・・3個
②花弁、ガク片が食べられ、花粉塊があらわれたもの・・・5個
③花粉塊が外れたもの(ずい柱が一部食われたもの)・・・2個
④ずい柱を含めて全て食害されたもの・・・2個
となった。
花粉塊はアオドウガネに付着したものが1個、落下したものが1個だった。
この結果からどのようなことが考えられるのだろうか。
アオドウガネはポリネーターとして機能する可能性が高い一方、花を食害する存在でもある。しかし、一部を除いて結実に直接関わるずい柱(雌しべの部分)を損傷することはなかった。
このことから、ボウランは少しの食害を承知でアオドウガネを呼び寄せて花粉媒介を行わせている可能性があると思われる。
しかし、アオドウガネ一頭で10個以上の花が食われるというのは、さすがに代償が大きすぎるのでは、という疑問も浮かぶ。そもそも、今回のアオドウガネが純粋にボウランの香りに誘われてやってきたのか、それとも偶然照明に飛んできたものかも分からない。
また、ひとつだけ赤紫色をした唇弁も何らかの役割を果たしているように思えるが分からない。
住宅地における栽培下の結果ではあるが、ボウランが香りによってハエやコガネムシを呼んでいる可能性があること、またコガネムシの一種に食害を受けながらも花粉塊を付着させ、送粉を行わせている可能性があることが分かった。
自生地でのポリネーターが誰であるかは今のところ推測するしかないが、主に嗅覚に頼って生活し、花にもぐり込む力を持つコガネムシの仲間がそれにふさわしいのではないだろうか。
※
検索したところ、「怠け者の散歩道」というブログにカナブンが訪花したことが紹介されていました。やはり、コガネムシの仲間が花粉を運んでいる可能性が高いのでしょうか。(↓にリンクを貼りました)
”怠け者の散歩道 「自宅のラン:ボウランの花にやってきたカナブン」”http://ele-middleman.at.webry.info/201207/article_21.html (2014年6月25日現在)
追記 (2015年5月)
ボウランの訪花昆虫について、京大の末次健司さんとの共著で短報をまとめました。
「ボウランLuisia teres(ラン科)の訪花昆虫」という題です。本記事で書いた内容も一部含まれています。
掲載されたものが発行され次第、追って情報を書きます。
追記(2015年10月)
植物研究雑誌第90巻5号に、本記事で書いた観察結果を含む論文(題「ボウラン(ラン科)の訪花昆虫」)が掲載されましたので、ここに記します。
要約→http://www.tsumura.co.jp/kampo/plant/090/090_05.html#p359
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