植物調査の手伝いで宮城県気仙沼市の湿地を訪れた。ここは海岸の至近に位置し、2011年3月の津波を被っている。
震災後、防潮堤設置などの工事が気仙沼でも例外なく行われているが、この湿地は地主の方の尽力により守られており、動物相などに関する調査・研究の舞台にもなっている。
湿地は海と接してはいないが、潮が満ちると隣の川(土管で湿地と連絡している)から塩水が流れ込み、水位が変化する。
淡水から塩水、陸域から水域。異なる環境が連続的に存在するこの場所では、様々な生物が生息している。
環境の連続性を象徴するように、塩性湿地から淡水湿地にかけての植生の移り変わりが見られる。
最も内陸側の、淡水の流路沿いには、カサスゲCarex dispalata Boottを主体とする植物群落が発達する。
昆虫や両生類などが多いエリアでもある。
ヒメヨツバムグラGalium gracilens (A.Gray) Makino
(アカネ科)
オオカワズスゲCarex stipata Muhl. ex Willd.
(カヤツリグサ科)
タニヘゴDryopteris tokyoensis (Makino) C.Chr.
(オシダ科)
谷津などの湿地に多い大型シダ。種小名が示すように、基準産地は東京だが、東京では絶滅している。東北などでは今でも比較的多いが、関東以西の都府県では絶滅危惧等の扱いになっていることが多い。
アカハライモリCynops pyrrhogaster (Boie, 1826)
(イモリ科)
ヒメギス?
イトトンボの仲間(確認中)
ホソミオツネントンボ?
流路を除く大半の場所では、やや乾いた場所から浅水中に至るまで、ヨシ群落が広がっている。
浅水中では写真中央に写る、フトイSchoenoplectus tabernaemontani (C.C.Gmel.) Pallaなどが混生している。
海水の影響を受ける水際では、塩生植物(塩分濃度の高い立地でも生育できる植物)で構成される植物群落が広がっている。
写真中で最も目立つのはタチドジョウツナギPuccinellia nipponica Ohwi(イネ科)。
タチドジョウツナギは宮城県では絶滅危惧種等に指定されていないものの、分布域が東北地方太平洋側に限られており、本地域の塩性湿地を特徴づける存在と言える。
福島県などでは震災後に新たな生育地も発見されており、津波による攪乱が本種に適した環境を作ったのかもしれない。
熟した果実は花序から容易に外れ、水面を漂う。そのまま潮の流れに乗れば、新たな生育地へ向けて旅することになる。
アキノミチヤナギPolygonum polyneuron Franch. et Sav.
(タデ科)
本種も塩性湿地に特徴的な植物。
ナガミノオニシバZoysia sinica Hance var. nipponica Ohwi
(イネ科)
塩性湿地に生えるシバの仲間。
岩手県以南に分布。
これらの他に、ハマゼリ、ハチジョウナ、トウオオバコ、ホウキギク、シオクグなども見られた。
塩生植物が生える立地は、すなわち干潟であり、干潟の生き物も数多く生息している。
写真はカニの一種。
ウミニナの仲間?
水深の深い場所にはカワツルモが群落を作っている。
カワツルモRuppia maritima L.はカワツルモ科の多年草で、汽水の水中に生える。
世界各地に分布し、日本でも全国に分布しているものの、多くの地域で絶滅が危惧されている。
<学名の引用元(2018年12月21日現在)>
植物・・・植物和名-学名インデックス YList(http://ylist.info/index.html)
両生類・・・日本産爬虫両棲類標準和名(http://zoo.zool.kyoto-u.ac.jp/herp/wamei.html)
昆虫・・・確認中
<参考文献>
1.齋藤若菜・渡邉祐紀・黒沢高秀 2016. 福島県相馬市小泉川・宇多川河口に震災後新しく出来た塩性湿地・干潟の植物相および植生. 福島大学地域創造, 27(2): 73-92.
2.角野康郎 2014. ネイチャーガイド 日本の水草. 文一総合出版.
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