大学の授業で、兵庫県のとある場所の水田地帯を訪れた。
扇状地の末端にあたるこの場所では、用水路を流れる水は河川から引いたものではなく、湧き水(伏流水)由来である。
湧き水で涵養されるこの用水路には、淡水紅藻のカワモズクの仲間が生育する。
赤褐色の大きなかたまりがチャイロカワモズク Batrachospermum arcuatum、緑色で小さなかたまりがアオカワモズクBatrachospermum helminthosum。
この場所ではチャイロカワモズクの方が旺盛に生育していた。
チャイロカワモズク、アオカワモズクともに環境省のレッドデータで準絶滅危惧、兵庫県レッドデータでBランク(絶滅危惧Ⅱ類相当)に指定される。
観察のために採集したもの。
上の緑色のものがアオカワモズク、下二つがチャイロカワモズク。
「モズク」と言われるだけあって、触るとぬるぬるしてつかみづらい。かつては食用に利用されたそうだ。
観察した個体の大きさはチャイロカワモズクが5cm前後、アオカワモズクが2~3cmくらい。ただし、アオカワモズクは生育後期のためかあまり元気がなく、実際にはもう少し大きく成長するのだと思う。
採集したものを観察。肉眼では、楕円のかたまりが、じゅず状に連なっているように見える。
個人的にはミミズの仲間か、植物でいえばヒノキの枝葉に少し似ているように思った。
顕微鏡で拡大(目盛は確か1mm単位)。
肉眼で楕円のかたまりに見えたものは、細かな枝(輪生枝というらしい)の集まり。中軸の節ごとからまとまって生える。
さらに拡大して輪生枝を見る(こちらはアオカワモズク)。目盛は多分0.1mm。
輪生枝は1列の細胞で形成されていることが分かる。枝の先端には丸っこいものがあるが、これは精子嚢なのだそうだ。 チャイロカワモズク、アオカワモズクとも雌雄異株が基本で、今回観察したのはすべて雄株だった。
また、写真の下部に点々と写る小さく丸いものは、恐らく精子嚢から飛び出したアオカワモズクの精子。自ら動くことのできない「不動精子」と呼ばれるもので、水の流れで造果器(造卵器にあたる)へ運ばれ、受精するという。
花粉を風や動物などに運ばせて受粉、受精を行う種子植物と少し似ている。
紅藻の仲間には、寒天の原料となるテングサの仲間や、ノリ(アサクサノリ、スサビノリなど)などよく知られた「海藻」が含まれる。 海において、紅藻や褐藻、緑藻などを含む海藻は、大型の生産者として重要な存在である。
一方、淡水域の大型生産者といえば維管束植物(シダ、種子植物)、特に被子植物であるため、自分は今まで藻類を注目することはほとんどなかった。しかし、小型ではあるものの海藻のように立派に育つカワモズクの姿を見て、案外重要な存在なのかも、と少し印象が変わった。
今後は藻類の存在にも目を向けながら、淡水域の植生を観察してみようと思う。
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