固有種のヒメツバキ、タコノキ等から成る森林 |
大陸と一度も繋がったことのない海洋島の小笠原は、ここでしか見ることのできない固有の生物が多く、このうち植物は自生種の約4割が固有種である。
コショウ科のシマゴショウPeperomia boninsimensisも固有種の一つ。小笠原諸島のうち父島、兄島、母島、それから火山列島に分布する。
四国・九州~琉球の海岸近くに生育するサダソウP. japonicaなどが近縁種とされる。
海から離れた林内の樹木の幹や岩などに張り付くように生育し、とりわけ霧がかかりやすい高標高域で個体数が多いようだ。
シマゴショウは茎の先に花序を上向きに付け、小さな花を咲かせる。花後に付ける果実も大きさ約1mmと目立たない。
サダソウ(ペペロミア)属の植物は多肉質の葉などが美しく、観葉植物に広く用いられるが、多くの種が同様に地味な花と果実を付けるようである。
しばらく観察しているうちに、手に細かな粒が付着していることに気が付いた。
シマゴショウの果実である。たまたま花序を触った際にくっついたらしい。
軽く払ったくらいでは外れないことから、小さなトゲか粘液を出しているのではないか、と考え、果実を詳しく観察することにした。
手持ちのデジタルカメラ(STYLUS TG-3)のマクロモードで撮影する。
拡大してみると、果実の表面に白色のボツボツが沢山生えていることが分かった。カギ針が生えているか、粘液で覆われているか、と考えていたので、思いがけない構造に驚く。
後日、図鑑を開いてみると、この構造について、「子房は球形で表面に乳頭状突起がある」(小笠原諸島 固有植物ガイド 豊田武司)と記述があり、以前から知られていたものと分かった。果実の中には1個の種子が入っているとのことである。
許可なしの採取はできないので顕微鏡などでの観察はできなかったが、果実に他の目立った構造物はなく、粘液で覆われている様子もないので、恐らく乳頭状突起が”のり”のような役割を果たしているのではないかと思う。
シマゴショウは、果実の特徴から何者かにくっ付いて分布を広げる「付着散布」の戦略を取っていると考えられる。
シマゴショウのように木の幹や岩などに張り付いて育つ植物を「着生植物」といい、シダ植物やラン科植物などが主なメンバーである。彼らは非常に細かい胞子や果実(種子)を風で飛ばし、樹上にたどり着くことができる。
シマゴショウの果実は小さいとはいえ、風で飛ばされるほどのものではなく、どうやって樹上や岩上にたどりついたのか疑問だったが、恐らく樹上を歩き回る小動物の体表にくっ付いてあちこちに運ばれているのだろう。小笠原諸島において、固有種のメグロやハシナガウグイスなどの小鳥、外来種のクマネズミなどがその役割を担っているのかもしれない。
もっと大きな時間スケールで考えると、付着散布という特性を持っていたがために、シマゴショウの祖先は鳥にくっ付いて小笠原にたどり着くことができたのかもしれない。
近縁のサダソウの果実も良く似た構造を持つようで、同様に付着散布であることが伺える。他のサダソウ属Peperomiaの植物がどのような種子散布戦略を持つのか、気になるところである。
<参考・引用>
・小笠原諸島 固有植物ガイド, 豊田武司著, 株式会社ウッズプレス発行, 2014年12月15日 初版第1刷発行
・愛媛県レッドデータブック2014 サダソウ
http://www.pref.ehime.jp/reddatabook2014/detail/09_08_005690_2.html(2015年1月20日閲覧)
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