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2019年10月8日火曜日

階段国道の道草

10月上旬

津軽半島北端の竜飛岬近く。
青森県弘前市から外ヶ浜町に至る国道339号線の車道区間はここで一旦途切れ、「階段国道」として知られる歩行者専用通路(362段の階段)になる。
日本唯一の「階段国道」は、集落背後の傾斜地をジグザグに走っている。

斜面を覆う森林はエゾイタヤやヤマグワ、シナノキなどで構成されている。北日本の海岸林の代表的なタイプで、エゾイタヤ‐シナノキ群集Aceri glabri-Tilietum japonicaeMochida et Tohyama ex Ohno in Miyawaki 1987に当たる。
エゾイタヤAcer pictum ssp. mono(ムクロジ科)

道端に生える草の多くは、北日本の海辺や草原で見られる種だ。

国道沿いにはアジサイが植えられており、観光の目玉になっているようだが、自生する植物を観察するだけでも十分に楽しい。

ヒロハクサフジVicia japonica (マメ科)

エゾフウロGeranium yezoense var. yezoense(フウロソウ科)

ラセイタソウBoehmeria splitgerbera(イラクサ科)

オオバナノミミナグサCerastium fischerianum(ナデシコ科)

ゴマナAster glehnii(キク科)


他にはコハマギク、ジャコウソウ、キツリフネ、エゾイラクサ、オオイタドリ、エゾノヨロイグサ?などがみられた。

2019年9月20日金曜日

羽後三崎のタブノキ林、エゾイタヤ‐ケヤキ林

9月中旬

羽後三崎の常緑林。直径70 cm前後のタブノキが林立。


山形、秋田県境に位置する羽後三崎(灯台名などは三"埼"と表記)を訪れた。鳥海山からの溶岩が海に達し形成された岩礁海岸である。

当地の気候は対馬海流の影響により、東北地方日本海側でもっとも温暖になっている。最寄りのアメダス(にかほ)における1月、2月の月平均はそれぞれ2.2℃と2.3℃。

植生配分を大まかに説明すると、一番海側にススキやオオヨモギ、スカシユリなどから構成される草原が発達し、その背後にエゾイタヤ、ケヤキ、カシワなどで構成される落葉林が成立する。そして、海風が遮られる風背地にはタブノキ1種が優占する常緑林が成立する。




タブノキの分布は青森県深浦町に達する(環境庁 1988)が、まとまった群落としては日本最北にあたるらしい(東北森林管理局/タブノキ)。

カシワQuercus dentata (Fagaceae ブナ科)

海岸林の最前線を占めていた。

エゾイタヤAcer pictum subsp. mono (Sapindaceae ムクロジ科)とケヤキZelkova serrata (Ulmaceae ニレ科)からなる林。
植物社会学的にはエゾイタヤ‐ケヤキ群集、あるいはエゾイタヤ‐シナノキ群集に位置づけられると思われる。
高木層の高さは10 m前後。亜高木層や低木層にはマユミやヤマグワ、ハシドイ、チシマザサなどのほか、常緑林の構成種であるタブノキ、ヤブツバキもみられた。

タブノキMachilus thunbergii (Lauraceae クスノキ科)が優占する常緑林。植物社会学的にはイノデ‐タブ群集に当たり、日本の常緑広葉樹林としてはもっとも北に達している。

高木層の高さは15 m前後で、タブノキ1種で構成される。亜高木層ではヤブツバキが、低木層ではウリノキが優占していた。
草本層にはジュウモンジシダやタツノヒゲ、タブノキの稚樹などがみられた。
常緑広葉樹林を特徴づける種は少なく、低木層以下はむしろ冷温帯の森林との共通性が高いようだ。

低木層と草本層の様子。
高密度で生えるタブノキの稚樹。
太平洋側の北限に近い唐桑半島(宮城県気仙沼市)でも似たような様相だった。

林縁に生えるカラスザンショウZanthoxylum ailanthoides (Rutaceae ミカン科)

林縁ではカラスザンショウやアカメガシワMallotus japonicusなど、暖温帯の林縁を特徴づける樹木がみられた。






<参考>
・環境庁 1988.  第3回自然環境保全基礎調査 植生調査報告書(秋田県).
・東北森林管理局webサイト 管内の樹木図鑑 タブノキ.(http://www.rinya.maff.go.jp/tohoku/sidou/jumoku/shubetu/tabu.html)2019年9月閲覧
・植物和名ー学名インデックス YList (http://ylist.info/index.html)2019年9月閲覧


2018年12月21日金曜日

6月 津波跡地の湿地にて(宮城県気仙沼市)

6月下旬

植物調査の手伝いで宮城県気仙沼市の湿地を訪れた。ここは海岸の至近に位置し、2011年3月の津波を被っている。
震災後、防潮堤設置などの工事が気仙沼でも例外なく行われているが、この湿地は地主の方の尽力により守られており、動物相などに関する調査・研究の舞台にもなっている。

湿地は海と接してはいないが、潮が満ちると隣の川(土管で湿地と連絡している)から塩水が流れ込み、水位が変化する。
淡水から塩水、陸域から水域。異なる環境が連続的に存在するこの場所では、様々な生物が生息している。

環境の連続性を象徴するように、塩性湿地から淡水湿地にかけての植生の移り変わりが見られる。

最も内陸側の、淡水の流路沿いには、カサスゲCarex dispalata Boottを主体とする植物群落が発達する。
昆虫や両生類などが多いエリアでもある。

ヒメヨツバムグラGalium gracilens (A.Gray) Makino
(アカネ科)

オオカワズスゲCarex stipata Muhl. ex Willd.
(カヤツリグサ科)

タニヘゴDryopteris tokyoensis (Makino) C.Chr.
(オシダ科)

谷津などの湿地に多い大型シダ。種小名が示すように、基準産地は東京だが、東京では絶滅している。東北などでは今でも比較的多いが、関東以西の都府県では絶滅危惧等の扱いになっていることが多い。

アカハライモリCynops pyrrhogaster (Boie, 1826)
(イモリ科)

ヒメギス?

イトトンボの仲間(確認中)

ホソミオツネントンボ?

流路を除く大半の場所では、やや乾いた場所から浅水中に至るまで、ヨシ群落が広がっている。

浅水中では写真中央に写る、フトイSchoenoplectus tabernaemontani (C.C.Gmel.) Pallaなどが混生している。

海水の影響を受ける水際では、塩生植物(塩分濃度の高い立地でも生育できる植物)で構成される植物群落が広がっている。

写真中で最も目立つのはタチドジョウツナギPuccinellia nipponica Ohwi(イネ科)。

タチドジョウツナギは宮城県では絶滅危惧種等に指定されていないものの、分布域が東北地方太平洋側に限られており、本地域の塩性湿地を特徴づける存在と言える。
福島県などでは震災後に新たな生育地も発見されており、津波による攪乱が本種に適した環境を作ったのかもしれない。

熟した果実は花序から容易に外れ、水面を漂う。そのまま潮の流れに乗れば、新たな生育地へ向けて旅することになる。

アキノミチヤナギPolygonum polyneuron Franch. et Sav.
(タデ科)

本種も塩性湿地に特徴的な植物。

ナガミノオニシバZoysia sinica Hance var. nipponica Ohwi
(イネ科)

塩性湿地に生えるシバの仲間。
岩手県以南に分布。

これらの他に、ハマゼリ、ハチジョウナ、トウオオバコ、ホウキギク、シオクグなども見られた。

塩生植物が生える立地は、すなわち干潟であり、干潟の生き物も数多く生息している。

写真はカニの一種。

ウミニナの仲間?

水深の深い場所にはカワツルモが群落を作っている。

カワツルモRuppia maritima L.はカワツルモ科の多年草で、汽水の水中に生える。
世界各地に分布し、日本でも全国に分布しているものの、多くの地域で絶滅が危惧されている。






<学名の引用元(2018年12月21日現在)>
植物・・・植物和名-学名インデックス YList(http://ylist.info/index.html)
両生類・・・日本産爬虫両棲類標準和名(http://zoo.zool.kyoto-u.ac.jp/herp/wamei.html)
昆虫・・・確認中

<参考文献>
1.齋藤若菜・渡邉祐紀・黒沢高秀 2016. 福島県相馬市小泉川・宇多川河口に震災後新しく出来た塩性湿地・干潟の植物相および植生. 福島大学地域創造, 27(2): 73-92.
2.角野康郎 2014. ネイチャーガイド 日本の水草. 文一総合出版.


2013年6月21日金曜日

塩生湿地の植物 青森にて


6月15日

青森県にて。
卒業研究として海岸の湿地を見て回る。そこで見た塩生地の植物を少し紹介。

ウミミドリGlaux maritima
日本では本州北部~北海道に分布。
白色の花弁に見えるものは萼片であり花弁はない。
草丈は大きいもので10cmくらい、群生していて可愛らしかった。


シバナTriglochin asiaticum
日本では北海道~九州に分布、とはいえ北方系の種であるそうだ。
写真は花茎。葉は分厚くて細い棒状になっている。
葉を少しちぎってかじってみたら、塩味とともにドクダミを思わせる香りが口に広がった。

ドロイJuncus gracillimus
日本では北海道~九州に分布。
泥地に生えることからこの名前がついたのだろうか。(今回見た感じでは塩生地に生えるのはほぼ間違いなさそうだったが、必ずしも泥地ではなかったようにも思う)
写真の真ん中の白いものが花(まだつぼみ)である。

ヒメキンポウゲHalerpestes kawakamii
北海道~千葉県にかけて分布する日本固有種。
別名はツルヒキノカサで、個人的にはこちらの名の方がインパクトがあって好きだ。
砂地を好むようで泥の多い湿地にはあまり見られなかった。

今回観察したうち、ヒメキンポウゲとシバナは環境省のRDBで絶滅危惧種に指定、ウミミドリとドロイも都道府県レベルでは各地で絶滅危惧に指定されている。
これらの種は南方に行くとそもそも分布が局限されていて、それが希少種扱いの理由のひとつかもしれないが、それ以上に問題なのが沿岸部の開発による生息地破壊だと思われる。

ちなみに、観察地はほぼ確実に2011年の東日本大震災時の津波を被っているが、その影響は特にないようだ。(震災前を見ていないから断定はできないが・・・)

参考
・日本の野生植物 平凡社 1983年


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