2014年6月25日水曜日

ボウランの花に来た虫 -花粉を運ぶのはコガネムシ?-

6月25日

我が家のボウランLuisia teresが10日ほど前から開花している。

ボウランはラン科の多年生草本で、葉が多肉質で棒状の特異な姿をしていることからその名が付く。

花のアップ。

ラン科の花には6枚の花びら状のものが付くが、うち3枚が花弁、もう3枚がガク片である。
下部にべろんと伸びている赤紫色のものが唇弁と呼ばれる花弁、あとの花弁とガク片は黄緑色。中心にある丸いものはずい柱で、雄しべと雌しべが融合したもの。
先端には葯帽と呼ばれるフタが付いていて、その内側に花粉塊がある。
赤紫色の唇弁が独特の雰囲気を放つが、どちらかといえば地味な花であると思う。


ボウランの花を特徴づけるものがもう一つあり、それが独特の香りである。
生臭いが少しフルーティーな感じもあり、個人的にはバナナの皮の香りに最も近いと思っている。



あまり目立たない花姿と独特の香りを持つボウランのポリネーターは誰なのか。

6月19日にニクバエの一種と思われるハエがやってきた。
唇弁を舐めるような仕草を見せたり花の周りを歩き回ったりしたが、ずい柱のある奥へは潜り込まなかった。

このハエがボウランの送紛者(ポリネーターpollinator)と考えるのは少々難しいのではないかと思われた。
ボウランの花粉塊は軽く触っただけでは外れないことから虫が力強く花の奥にもぐり込む動作が必要と考えられ、ハエのように花を軽くなめる程度の動作では花粉塊が外れてハエの体に付着する可能性は低いと考えられるからだ。



6月25日

今度はコガネムシの一種のアオドウガネがやってきていた。
左目の上には花粉塊が付いていた。







唇弁を除く花弁が食害されたもの。左の花には花粉塊が見える。

有力なポリネーター候補と思われたアオドウガネだが、同時にボウランの花をひどく食害していた。









25日時点で30個余り咲いていた花のうち12個が食害された。食害部位で分類すると、
①花弁、ガク片のみが食べられ、ずい柱に変化なし・・・3個
②花弁、ガク片が食べられ、花粉塊があらわれたもの・・・5個
③花粉塊が外れたもの(ずい柱が一部食われたもの)・・・2個
④ずい柱を含めて全て食害されたもの・・・2個

となった。
花粉塊はアオドウガネに付着したものが1個、落下したものが1個だった。


この結果からどのようなことが考えられるのだろうか。

アオドウガネはポリネーターとして機能する可能性が高い一方、花を食害する存在でもある。しかし、一部を除いて結実に直接関わるずい柱(雌しべの部分)を損傷することはなかった。
このことから、ボウランは少しの食害を承知でアオドウガネを呼び寄せて花粉媒介を行わせている可能性があると思われる。

しかし、アオドウガネ一頭で10個以上の花が食われるというのは、さすがに代償が大きすぎるのでは、という疑問も浮かぶ。そもそも、今回のアオドウガネが純粋にボウランの香りに誘われてやってきたのか、それとも偶然照明に飛んできたものかも分からない。
また、ひとつだけ赤紫色をした唇弁も何らかの役割を果たしているように思えるが分からない。


住宅地における栽培下の結果ではあるが、ボウランが香りによってハエやコガネムシを呼んでいる可能性があること、またコガネムシの一種に食害を受けながらも花粉塊を付着させ、送粉を行わせている可能性があることが分かった。
自生地でのポリネーターが誰であるかは今のところ推測するしかないが、主に嗅覚に頼って生活し、花にもぐり込む力を持つコガネムシの仲間がそれにふさわしいのではないだろうか。



検索したところ、「怠け者の散歩道」というブログにカナブンが訪花したことが紹介されていました。やはり、コガネムシの仲間が花粉を運んでいる可能性が高いのでしょうか。(↓にリンクを貼りました)

”怠け者の散歩道 「自宅のラン:ボウランの花にやってきたカナブン」”http://ele-middleman.at.webry.info/201207/article_21.html (2014年6月25日現在)

追記 (2015年5月)
ボウランの訪花昆虫について、京大の末次健司さんとの共著で短報をまとめました。
「ボウランLuisia teres(ラン科)の訪花昆虫」という題です。本記事で書いた内容も一部含まれています。
掲載されたものが発行され次第、追って情報を書きます。

追記(2015年10月)
植物研究雑誌第90巻5号に、本記事で書いた観察結果を含む論文(題「ボウラン(ラン科)の訪花昆虫」)が掲載されましたので、ここに記します。
要約→http://www.tsumura.co.jp/kampo/plant/090/090_05.html#p359





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2014年6月10日火曜日

チリ産乾燥ミズゴケから草本が発芽した

6月8日

2ヶ月前に南米チリ産の乾燥ミズゴケに混入している植物を紹介した。
それほど大したものは入っていないだろうと思っていたが、南半球特有のナンキョクブナを始めとする様々な植物を確認することができて予想以上に興味深いものだった。

(以前の記事)
「乾燥ミズゴケに見る南米チリの植物たち その①」 

「乾燥ミズゴケに見る南米チリの植物たち その②」


観察し終えた乾燥ミズゴケは、本来の用途である園芸資材として鉢植えに使用しているが、そのミズゴケから草本がいくつも芽生えてきた。


5月7日

発芽に気づいて間もなくの頃。この段階では草丈は5mmにも満たない。

一見して単子葉類と分かる細長い葉。右側の葉の先端が茶色くなっているが、タネの殻が付いているのかもしれない。


6月8日

大分成長して、一番大きな株は葉が5枚、草丈3cmくらいになった。


全形。

ちょっと分かりづらいが、このポットに入れたミズゴケから5本ほど発芽している。
他の植木鉢のミズゴケから発芽したものを含めると、10株は超えると思う。





現在確認できる限りでは、発芽した植物は1種類のようだ。最初はどこかから風に乗って飛んできた種が発芽したのではないかと疑ったが、同一の種が、ミズゴケからのみ多数発芽したことから、チリ産のミズゴケ由来の植物で間違いないと思う。(違っていたらすみません)


さて、この植物の正体は何だろうか。
ミズゴケ中に混じっていた単子葉類の植物は、

・カヤツリグサ科のUncinia属の不明種  Uncinia sp. ※
・イグサ科のイグサ属(Juncus)の不明種 Juncus sp.1
・同じくイグサ属と思われる不明種           Juncus sp.2  

の3種である。このうち、Juncus sp.1がミズゴケに特に多く混入していた。
このことから、発芽した草本はJuncus sp.1ではないかと思っている。

(※「sp.」というのは「~の一種」という意味で、「Juncus sp.」なら「イグサ属の一種(種類不明)」という意味になります。「sp.」は特定の種類を表すものではないので注意です。)


今回、チリ産ミズゴケに混じっていたと思われるタネから草本が芽生えてきた。何も特別なミズゴケではなく、普通にホームセンターで購入した150g入り乾燥ミズゴケ、そのうち10g程度から複数本が発芽したのである。
このことから、輸入ミズゴケから何らかの草が芽生えてくる、というのはそれほど珍しい現象ではないと思われる。
「ミズゴケに混入する雑草種子を殺すために熱湯消毒した方がいい」、という記述がネット上に散見されることからもそれが伺える。

その中で一つ興味深いブログ記事を見つけた。↓

    ”遊ぶ大人の非常識 by きのこ組  「乾燥水苔から発芽?!」

イグサ科、それからイネ科と思われる草本が発芽・成長した、とのことである。
僕の購入したミズゴケから発芽した草本はこれと同じものだろうか、それとも違う種類なのだろうか。開花・結実するまで何とか育てて確認したい。

地球の裏側の植物が生えてきた、ということは非常に興味深いものの、やはり外来種問題が気になってくる。つまり、輸入乾燥ミズゴケが外来種の侵入経路となる危険があるということである。

イグサ科イグサ属の外来種、と聞いて僕がピンと来るのはコゴメイ(Juncus sp.)である。在来のイグサによく似た外来種(帰化植物)で、茎の内部に隙間があることで区別されるという。近年になって帰化が確認された種で、現時点では種名不明、原産地不明である。
単なる空論だが、「コゴメイは輸入ミズゴケ由来だった」、としたら面白いな、と思っている。

では。


<参考>
・遊ぶ大人の非常識 by きのこ組  「乾燥水苔から発芽?!」
http://petamun.blog.so-net.ne.jp/2013-05-26-1(2014年6月10日)

・日本帰化植物写真図鑑第2巻, 編・著 植村修二/勝山輝男/清水矩宏/水田光雄/森田弘彦/廣田伸七/池原直樹, 発行 全国農村協会, 2010年12月24日 初版第1刷発行

・ 食虫植物のページ 植込み (水苔)  戻しから植込みまで
http://hiros-factory.sakura.ne.jp/carnivorous/Cultivation/Sarracenia/02/Cultivation-Sarracenia-02.htm
(2014年6月10日)

・食虫植物観察日記! ハエトリソウの植え替え方
http://blog.goo.ne.jp/atlastwarabimoti/e/7223189728ffb15f39862e13907ddcbd(2014年6月10日)


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2014年6月8日日曜日

我が家のグリーンハウスウィード

6月8日

我が家ではいくつかの植物を鉢植えで栽培している。タネから育てたものもあれば、成長したものを園芸店などで購入したものもある。

ところで、鉢植えやポット苗には他の草(いわゆる雑草)が混じっているのがしばしば見られる。
「日本帰化植物写真図鑑第2巻」には、”園芸植物、特に熱帯性の観葉植物や洋ランの流通活動によって分布拡大する植物”をグリーンハウスウィード(Greenhouse weed)(温室雑草の意)と呼ぶ、と書いてある。

今回は、我が家の鉢植えで見られる「グリーンハウスウィード」を調べてみた。


コゴメミズ Pilea microphylla

恐らくコゴメミズと思う。多肉植物の鉢植えに混ざっていた。

コゴメミズは南米原産で、日本では沖縄県に帰化しているという。
本土の冬には耐えられないのだろうか。

スミレの一種 Viola sp.

コゴメミズと共に生育。在来種のスミレなどに似ているが分からない。

オッタチカタバミ  Oxalis stricta

北米原産。近年、道端で急速に増えている帰化植物のひとつ。知人に譲ってもらった鉢植えに生えていた。
タネをよく付けるので、結実する度に取り除いてはいる。

外来のオッタチカタバミか、在来のカタバミのどちらかははっきりしないが、カタバミ類は鉢植えに混入する雑草として特に目立つ種だと思う。


最後に

コバノタツナミ? Scutellaria indica var. parvifolia

山野草店で購入したポット苗に混入していた。

「グリーンハウスウィード」に含めるのは少々違和感があったが、非意図的に混入した草として一応紹介した。





コゴメミズを除けば、恐らく本州の野外で生活できる種である。
園芸植物の流通は大規模であり、外来種の分布拡大の原因のひとつとして無視することのできない存在なのではないかと思う。



<参考>
・日本帰化植物写真図鑑, 編・著 清水矩宏/森田弘彦/廣田伸七, 発行 全国農村協会, 2001年7月26日 第1刷発行

・日本帰化植物写真図鑑第2巻, 編・著 植村修二/勝山輝男/清水矩宏/水田光雄/森田弘彦/廣田伸七/池原直樹, 発行 全国農村協会, 2010年12月24日 初版第1刷発行




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