2016年6月9日木曜日

ブラジル旅行&学会 Lowland Atlantic Rain Forest (低地の大西洋岸森林)

6月7日

サンパウロ州にて。

低地に広がるAtlantic Rain Forest(大西洋岸森林)を歩いた。

観察地での高木層の高さは20 m前後。森林の構成種は非常に多く、とくに手の届かない高木の把握は難しい。必然的に亜高木層以下の植物の観察がメインとなった。

Myrcia spectabilis。 フトモモ科(Myrtaceae)。亜高木。


Psychotria nuda。 アカネ科(Rubiaceae)。

低木。赤紫色のガク片が印象的。

Cordia sp.。ムラサキ科(Boraginaceae)。
低木。

Oncidium sp.。ラン科(Orchidaceae)。着生植物。

園芸植物としておなじみのオンシジューム。ただ、近年に分類体系が変更されたため、写真のものは正しくはOncidium属ではないかもしれない。

Rhipsalis sp.。サボテン科(Cactaceae)。着生植物。

サボテンといえば砂漠の植物、というイメージが強かったが、思いのほか着生種が多い。



Tillandsia usneoides。ブロメリア科(Bromeliaceae)。着生植物。

Lygodium sp. ?。 つる植物。

日本でよく見かける「カニクサ」と同属のシダと思われる。

Vigna sp.。 マメ科(Fabaceae)。

ササゲやインゲンマメによく似ている。

Momordica sp.。 ウリ科(Cucurbitaceae)。

ツルレイシ属。すなわちニガウリ(ゴーヤー)の仲間。

Piper sp.。 コショウ科(Piperaceae)。

コショウ属(Piper)は非常に多かった。左写真の種はつる植物だが、低木状の種もいくつかあった。

Bromeliaceae sp.。ブロメリア科の何か。

Bromeliaceae sp.。これもブロメリア科の何か。

Heliconia sp.。 オウムバナ科(Heliconiaceae)。

ハチドリとの共進化で有名。

Dorstenia sp.。 クワ科(Moraceae)。

ドルステニアのことは多肉植物の一種として知っていたが、今回見たものは普通な姿の草本。花序はドルステニアらしく円盤状の独特な姿をしていた。

Elephantopus sp.。 キク科(Asteraceae)。

沖縄などに帰化しているシロバナイガコウゾリナなどが同属に当たる。ひょっとするとシロバナイガコウゾリナそのものかもしれない。








植物以外の生き物たち。

ハチドリの一種。

バードサンクチュアリにて。他にも数種がやってきていた。エクスカーション主催の方によれば、バードサンクチュアリが低地と山地の間に位置しているため、別々の環境に住む複数種のハチドリが集まるのだという。



その他の鳥類(科名などは調べ中)。
果物に集まっていた。中にはハチドリに混じってホバリングし、ペットボトルから砂糖水?を飲んでいる個体も。

ヘビの一種。

観察地周辺では、もっとも毒性の強い種らしい。

ドクチョウの一種(Heliconiinae sp.)。



2016年6月8日水曜日

ブラジル旅行&学会 マングローブ林とその周辺

6月7日

学会エクスカーション2日目。前日は空港から宿までの移動だけだったので、今日からが本格的な観察である。エクスカーションの参加者は20人。日本人参加者は僕一人。

今回、エクスカーションで訪れているのはリオデジャネイロ州のParaty周辺と、サンパウロ州のCunha周辺。気候としては亜熱帯に相当し、この辺りの森林はAtlantic (Rain) Forestと呼ばれる。

7日に主に観察したのは、マングローブ林と亜熱帯林。とりあえずはマングローブをはじめとする海岸植生についてまとめる。

マングローブと向かいあって成立する砂丘植生。
優占するのはイネ科のSpartina sp.。ウコギ科sp.、ヒユ科sp.、カヤツリグサ科sp.などを交える。

ウコギ科sp.。おそらくHydrocotyle属。日本で特定外来生物に指定される「ブラジルチドメグサ」に近いものと思う。

カヤツリグサ科sp.。周囲の方はScripus(ホタルイ属)ではないかと言っていた。個人的にはFimbristylis(テンツキ属)のように見えたが。

マングローブ林。Escuro川の河口に成立する。
高木層の高さは8~10 m程度で、日本の西表島とそれほど変わらない印象。

Rhizophora sp.。日本のヤエヤマヒルギと同属にあたる。

Avicennia sp.。日本のヒルギダマシ(キツネノマゴ科)と同属。

Laguncularia sp.。シクンシ科。

日本には分布しない属。ただし、同じシクンシ科のヒルギモドキは日本のマングローブの構成種である。
Acrostichum sp.。マングローブ林の林床に生育する大型のシダ。
日本では、八重山諸島に同属のミミモチシダが分布。

マングローブ林では着生植物の多さに驚かされた。

左写真はおそらくTillandsia stricta(ブロメリア科)。


Vriesea sp.?。やはりブロメリア科。

Microgramma sp.。


ブロメリア科とシダの着生種は、他にもそれぞれ2、3種はあった。

ラン科の一種。個体数は多かったが、花は全て終わっていた。














マングローブ林に隣接した海岸部にて見たもの。


Paullinia sp.。ムクロジ科。

Schinus sp.。ウルシ科。

日本では「ピンクペッパー」の名で売られている。

Munuca sp.。マメ科。

豆(種子)と鞘(果実)。

日本では同属のものとしてワニグチモダマなどがある。

グンバイヒルガオ Ipomoea pes-caprae。ヒルガオ科。

日本でも沖縄などに分布。
海流で種子が散布される植物には分布範囲が広いものが多いが、グンバイヒルガオは最たるものだろう。

Polygala sp.。ヒメハギ科。
草体には樟脳を思わせる香りがあった。














6月11日 追記 
マングローブ林の構成樹種に関して、いくつか誤りがありました。訂正します。



2016年6月7日火曜日

ブラジル旅行&学会 1.6月5日~6日

6月5日
 学会(IAVS2016)に参加するためにブラジルへ。自身初のブラジル&南米渡航である。
学会シンポジウムが行われるのは12日からだが、それに先立ち6日から行われる、学会主催のエクスカーションに参加するため早めにブラジルへ向かう。



ブラジルまでの航路は、関西国際空港→香港→ニューヨークJFK空港→グアルーリョス空港(サンパウロ)。

10時 関西空港発。
この日の関西は雨。窓の外には雲海が広がる。

台湾上空で雲が切れた。台湾西部と澎湖諸島だろうか。

着陸直前。

眼下に香港の町並みを望む。

17時頃。
香港からニューヨークに向かう。この航路の飛行時間は約15時間。

香港-ニューヨーク航路は日本南岸をかすめるようにして進んだ。今回、香港経由(キャセイパシフィック使用)が最も安かったのでこの便に乗ったが、距離や時間の面から見れば、日本から直行でニューヨークを目指すのよりも大分効率が悪い。

夕食。

予定より約1時間遅れでニューヨークに到着。

元々、ニューヨークでの乗り継ぎ時間は2時間しかなかったのでどうなることかと気をもんでいると、案の定?機内で名前が呼ばれる。
係の人に連れられ、先を急ぐ。

途中からは、やはりサンパウロ行きの便に乗る台湾人のおばさんと一緒に行動する。この方が英語が堪能だったので助かった。ニューヨークでの乗り継ぎはターミナル間の移動を含むやや複雑なもので、一人で行動していたら途方に暮れていたかもしれない。


ギリギリ搭乗手続きを終えて待合室に到着。すると、サンパウロ行きの飛行機が遅れるとの案内。何のために大慌てしたのだろう、と、台湾の方と苦笑いする。

飛行機会社(アメリカンエアラインズ)から配られた飲み物やお菓子をつまみながら、しばし待機。

6日 午前1時。
予定より3時間遅れで出発。


12時頃。 グアルーリョス空港着。日本からの所要時間は合計約38時間だった。
到着直前には、雲の切れ間からサンパウロの市街地が見えた。


入国審査は思っていたよりもスムーズに終了。
ターミナル内でエクスカーションを主催するFidelis教授と無事に合流。

エクスカーション参加メンバー20人とともにバスで移動。20時頃、宿に到着。

2016年4月21日木曜日

三浦にて 海岸の植物観察

4月中旬。

三浦半島の海岸部を訪れた。


神奈川県東部に位置する三浦半島は、横浜や東京都心に近接しており宅地開発が著しい。また、三浦大根やキャベツ、スイカなどで知られるように、平坦地には耕作地も広がる。

その一方で、海岸部や丘陵地には今でもかろうじて自然が残っている。特に、海岸に広がる草原には房総半島と三浦半島、伊豆半島に固有の植物たちが生育しており、全国的に見ても興味深い場所である。


ヒロハクサフジ Vicia japonica var. japonica(マメ科)

別名ハマクサフジのとおり、海岸部に主に生育する。北日本が分布の中心。
神奈川県では三浦半島に多く、他の地域ではほとんど見られない。
ハマエンドウLathyrus japonicus  subsp. japonicus(マメ科)
オオジシバリIxeris japonica(キク科)









ハマエンドウは、砂浜を主な生育立地とする海岸植物。園芸植物のスイートピーとは同属。
神奈川県植物誌によれば、神奈川県では「海岸線に分布し普通」らしい。しかし、湘南地域の海岸では開発が進み、絶滅状態の場所も多いと思う。三浦半島では今のところ健在のようである。

オオジシバリは内陸にも広く生育するが、海岸でもしばしば見かける。

ミヤコグサLotus corniculatus var. japonicus(マメ科)

内陸にも生育するが、海岸付近の芝地などで特にまとまって生育しているように思う。


カントウタンポポTaraxacum platycarpum subsp. platycarpum(キク科)

関東地方を中心に分布する在来タンポポ。近年はセイヨウタンポポに押され気味といわれるが、海岸近くの芝地では本種が優勢だった。



人里に生えるイメージが強いタンポポだが、海岸も案外重要な生育場所なのだろうか。

ところで、千葉県の海岸にはボウシュウタンポポなる種が生えているらしい(本種が記述されている千葉県植物誌を見ていないので、詳細は未把握)。
房総半島と三浦半島に共通して分布する植物は多いが、ボウシュウタンポポはひょっとしたら三浦にも生育しているのだろうか。

ヒゲスゲ Carex wahuensis(カヤツリグサ科)

がっしりとした姿のスゲ。主に海岸部に生育し、三浦半島の岩礁海岸ではどこでも普通に見かけた。


トベラ Pittosporum tobira(トベラ科)

海岸近くの低木林の主要構成種。
ありふれた樹木だが、花は美しく香りも良い。
ケナシヒメハギ Polygala japonica forma. nudicaulis(ヒメハギ科)。

ヒメハギは内陸に広く生育する多年草であり、ケナシヒメハギはこれの海岸型品種に当たる。茎葉が無毛で光沢を持つことが特徴である。




本品種は近田文弘氏によって近年記載されたものであり、神奈川県植物誌2001や主要な図鑑には名前が出ていない。
僕自身、最近入手した「伊豆須崎 海岸草木列伝」で初めてその存在を知った。

ところで、ケナシヒメハギを観察したのとは別の海岸では、茎に毛がある個体も見つけた。これはいわゆる”ふつうの”ヒメハギに当たるのだろうか。また、茎が有毛の個体でも葉がやや分厚く光沢を持っているものもあった。




ヒメハギとケナシヒメハギははっきりと二分できるものではなく、形態は連続的に変化しているのではないかと思う。


テリハニオイタチツボスミレ Viola obtusa var. nuda(スミレ科)?

テリハニオイタチツボスミレ(別名ケナシニオイタチツボスミレ)は、花柄に毛が無いことでふつうのニオイタチツボスミレと区別される。
今回観察した個体はいずれも花柄が無毛であり、テリハニオイタチツボにあたると思われた。

悩ましいことに、神奈川県植物誌2001によれば、ニオイタチツボスミレにはハマニオイタチツボスミレV. obtusa var. lucidaという海岸型の変種もあるらしい。ハマニオイ~は、花柄が無毛なことに加えて葉に光沢があること、花の色がより濃いことなどが特徴らしい。
僕が観察した個体はテリハニオイタチツボなのか、それともハマニオイタチツボなのか、図鑑の記述を見ただけでは判断ができない。


ヒメハギやニオイタチツボスミレに限らず様々な植物で、海岸特有の変種や品種が報告されている。これら海岸型変種・品種は、典型的な個体は内陸のものと形態(例えば茎葉の毛の有無、葉の光沢の有無や厚さ)が明らかに異なるのだが、それに混じって中間型と思われるものも生育しており、種同定の際の悩みの種である。



<参考>
神奈川県植物誌調査会 2001. 神奈川県植物誌2001. 神奈川県立生命の星・地球博物館. (各種の特徴、ハマニオイタチツボスミレについて)
近田文弘 2007. 伊豆須崎 海岸草木列伝. トンボ出版. (ケナシヒメハギについて)
Konta F. , Matsumoto S. 2006.  New or Interesting Angiosperms from Suzaki, Shimoda City, Central Japan.  Bulletin of the National Science Museum. Series B, Botany 32: 35-45.
邑田 仁・米倉浩司 2012. 日本維管束植物目録. 北隆館. (学名を引用)



2016年4月4日月曜日

おがさわら丸のタイル画に描かれた植物たち


父島二見港に停泊する「おがさわら丸」。
小笠原諸島と本土を結ぶ唯一の貨客船である。



おがさわら丸の船内でひときわ目を引くのが美しい花々が描かれたタイル画。
一つ一つの花を見てみると、小笠原に自生する種と思われるものが含まれていることに気づく。




これだけ目立つタイル画のこと、どこかに描かれた植物の情報があるだろうと思い検索したが見当たらなかった。

自分なりに種同定することにした。



まずは左上。
ここには2種類のヤシ科と思われる植物が描かれている。

まず、左下の扇形の葉は、小笠原固有変種の「オガサワラビロウ Livistona chinensis var. boninensis」だと思われる。

次に、真ん中で存在を放つヤシ。候補としては小笠原固有種の「ノヤシ Clinostigma savoryanum」、それから自生はしないが広く植栽されている「ココヤシ Cocos nucifera」が思いつく。葉や幹の雰囲気はココヤシに近いが、それにしては大きな実(ココナッツ)が描かれていないのが不自然な気もする。
どちらの種かは判断付けがたいが、ここは固有種のノヤシということにしたい。


次に左下。

まず、白い花を多数付けた植物は固有種の「ヒメツバキ Schima mertensiana」だろう。ヒメツバキは小笠原村の花にも指定されており、小笠等諸島を代表する花木である。


次に、ヒメツバキの下に描かれた植物。葉裏と新芽が赤さび色であること、また葉の形状から判断すると「コバノアカテツ Planchonella obovata var. dubia」が妥当だと思う。
コバノアカテツはアカテツの変種で、小笠原諸島と沖縄の大東島に分布する。

次に、ヒメツバキの右隣に描かれた黄色の5弁花は、園芸植物として小笠原でも栽培される「アリアケカズラ Allamanda cathartica」だろうか。これについてはあまり自信はない。

最後に、右下に2個描かれた花は、小笠原固有種の「テリハハマボウ Hibiscus blaber」か広域分布種の「オオハマボウ Hibiscus tiliaceus」と思われる。絵からはどちらの種なのか判別できないが、小笠原なのだし固有種のテリハハマボウということにしておく。


右上。

まず、一番上に描かれた赤い花は、恐らく「デイコ Erythrina variegata var. orientalis」だろう。
デイゴ(デイコとも)は小笠原では「ビーデビーデ」と呼ばれて親しまれている花木。かつては固有種ムニンデイゴとされていたが、今では沖縄等で見られるデイゴと同種とされている。

次に、デイコの下に描かれたパイナップル様の植物は小笠原固有種の「タコノキ Pandanus boninensis」だろう。

それから、タコノキの右隣に描かれているのは、おなじみの「ハイビスカス Hibiscus rosa-sinensis」だろう。ちなみに、ハイビスカスの標準和名は「ブッソウゲ」という。

ここには他に、左に描かれた赤い花と、右上に描かれた玉状に咲いたピンク色の花?があるが、残念ながら検討がつかない。左の花はかなり特徴的な姿をしており、種判別は十分に可能だと思うのだが。(2017年11月追記 左が「シクンシ Combretum indicum、右上がサンダンカIxora chinensisではないか?)



最後に右下。

まず、左側の赤い花は、先ほども登場したブッソウゲ(ハイビスカス)で良いだろう。

次に、右上の白い4弁花は小笠原固有種の「ムニンノボタン Melastoma tetramerum」でよいと思う。ムニンノボタンは小笠原諸島の中でも父島のみに分布、個体数が非常に少なく保護増殖が行われている。

最後に、ムニンノボタンの下の花は「ハハジマノボタン Melastoma tetramerum var. pentapetalum」だと思う。
ハハジマノボタンはムニンノボタンの変種で母島に固有。花弁は5枚で淡紅色を帯びる。タイル画に描かれたノボタンsp.は4弁花の点で異なるが、花色から判断すればハハジマノボタンが妥当だろうと判断した。



以下、タイル画に描かれた植物の種名をまとめる。

<固有(変)種>
・オガサワラビロウ
・ノヤシ
・ヒメツバキ
・テリハハマボウ
・タコノキ
・ムニンノボタン
・ハハジマノボタン

<広域分布種>
・コバノアカテツ
・デイゴ(人為的に持ち込まれたとする説もある)

<園芸種>
・アリアケカズラ
・ブッソウゲ
・不明種1
・不明種2

計13種

種同定にいくつか不安があるものの、描かれた植物の約半分は小笠原固有種ということになる。さらに、コバノアカテツとデイゴもかつては小笠原固有種とされていたことから、この2種も固有種として描かれたのかもしれない。タイル画のモチーフに小笠原ならではの植物が多く取り入れられていることをうれしく思った。
現おがさわら丸は今年夏をもって小笠原航路を引退し、新しい船にバトンタッチする。よって、このタイル画も今年で見納めになるかもしれなく、少し残念である。



<参考>
・豊田武司 2003. 小笠原植物図譜(増補改訂版). アボック社.
・豊田武司 2014. 小笠原諸島固有植物ガイド. ウッッズプレス.

2016年4月3日日曜日

小笠原諸島母島のスゲ セキモンスゲとヒゲスゲ

小笠原諸島の母島にて。

セキモンスゲCarex toyoshimae Tuyamaが生育しているのを見つけた。








セキモンスゲはカヤツリグサ科スゲ属の一種であり、小笠原諸島の固有種である。本種は小笠原諸島内でも今のところ母島でしか分布が確認されていない。かつては父島にも分布する、とされていたが、父島のものは近年になって別種(ウミノサチスゲ)と判明している(勝山 2015)。


花序。
頂小穂(花序の先端に付く小穂※)は雄性、側小穂(花序の途中に付く小穂)は雌性である。








側小穂の拡大。花期は終わり、雌花はいずれも実になっていた。
果胞※は緑白色の雌鱗片に覆われており、先端のみが顔を出している。
雌鱗片の先端からは短い芒(のぎ)が出ている。





こちらは昨年1月に観察した際のセキモンスゲ。ちょうど花期を迎えていた。











ところで、母島の林床には広域分布種のヒゲスゲCarex boottiana Hook. et Arn.も広く生育している。

ヒゲスゲは澤田ほか(2007)において「海岸植物※」に分類されている。しかし、小笠原諸島では(例外的に?)海岸だけでなく内陸の森林内まで生育が及んでおり、時には草本層の優占種となるほど個体数が多い。
林内に生えるヒゲスゲは海岸部に生えるものと比較して葉が細く柔らかく、さらに小穂の幅が狭いものが多いため、一見するとヒゲスゲに見えないほどである。

セキモンスゲとヒゲスゲの見分けは、小穂が出ていれば比較的容易である。
ヒゲスゲの側小穂を見ると、セキモンスゲのそれと比べて随分とトゲトゲしい。これは、雌鱗片の先端の芒が長いためである。





その他には

・セキモンスゲの葉はヒゲスゲの葉よりも濃緑色であることが多い
・ヒゲスゲの葉の縁はざらつくが、セキモンスゲの葉は質が柔らかく、縁があまりざらつかない
・ヒゲスゲの方が果期が早く、1月にはほとんどの個体で結実している。セキモンスゲの果期は3月以降

なども識別の参考になると思われる。

また、乳房山林道沿いで観察すると、ヒゲスゲは主に低標高域に生育するが、セキモンスゲはより高標高の場所(約300 m以上)に限って生育しており、両種は標高に応じてある程度棲み分けているようだ。


母島に分布するスゲにはもう一種、ムニンナキリスゲCarex hattoriana Nakai ex Tuyamaがある。
母島においてはムニンナキリスゲの分布は限られているようで、見かける機会はあまり多くない。また、他2種とは形態がかなり異なっており、小穂が出ていれば区別に困ることはないと思う。





※について
・小穂(しょうすい)・・・多数の花が1本の軸に付いてまとまりを作ったもの。なお、日本語で小穂と呼ぶものにはspike(スゲ属を除くカヤツリグサ科の多くやイネ科などの小穂)と、spikeが集まってできたspikelet(スゲ属でいうところの小穂)があるそうだが、私の理解が進んでいないこともあり、ここでは説明を省く。
・果胞(かほう)・・・雌花を包む壺状の器官。外観で果実のように見えるものはこの果胞である。スゲ属の場合、果実は果胞にすっぽりと包まれているため外からは見えない。
・海岸植物・・・海と陸との境界部の立地(例えば砂浜、海崖、塩湿地)を主要な生育場所とし、それ以外の立地にはほとんど出現しない種

<参考>
・勝山輝男 2005. ネイチャーガイド 日本のスゲ. 文一総合出版.
・勝山輝男 2015. ネイチャーガイド 日本のスゲ 増補改訂. 文一総合出版.
・木場英久,茨木 靖,勝山輝男 2011. イネ科ハンドブック. 文一総合出版.
・澤田佳宏・中西弘樹・押田佳子・服部保.2007.日本の海岸植物チェックリスト.人と自然 17:85-101.
・谷城勝弘 2007. カヤツリグサ科入門図鑑. 全国農村教育協会.
・豊田武司 2014. 小笠原諸島 固有植物ガイド. ウッズプレス.