2016年4月3日日曜日

小笠原諸島母島のスゲ セキモンスゲとヒゲスゲ

小笠原諸島の母島にて。

セキモンスゲCarex toyoshimae Tuyamaが生育しているのを見つけた。








セキモンスゲはカヤツリグサ科スゲ属の一種であり、小笠原諸島の固有種である。本種は小笠原諸島内でも今のところ母島でしか分布が確認されていない。かつては父島にも分布する、とされていたが、父島のものは近年になって別種(ウミノサチスゲ)と判明している(勝山 2015)。


花序。
頂小穂(花序の先端に付く小穂※)は雄性、側小穂(花序の途中に付く小穂)は雌性である。








側小穂の拡大。花期は終わり、雌花はいずれも実になっていた。
果胞※は緑白色の雌鱗片に覆われており、先端のみが顔を出している。
雌鱗片の先端からは短い芒(のぎ)が出ている。





こちらは昨年1月に観察した際のセキモンスゲ。ちょうど花期を迎えていた。











ところで、母島の林床には広域分布種のヒゲスゲCarex boottiana Hook. et Arn.も広く生育している。

ヒゲスゲは澤田ほか(2007)において「海岸植物※」に分類されている。しかし、小笠原諸島では(例外的に?)海岸だけでなく内陸の森林内まで生育が及んでおり、時には草本層の優占種となるほど個体数が多い。
林内に生えるヒゲスゲは海岸部に生えるものと比較して葉が細く柔らかく、さらに小穂の幅が狭いものが多いため、一見するとヒゲスゲに見えないほどである。

セキモンスゲとヒゲスゲの見分けは、小穂が出ていれば比較的容易である。
ヒゲスゲの側小穂を見ると、セキモンスゲのそれと比べて随分とトゲトゲしい。これは、雌鱗片の先端の芒が長いためである。





その他には

・セキモンスゲの葉はヒゲスゲの葉よりも濃緑色であることが多い
・ヒゲスゲの葉の縁はざらつくが、セキモンスゲの葉は質が柔らかく、縁があまりざらつかない
・ヒゲスゲの方が果期が早く、1月にはほとんどの個体で結実している。セキモンスゲの果期は3月以降

なども識別の参考になると思われる。

また、乳房山林道沿いで観察すると、ヒゲスゲは主に低標高域に生育するが、セキモンスゲはより高標高の場所(約300 m以上)に限って生育しており、両種は標高に応じてある程度棲み分けているようだ。


母島に分布するスゲにはもう一種、ムニンナキリスゲCarex hattoriana Nakai ex Tuyamaがある。
母島においてはムニンナキリスゲの分布は限られているようで、見かける機会はあまり多くない。また、他2種とは形態がかなり異なっており、小穂が出ていれば区別に困ることはないと思う。





※について
・小穂(しょうすい)・・・多数の花が1本の軸に付いてまとまりを作ったもの。なお、日本語で小穂と呼ぶものにはspike(スゲ属を除くカヤツリグサ科の多くやイネ科などの小穂)と、spikeが集まってできたspikelet(スゲ属でいうところの小穂)があるそうだが、私の理解が進んでいないこともあり、ここでは説明を省く。
・果胞(かほう)・・・雌花を包む壺状の器官。外観で果実のように見えるものはこの果胞である。スゲ属の場合、果実は果胞にすっぽりと包まれているため外からは見えない。
・海岸植物・・・海と陸との境界部の立地(例えば砂浜、海崖、塩湿地)を主要な生育場所とし、それ以外の立地にはほとんど出現しない種

<参考>
・勝山輝男 2005. ネイチャーガイド 日本のスゲ. 文一総合出版.
・勝山輝男 2015. ネイチャーガイド 日本のスゲ 増補改訂. 文一総合出版.
・木場英久,茨木 靖,勝山輝男 2011. イネ科ハンドブック. 文一総合出版.
・澤田佳宏・中西弘樹・押田佳子・服部保.2007.日本の海岸植物チェックリスト.人と自然 17:85-101.
・谷城勝弘 2007. カヤツリグサ科入門図鑑. 全国農村教育協会.
・豊田武司 2014. 小笠原諸島 固有植物ガイド. ウッズプレス.

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