研究室メンバーの植物観察会で、富士五湖の河口湖を訪れた。
河口湖は富士河口湖町の市街地に接し、富士五湖中で最も開発が進んでいる感があるが、湖畔は様々な湿生植物の生育地になっている。中でも、日本での分布が北海道と富士五湖に限られるスゲ属の一種、カヤツリスゲ(国RLで絶滅危惧IB類)は貴重かつ特徴的な存在だろう。
湖畔で目立つ植生はヨシ群落。しかし、カヤツリグサ科の一年草などで構成される、植生高の低い植物群落も成立している。
この群落の立地は、ヨシ群落よりも湖面からの比高(湖抜?)が高く、増水時のみに水に浸かる環境であるようだ。波打ち際ゆえに冬場の波による攪乱や新たな土砂の堆積を受けやすく、一年草の生育に適した環境になっているのかもしれない。
メアゼテンツキFimbristylis velata R.Br.(カヤツリグサ科テンツキ属)
ウシノシッペイHemarthria sibirica (Gandog.) Ohwi
(イネ科ウシノシッペイ属)
ヒロハノコウガイゼキショウ?
(イグサ科イグサ属)
コウガイゼキショウの仲間は種同定に苦労する。
葉が多管質の種のようなので、ヒロハノコウガイゼキショウかコウガイゼキショウだろうか。
アオヒメタデ?
(タデ科イヌタデ属)
湿地生のイヌタデ属も、種数が多く種同定に悩むグループ。
標本は採ったが種同定はまだしていない。
様々な湿生植物が出現し、種同定に迷いながらも楽しい観察が続いたが、カヤツリスゲは見つからない。
河口湖とはいえ発見するのは難しいのだろうか、と思いながら、場所を移して探索を続けた。
しばらくして、土手の刈り取り草地とヨシ群落の境界付近でミコシガヤCarex neurocarpa Maxim.を見つけた。
ミコシガヤは河川氾濫原のように攪乱されやすい立地を好み、スゲ属の中ではやや雑草的な性格を持つ。短命な多年草と言われるカヤツリスゲと生育立地が似ているのでは、と考え、期待が高まる。
さらに探索すること約5分、ついにカヤツリスゲを見つけた。生育立地が似ていると予想したミコシガヤと一緒に生えていた。
帰路に着きかけていた同行者を呼び戻し、観察を再開した。
カヤツリスゲCarex bohemica Schreb.はカヤツリグサ科スゲ属の一種。和名が示すように、カヤツリグサ属を思わせる花序を持つ。シノニム(現在採用されていない学名)もCarex cyperoides Murrayであり、「カヤツリグサ(属)っぽいスゲ」の意味になる。
日本での分布は限られるがユーラシアに広く生育していて、学名の種小名「bomemica」はボヘミア(チェコ中西部)を指しているものと思われる。
図鑑で河口湖産のカヤツリスゲの写真を見て以来、実物をずっと見てみたいと思っていた。実物に対面でき、とても嬉しかった。
ちなみに、カヤツリスゲと混生していたミコシガヤの分布域は、日本の本州以南を含む東アジアに限られる。富士五湖は日本で、もしかすると世界で唯一、カヤツリスゲとミコシガヤが一緒に暮らす場所なのかもしれない。
<参考文献>
勝山輝男 2015. 日本のスゲ 増補改訂. 文一総合出版
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