2016年4月4日月曜日
おがさわら丸のタイル画に描かれた植物たち
父島二見港に停泊する「おがさわら丸」。
小笠原諸島と本土を結ぶ唯一の貨客船である。
おがさわら丸の船内でひときわ目を引くのが美しい花々が描かれたタイル画。
一つ一つの花を見てみると、小笠原に自生する種と思われるものが含まれていることに気づく。
これだけ目立つタイル画のこと、どこかに描かれた植物の情報があるだろうと思い検索したが見当たらなかった。
自分なりに種同定することにした。
まずは左上。
ここには2種類のヤシ科と思われる植物が描かれている。
まず、左下の扇形の葉は、小笠原固有変種の「オガサワラビロウ Livistona chinensis var. boninensis」だと思われる。
次に、真ん中で存在を放つヤシ。候補としては小笠原固有種の「ノヤシ Clinostigma savoryanum」、それから自生はしないが広く植栽されている「ココヤシ Cocos nucifera」が思いつく。葉や幹の雰囲気はココヤシに近いが、それにしては大きな実(ココナッツ)が描かれていないのが不自然な気もする。
どちらの種かは判断付けがたいが、ここは固有種のノヤシということにしたい。
次に左下。
まず、白い花を多数付けた植物は固有種の「ヒメツバキ Schima mertensiana」だろう。ヒメツバキは小笠原村の花にも指定されており、小笠等諸島を代表する花木である。
次に、ヒメツバキの下に描かれた植物。葉裏と新芽が赤さび色であること、また葉の形状から判断すると「コバノアカテツ Planchonella obovata var. dubia」が妥当だと思う。
コバノアカテツはアカテツの変種で、小笠原諸島と沖縄の大東島に分布する。
次に、ヒメツバキの右隣に描かれた黄色の5弁花は、園芸植物として小笠原でも栽培される「アリアケカズラ Allamanda cathartica」だろうか。これについてはあまり自信はない。
最後に、右下に2個描かれた花は、小笠原固有種の「テリハハマボウ Hibiscus blaber」か広域分布種の「オオハマボウ Hibiscus tiliaceus」と思われる。絵からはどちらの種なのか判別できないが、小笠原なのだし固有種のテリハハマボウということにしておく。
右上。
まず、一番上に描かれた赤い花は、恐らく「デイコ Erythrina variegata var. orientalis」だろう。
デイゴ(デイコとも)は小笠原では「ビーデビーデ」と呼ばれて親しまれている花木。かつては固有種ムニンデイゴとされていたが、今では沖縄等で見られるデイゴと同種とされている。
次に、デイコの下に描かれたパイナップル様の植物は小笠原固有種の「タコノキ Pandanus boninensis」だろう。
それから、タコノキの右隣に描かれているのは、おなじみの「ハイビスカス Hibiscus rosa-sinensis」だろう。ちなみに、ハイビスカスの標準和名は「ブッソウゲ」という。
ここには他に、左に描かれた赤い花と、右上に描かれた玉状に咲いたピンク色の花?があるが、残念ながら検討がつかない。左の花はかなり特徴的な姿をしており、種判別は十分に可能だと思うのだが。(2017年11月追記 左が「シクンシ Combretum indicum、右上がサンダンカIxora chinensisではないか?)
最後に右下。
まず、左側の赤い花は、先ほども登場したブッソウゲ(ハイビスカス)で良いだろう。
次に、右上の白い4弁花は小笠原固有種の「ムニンノボタン Melastoma tetramerum」でよいと思う。ムニンノボタンは小笠原諸島の中でも父島のみに分布、個体数が非常に少なく保護増殖が行われている。
最後に、ムニンノボタンの下の花は「ハハジマノボタン Melastoma tetramerum var. pentapetalum」だと思う。
ハハジマノボタンはムニンノボタンの変種で母島に固有。花弁は5枚で淡紅色を帯びる。タイル画に描かれたノボタンsp.は4弁花の点で異なるが、花色から判断すればハハジマノボタンが妥当だろうと判断した。
以下、タイル画に描かれた植物の種名をまとめる。
<固有(変)種>
・オガサワラビロウ
・ノヤシ
・ヒメツバキ
・テリハハマボウ
・タコノキ
・ムニンノボタン
・ハハジマノボタン
<広域分布種>
・コバノアカテツ
・デイゴ(人為的に持ち込まれたとする説もある)
<園芸種>
・アリアケカズラ
・ブッソウゲ
・不明種1
・不明種2
計13種
種同定にいくつか不安があるものの、描かれた植物の約半分は小笠原固有種ということになる。さらに、コバノアカテツとデイゴもかつては小笠原固有種とされていたことから、この2種も固有種として描かれたのかもしれない。タイル画のモチーフに小笠原ならではの植物が多く取り入れられていることをうれしく思った。
現おがさわら丸は今年夏をもって小笠原航路を引退し、新しい船にバトンタッチする。よって、このタイル画も今年で見納めになるかもしれなく、少し残念である。
<参考>
・豊田武司 2003. 小笠原植物図譜(増補改訂版). アボック社.
・豊田武司 2014. 小笠原諸島固有植物ガイド. ウッッズプレス.
2016年4月3日日曜日
小笠原諸島母島のスゲ セキモンスゲとヒゲスゲ
小笠原諸島の母島にて。
セキモンスゲCarex toyoshimae Tuyamaが生育しているのを見つけた。
セキモンスゲはカヤツリグサ科スゲ属の一種であり、小笠原諸島の固有種である。本種は小笠原諸島内でも今のところ母島でしか分布が確認されていない。かつては父島にも分布する、とされていたが、父島のものは近年になって別種(ウミノサチスゲ)と判明している(勝山 2015)。
花序。
頂小穂(花序の先端に付く小穂※)は雄性、側小穂(花序の途中に付く小穂)は雌性である。
側小穂の拡大。花期は終わり、雌花はいずれも実になっていた。
果胞※は緑白色の雌鱗片に覆われており、先端のみが顔を出している。
雌鱗片の先端からは短い芒(のぎ)が出ている。
こちらは昨年1月に観察した際のセキモンスゲ。ちょうど花期を迎えていた。
ところで、母島の林床には広域分布種のヒゲスゲCarex boottiana Hook. et Arn.も広く生育している。
ヒゲスゲは澤田ほか(2007)において「海岸植物※」に分類されている。しかし、小笠原諸島では(例外的に?)海岸だけでなく内陸の森林内まで生育が及んでおり、時には草本層の優占種となるほど個体数が多い。
林内に生えるヒゲスゲは海岸部に生えるものと比較して葉が細く柔らかく、さらに小穂の幅が狭いものが多いため、一見するとヒゲスゲに見えないほどである。
セキモンスゲとヒゲスゲの見分けは、小穂が出ていれば比較的容易である。
ヒゲスゲの側小穂を見ると、セキモンスゲのそれと比べて随分とトゲトゲしい。これは、雌鱗片の先端の芒が長いためである。
その他には
・セキモンスゲの葉はヒゲスゲの葉よりも濃緑色であることが多い
・ヒゲスゲの葉の縁はざらつくが、セキモンスゲの葉は質が柔らかく、縁があまりざらつかない
・ヒゲスゲの方が果期が早く、1月にはほとんどの個体で結実している。セキモンスゲの果期は3月以降
なども識別の参考になると思われる。
また、乳房山林道沿いで観察すると、ヒゲスゲは主に低標高域に生育するが、セキモンスゲはより高標高の場所(約300 m以上)に限って生育しており、両種は標高に応じてある程度棲み分けているようだ。
母島に分布するスゲにはもう一種、ムニンナキリスゲCarex hattoriana Nakai ex Tuyamaがある。
母島においてはムニンナキリスゲの分布は限られているようで、見かける機会はあまり多くない。また、他2種とは形態がかなり異なっており、小穂が出ていれば区別に困ることはないと思う。
※について
・小穂(しょうすい)・・・多数の花が1本の軸に付いてまとまりを作ったもの。なお、日本語で小穂と呼ぶものにはspike(スゲ属を除くカヤツリグサ科の多くやイネ科などの小穂)と、spikeが集まってできたspikelet(スゲ属でいうところの小穂)があるそうだが、私の理解が進んでいないこともあり、ここでは説明を省く。
・果胞(かほう)・・・雌花を包む壺状の器官。外観で果実のように見えるものはこの果胞である。スゲ属の場合、果実は果胞にすっぽりと包まれているため外からは見えない。
・海岸植物・・・海と陸との境界部の立地(例えば砂浜、海崖、塩湿地)を主要な生育場所とし、それ以外の立地にはほとんど出現しない種
<参考>
・勝山輝男 2005. ネイチャーガイド 日本のスゲ. 文一総合出版.
・勝山輝男 2015. ネイチャーガイド 日本のスゲ 増補改訂. 文一総合出版.
・木場英久,茨木 靖,勝山輝男 2011. イネ科ハンドブック. 文一総合出版.
・澤田佳宏・中西弘樹・押田佳子・服部保.2007.日本の海岸植物チェックリスト.人と自然 17:85-101.
・谷城勝弘 2007. カヤツリグサ科入門図鑑. 全国農村教育協会.
・豊田武司 2014. 小笠原諸島 固有植物ガイド. ウッズプレス.
セキモンスゲCarex toyoshimae Tuyamaが生育しているのを見つけた。
セキモンスゲはカヤツリグサ科スゲ属の一種であり、小笠原諸島の固有種である。本種は小笠原諸島内でも今のところ母島でしか分布が確認されていない。かつては父島にも分布する、とされていたが、父島のものは近年になって別種(ウミノサチスゲ)と判明している(勝山 2015)。
花序。
頂小穂(花序の先端に付く小穂※)は雄性、側小穂(花序の途中に付く小穂)は雌性である。
側小穂の拡大。花期は終わり、雌花はいずれも実になっていた。
果胞※は緑白色の雌鱗片に覆われており、先端のみが顔を出している。
雌鱗片の先端からは短い芒(のぎ)が出ている。
こちらは昨年1月に観察した際のセキモンスゲ。ちょうど花期を迎えていた。
ところで、母島の林床には広域分布種のヒゲスゲCarex boottiana Hook. et Arn.も広く生育している。
ヒゲスゲは澤田ほか(2007)において「海岸植物※」に分類されている。しかし、小笠原諸島では(例外的に?)海岸だけでなく内陸の森林内まで生育が及んでおり、時には草本層の優占種となるほど個体数が多い。
林内に生えるヒゲスゲは海岸部に生えるものと比較して葉が細く柔らかく、さらに小穂の幅が狭いものが多いため、一見するとヒゲスゲに見えないほどである。
セキモンスゲとヒゲスゲの見分けは、小穂が出ていれば比較的容易である。
ヒゲスゲの側小穂を見ると、セキモンスゲのそれと比べて随分とトゲトゲしい。これは、雌鱗片の先端の芒が長いためである。
その他には
・セキモンスゲの葉はヒゲスゲの葉よりも濃緑色であることが多い
・ヒゲスゲの葉の縁はざらつくが、セキモンスゲの葉は質が柔らかく、縁があまりざらつかない
・ヒゲスゲの方が果期が早く、1月にはほとんどの個体で結実している。セキモンスゲの果期は3月以降
なども識別の参考になると思われる。
また、乳房山林道沿いで観察すると、ヒゲスゲは主に低標高域に生育するが、セキモンスゲはより高標高の場所(約300 m以上)に限って生育しており、両種は標高に応じてある程度棲み分けているようだ。
母島に分布するスゲにはもう一種、ムニンナキリスゲCarex hattoriana Nakai ex Tuyamaがある。
母島においてはムニンナキリスゲの分布は限られているようで、見かける機会はあまり多くない。また、他2種とは形態がかなり異なっており、小穂が出ていれば区別に困ることはないと思う。
※について
・小穂(しょうすい)・・・多数の花が1本の軸に付いてまとまりを作ったもの。なお、日本語で小穂と呼ぶものにはspike(スゲ属を除くカヤツリグサ科の多くやイネ科などの小穂)と、spikeが集まってできたspikelet(スゲ属でいうところの小穂)があるそうだが、私の理解が進んでいないこともあり、ここでは説明を省く。
・果胞(かほう)・・・雌花を包む壺状の器官。外観で果実のように見えるものはこの果胞である。スゲ属の場合、果実は果胞にすっぽりと包まれているため外からは見えない。
・海岸植物・・・海と陸との境界部の立地(例えば砂浜、海崖、塩湿地)を主要な生育場所とし、それ以外の立地にはほとんど出現しない種
<参考>
・勝山輝男 2005. ネイチャーガイド 日本のスゲ. 文一総合出版.
・勝山輝男 2015. ネイチャーガイド 日本のスゲ 増補改訂. 文一総合出版.
・木場英久,茨木 靖,勝山輝男 2011. イネ科ハンドブック. 文一総合出版.
・澤田佳宏・中西弘樹・押田佳子・服部保.2007.日本の海岸植物チェックリスト.人と自然 17:85-101.
・谷城勝弘 2007. カヤツリグサ科入門図鑑. 全国農村教育協会.
・豊田武司 2014. 小笠原諸島 固有植物ガイド. ウッズプレス.
2015年2月18日水曜日
ワダンノキの花の匂いを嗅ぐ
1月11日
母島の乳房山で観察したワダンノキ。
花期は11~12月と聞いていたが、まだ咲き残りの花が見られた。
前回記事はこちら→
「ワダンノキDendrocacalia crepidifolia」
花の拡大。
紫色の花びらを持った小さな花の集まりであることが分かる。
小さな花が一か所から5つずつ咲く。この5つの花のまとまりを「頭花」という。
ワダンノキに限らず、キク科植物の花はこの頭花で、一見一つに見える花は沢山の小さな花(小花)の集まりである。
ただ、よく知られる菊やタンポポは小花の数が多く、また大きな花びらを持つ花(舌状花)も付けて鮮やかなので、随分雰囲気が異なる。
ちなみに、ワダンノキは雌雄異株(雄株と雌株に分かれる)だそうだ(Kato & Nagamasu 1995)。
この論文では雄花と雌花の違いとして、「雄花では葯から花粉を多く出すが、雌花ではほとんど出さない」、ということが区別の一つとして挙げられている。撮影した花の雄しべからは、黄色い花粉が沢山出ている様子が確認できるので、これは雄花ということだろうか。写真を見返すと、今回撮影したものは全て雄花だったようである。
ワダンノキが雌雄異株ということは、帰宅後に初めて知った。事前に雌雄があることを知っていれば、観察する目も違っていたのかな、と少々残念である。
ひときわ沢山の花を付けたワダンノキの横を通過した時、辺りに匂いが漂っていることに気が付いた。発信源はワダンノキの花であった。
決してよい香りとは言えず、僕は真っ先に納豆を思い浮かべた。
シイノキ、クリ、ガマズミの仲間、サトイモ科のテンナンショウ属など、人にとって不快と感じる臭気を発する花はそれなりに多い。しかし、「納豆のような」匂いの花は自身の経験上では初めてだった。
変わった香りを持つのだから、ワダンノキの花にはそれに見合った特定の虫が来るのではないか、と考えた。
観察時は訪花昆虫を確認できなかったので、帰宅後に少し調べてみた。
Kato & Nagamasu( 1995)によれば、現在の訪花昆虫の大半は外来種のセイヨウミツバチApis mellisferaであり、かつては固有のハナバチが送粉の役割を担っていたとのことであり、また郷原 (2002)はオガサワラクマバチを候補に挙げている。
また、小笠原の自然を紹介するサイト「ガイドの日記帳~つれづれなるままに~」では、小さなハエが訪花していたことが書かれている。
これらの情報から、ワダンノキは特定の虫がパートナーというよりも、様々な虫を送紛者としている、と言えそうだ。
安部(2009)によれば、小笠原諸島のような海洋島における送粉系(植物と送紛者との関係)は多くの場合一対一でなく、特定の種にこだわることなく様々な花を訪れる虫により成り立つそうだ。ワダンノキもこれに当てはまることが考えられる。
僕はワダンノキの独特な花の香りは、特定の虫を呼ぶためのものだ、と思い込んでいたが、実際には一種の昆虫ではなくハチやハエなど様々な虫を呼び寄せるための工夫ということなのだろう。「匂い」は色と異なり、姿が見えなくても感知できる。
外来種のミツバチが主要な送粉者とされているけれど、もしかすると、夜行性の昆虫の存在も案外重要なのではないか、と思ったりもする。
<引用・参考文献、サイト>
安部哲人 2009. 小笠原諸島における送粉系攪乱の現状とその管理戦略.
地球環境 Vol.14 No.1: 47-55.
Kato Makoto, Nagamasu Hidetoshi 1995. Dioecy in the Endemic Genus
Dedrocacalia (Compositae) on the Bonin (Ogasawara) Islans.
Journal of Plant Research, 108(4):443-450.
(ただし、全文の入手は有料のため、要約と本文の一部のみ参照。)
郷原匡史(2002)小笠原諸島のハナバチ相とその保全. 杉浦ほか(編)
ハチとアリの自然史. 北海道大学図書刊行会: 229-245.
(ただし本文に当たれなかったので、牧野俊一 2004. リレー連載レッド
リストの生き物たち 15 オガサワラクマバチ. 林業技術 No.774: 36-37 から
の孫引き)
清水善和 2001. 小笠原諸島におけるワダンノキの現状と更新様式.
駒澤地理 No.37: 17-36.
豊田武司 2014. 小笠原諸島 固有植物ガイド. 株式会社ウッズプレス, 東京.
ガイドの日記帳 ~つれづれなるままに~ ワダンノキ
http://hahajimaguide.seesaa.net/article/128716947.html
(2015年2月7日閲覧)
母島の乳房山で観察したワダンノキ。
花期は11~12月と聞いていたが、まだ咲き残りの花が見られた。
前回記事はこちら→
「ワダンノキDendrocacalia crepidifolia」
花の拡大。
紫色の花びらを持った小さな花の集まりであることが分かる。
小さな花が一か所から5つずつ咲く。この5つの花のまとまりを「頭花」という。
![]() |
| ノジギクの花 |
ワダンノキに限らず、キク科植物の花はこの頭花で、一見一つに見える花は沢山の小さな花(小花)の集まりである。
ただ、よく知られる菊やタンポポは小花の数が多く、また大きな花びらを持つ花(舌状花)も付けて鮮やかなので、随分雰囲気が異なる。
ちなみに、ワダンノキは雌雄異株(雄株と雌株に分かれる)だそうだ(Kato & Nagamasu 1995)。
この論文では雄花と雌花の違いとして、「雄花では葯から花粉を多く出すが、雌花ではほとんど出さない」、ということが区別の一つとして挙げられている。撮影した花の雄しべからは、黄色い花粉が沢山出ている様子が確認できるので、これは雄花ということだろうか。写真を見返すと、今回撮影したものは全て雄花だったようである。
ワダンノキが雌雄異株ということは、帰宅後に初めて知った。事前に雌雄があることを知っていれば、観察する目も違っていたのかな、と少々残念である。
ひときわ沢山の花を付けたワダンノキの横を通過した時、辺りに匂いが漂っていることに気が付いた。発信源はワダンノキの花であった。
決してよい香りとは言えず、僕は真っ先に納豆を思い浮かべた。
シイノキ、クリ、ガマズミの仲間、サトイモ科のテンナンショウ属など、人にとって不快と感じる臭気を発する花はそれなりに多い。しかし、「納豆のような」匂いの花は自身の経験上では初めてだった。
変わった香りを持つのだから、ワダンノキの花にはそれに見合った特定の虫が来るのではないか、と考えた。
観察時は訪花昆虫を確認できなかったので、帰宅後に少し調べてみた。
Kato & Nagamasu( 1995)によれば、現在の訪花昆虫の大半は外来種のセイヨウミツバチApis mellisferaであり、かつては固有のハナバチが送粉の役割を担っていたとのことであり、また郷原 (2002)はオガサワラクマバチを候補に挙げている。
また、小笠原の自然を紹介するサイト「ガイドの日記帳~つれづれなるままに~」では、小さなハエが訪花していたことが書かれている。
これらの情報から、ワダンノキは特定の虫がパートナーというよりも、様々な虫を送紛者としている、と言えそうだ。
安部(2009)によれば、小笠原諸島のような海洋島における送粉系(植物と送紛者との関係)は多くの場合一対一でなく、特定の種にこだわることなく様々な花を訪れる虫により成り立つそうだ。ワダンノキもこれに当てはまることが考えられる。
僕はワダンノキの独特な花の香りは、特定の虫を呼ぶためのものだ、と思い込んでいたが、実際には一種の昆虫ではなくハチやハエなど様々な虫を呼び寄せるための工夫ということなのだろう。「匂い」は色と異なり、姿が見えなくても感知できる。
外来種のミツバチが主要な送粉者とされているけれど、もしかすると、夜行性の昆虫の存在も案外重要なのではないか、と思ったりもする。
![]() |
| ワダンノキの果実。タンポポなどと似ている |
![]() |
| ワダンノキの芽生え。ただし日当たりが悪く、生長は困難 |
<引用・参考文献、サイト>
安部哲人 2009. 小笠原諸島における送粉系攪乱の現状とその管理戦略.
地球環境 Vol.14 No.1: 47-55.
Kato Makoto, Nagamasu Hidetoshi 1995. Dioecy in the Endemic Genus
Dedrocacalia (Compositae) on the Bonin (Ogasawara) Islans.
Journal of Plant Research, 108(4):443-450.
(ただし、全文の入手は有料のため、要約と本文の一部のみ参照。)
郷原匡史(2002)小笠原諸島のハナバチ相とその保全. 杉浦ほか(編)
ハチとアリの自然史. 北海道大学図書刊行会: 229-245.
(ただし本文に当たれなかったので、牧野俊一 2004. リレー連載レッド
リストの生き物たち 15 オガサワラクマバチ. 林業技術 No.774: 36-37 から
の孫引き)
清水善和 2001. 小笠原諸島におけるワダンノキの現状と更新様式.
駒澤地理 No.37: 17-36.
豊田武司 2014. 小笠原諸島 固有植物ガイド. 株式会社ウッズプレス, 東京.
ガイドの日記帳 ~つれづれなるままに~ ワダンノキ
http://hahajimaguide.seesaa.net/article/128716947.html
(2015年2月7日閲覧)
にほんブログ村 ランキングに参加しています。
2015年2月3日火曜日
小笠原の植物 ワダンノキDendrocacalia crepidifolia
1月12日
母島の乳房山遊歩道を散策した。標高461mの乳房山は母島最高峰であり、多くの固有植物を観察できるルートである。
遊歩道沿いで見られる植物の一つがワダンノキDendrocacalia crepidifolia。
キク科の木本で、小笠原諸島の固有属、固有種。母島とその属島に見られる。
本種の特徴は、草本が大半のキク科にあって木本であること。観察した個体のうち、最も大きなものでは目測で高さ約5m、根元直径15cmに達していた。
木本のキク科は少ないとはいえ、日本国内に限ってもコウヤボウキ、ハマギク、モクビャッコウなどがあり、小笠原諸島では他にヘラナレンとユズリハワダンの2種が木本になる。しかし、これらは茎が木質化するものの肥大生長はあまりせず、背丈前後の低木に過ぎない。
このため、日本で立派な木になるキクはワダンノキだけ、と言ってよいだろう。
本種の生育地は主に母島の山地尾根部に限られる。小笠原諸島では、標高300mを超えた辺りから霧がかかりやすい環境となり、雲霧帯と呼ばれる。ワダンノキはこの雲霧帯の住人と紹介されることが多い。実際、今回林道沿いのワダンノキの個体位置を記録していったところ、最低標高320mの辺りで生育が途切れた。
しかし、単純にワダンノキを雲霧帯特有の植物と決めつけることはできないようだ。記録によれば母島の海食崖の標高100メートル付近まで生育が確認されているという(小野,奥富1985)。また、母島属島の湿性地にもわずかに分布し、さらに小笠原群島北端の聟島列島でもかつて生育があったという(小野,奥富1985, 豊田2014)。母島の低標高地や他の島の標高では、雲霧帯は存在しえない。このため、霧がかかるかどうかは生育のための絶対条件ではないらしい。
小笠原の植物を長年研究されている豊田氏も、著書の中で本種を「雲霧帯植物」とすることに疑問を呈している。
他の要因を考えてみる。
母島において、水分条件のよい場所ではヒメツバキやアカテツ、シマホルトノキなどを中心とした高木林が成立し、乳房山の稜線以外の大部分もそうである。ワダンノキは木本とはいえそこまで大きくなる種ではなく、また陽地を好むとされる。高木林が安定して成立する場所では生育が困難と思われる。
また、低標高の尾根は高木が少なく草原や低木林が成立するため、競争相手の面では問題なさそうだが、ここはとりわけ高い乾燥ストレスがかかる場所である。
これらのことから、ワダンノキは雲霧帯を好む種というよりも、競争相手の高木が少なく、また乾燥が激しくないことが生育に重要で、たまたま雲霧帯の尾根部がそれに合致した環境ということなのではないかと思う。
とはいえ、本種が母島の雲霧帯の稜線付近で主に見られる種である、とすることには問題はないだろう。
母島の稜線部ではツルアダン(固有種とするならタコヅル)の繁茂が著しいのも特徴である。
ツルアダンは樹木に付着根ではりつきながら高木層まで達するが、支えのない尾根部では2メートルくらいの高さである。
左写真は、ツルアダン群落中に生育するワダンノキ。
このように、ワダンノキは成木になればツルアダンよりも樹高が高くなる。しかし、幼個体は暗いツルアダン群落内で成長できないので、世代交代が困難になるそうだ。現状、ワダンノキの更新はうまくいかず、減少傾向にあるとのことである(清水2001)。
清水(2001)によれば、ツルアダンに加えて外来種のアカギの侵入が今後の更新に影響を与えるかもしれないという。

外来種のアカギはともかく、ツルアダンによってワダンノキの更新が妨げられるのは、自然の摂理で仕方がないのではないか、と考えることもできる。しかし、実際はそう単純な問題ではないらしい。
左写真は、母島にあるロース記念館で展示されていた戦前の母島の写真。中央付近に高くそびえているのが乳房山である。
光の反射で少々分かりづらいが、山のかなり上の方まで畑が広がっているのが見てとれる。
現在緑豊かに見える母島の山地も、かつてはサトウキビ畑などが山頂近くまで開墾され、今見ることができる林の多くは二次林である。確かな情報は見つけられていないが、稜線の広大なツルアダン群落も本来の植生ではなく、二次的なものである可能性がある。
これは推論にすぎないが、かつての稜線は今よりもツルアダンが少なく、森林(低木林?)が成立していたのではないだろうか。台風が来てもほとんどビクともしないツルアダンと異なり、樹木は強風でしばしば倒れる。樹木が倒れてできた日当たりのよい場所に、真っ先にワダンノキが入り込んで世代交代していたのかもしれない。
ワダンノキの現状が人間によって作られたものだとしたら、ツルアダン群落の一部伐採など、人為的な管理もやむをえないだろう。
2月7日追記
ワダンノキに関してもう一つ記事を書きました。「ワダンノキの花は納豆の匂い」
よろしければ見てください。
参考
小野幹雄・奥富清 1985. 小笠原の固有植物と植生. アボック社.
清水善和 2001. 小笠原諸島母島におけるワダンノキの現状と更新様式. 駒澤地理 No.37.
豊田武司 2003. 小笠原植物図譜 増補改訂版. アボック社.
豊田武司 2014. 小笠原諸島 固有植物ガイド. ウッズプレス.
母島の乳房山遊歩道を散策した。標高461mの乳房山は母島最高峰であり、多くの固有植物を観察できるルートである。
遊歩道沿いで見られる植物の一つがワダンノキDendrocacalia crepidifolia。
キク科の木本で、小笠原諸島の固有属、固有種。母島とその属島に見られる。
本種の特徴は、草本が大半のキク科にあって木本であること。観察した個体のうち、最も大きなものでは目測で高さ約5m、根元直径15cmに達していた。
木本のキク科は少ないとはいえ、日本国内に限ってもコウヤボウキ、ハマギク、モクビャッコウなどがあり、小笠原諸島では他にヘラナレンとユズリハワダンの2種が木本になる。しかし、これらは茎が木質化するものの肥大生長はあまりせず、背丈前後の低木に過ぎない。
このため、日本で立派な木になるキクはワダンノキだけ、と言ってよいだろう。
本種の生育地は主に母島の山地尾根部に限られる。小笠原諸島では、標高300mを超えた辺りから霧がかかりやすい環境となり、雲霧帯と呼ばれる。ワダンノキはこの雲霧帯の住人と紹介されることが多い。実際、今回林道沿いのワダンノキの個体位置を記録していったところ、最低標高320mの辺りで生育が途切れた。
しかし、単純にワダンノキを雲霧帯特有の植物と決めつけることはできないようだ。記録によれば母島の海食崖の標高100メートル付近まで生育が確認されているという(小野,奥富1985)。また、母島属島の湿性地にもわずかに分布し、さらに小笠原群島北端の聟島列島でもかつて生育があったという(小野,奥富1985, 豊田2014)。母島の低標高地や他の島の標高では、雲霧帯は存在しえない。このため、霧がかかるかどうかは生育のための絶対条件ではないらしい。
小笠原の植物を長年研究されている豊田氏も、著書の中で本種を「雲霧帯植物」とすることに疑問を呈している。
![]() |
| 乳房山中腹のヒメツバキ優占林 |
母島において、水分条件のよい場所ではヒメツバキやアカテツ、シマホルトノキなどを中心とした高木林が成立し、乳房山の稜線以外の大部分もそうである。ワダンノキは木本とはいえそこまで大きくなる種ではなく、また陽地を好むとされる。高木林が安定して成立する場所では生育が困難と思われる。
また、低標高の尾根は高木が少なく草原や低木林が成立するため、競争相手の面では問題なさそうだが、ここはとりわけ高い乾燥ストレスがかかる場所である。
これらのことから、ワダンノキは雲霧帯を好む種というよりも、競争相手の高木が少なく、また乾燥が激しくないことが生育に重要で、たまたま雲霧帯の尾根部がそれに合致した環境ということなのではないかと思う。
とはいえ、本種が母島の雲霧帯の稜線付近で主に見られる種である、とすることには問題はないだろう。
母島の稜線部ではツルアダン(固有種とするならタコヅル)の繁茂が著しいのも特徴である。
ツルアダンは樹木に付着根ではりつきながら高木層まで達するが、支えのない尾根部では2メートルくらいの高さである。
左写真は、ツルアダン群落中に生育するワダンノキ。
このように、ワダンノキは成木になればツルアダンよりも樹高が高くなる。しかし、幼個体は暗いツルアダン群落内で成長できないので、世代交代が困難になるそうだ。現状、ワダンノキの更新はうまくいかず、減少傾向にあるとのことである(清水2001)。
清水(2001)によれば、ツルアダンに加えて外来種のアカギの侵入が今後の更新に影響を与えるかもしれないという。

外来種のアカギはともかく、ツルアダンによってワダンノキの更新が妨げられるのは、自然の摂理で仕方がないのではないか、と考えることもできる。しかし、実際はそう単純な問題ではないらしい。
左写真は、母島にあるロース記念館で展示されていた戦前の母島の写真。中央付近に高くそびえているのが乳房山である。
光の反射で少々分かりづらいが、山のかなり上の方まで畑が広がっているのが見てとれる。
現在緑豊かに見える母島の山地も、かつてはサトウキビ畑などが山頂近くまで開墾され、今見ることができる林の多くは二次林である。確かな情報は見つけられていないが、稜線の広大なツルアダン群落も本来の植生ではなく、二次的なものである可能性がある。
これは推論にすぎないが、かつての稜線は今よりもツルアダンが少なく、森林(低木林?)が成立していたのではないだろうか。台風が来てもほとんどビクともしないツルアダンと異なり、樹木は強風でしばしば倒れる。樹木が倒れてできた日当たりのよい場所に、真っ先にワダンノキが入り込んで世代交代していたのかもしれない。
ワダンノキの現状が人間によって作られたものだとしたら、ツルアダン群落の一部伐採など、人為的な管理もやむをえないだろう。
2月7日追記
ワダンノキに関してもう一つ記事を書きました。「ワダンノキの花は納豆の匂い」
よろしければ見てください。
参考
小野幹雄・奥富清 1985. 小笠原の固有植物と植生. アボック社.
清水善和 2001. 小笠原諸島母島におけるワダンノキの現状と更新様式. 駒澤地理 No.37.
豊田武司 2003. 小笠原植物図譜 増補改訂版. アボック社.
豊田武司 2014. 小笠原諸島 固有植物ガイド. ウッズプレス.
にほんブログ村 ランキングに参加しています。
2015年1月20日火曜日
シマゴショウ Peperomia boninsimensis その種子散布について
2015年1月
小笠原諸島を訪れた。
大陸と一度も繋がったことのない海洋島の小笠原は、ここでしか見ることのできない固有の生物が多く、このうち植物は自生種の約4割が固有種である。
コショウ科のシマゴショウPeperomia boninsimensisも固有種の一つ。小笠原諸島のうち父島、兄島、母島、それから火山列島に分布する。
四国・九州~琉球の海岸近くに生育するサダソウP. japonicaなどが近縁種とされる。
海から離れた林内の樹木の幹や岩などに張り付くように生育し、とりわけ霧がかかりやすい高標高域で個体数が多いようだ。
シマゴショウは茎の先に花序を上向きに付け、小さな花を咲かせる。花後に付ける果実も大きさ約1mmと目立たない。
サダソウ(ペペロミア)属の植物は多肉質の葉などが美しく、観葉植物に広く用いられるが、多くの種が同様に地味な花と果実を付けるようである。
しばらく観察しているうちに、手に細かな粒が付着していることに気が付いた。
シマゴショウの果実である。たまたま花序を触った際にくっついたらしい。
軽く払ったくらいでは外れないことから、小さなトゲか粘液を出しているのではないか、と考え、果実を詳しく観察することにした。
手持ちのデジタルカメラ(STYLUS TG-3)のマクロモードで撮影する。
拡大してみると、果実の表面に白色のボツボツが沢山生えていることが分かった。カギ針が生えているか、粘液で覆われているか、と考えていたので、思いがけない構造に驚く。
後日、図鑑を開いてみると、この構造について、「子房は球形で表面に乳頭状突起がある」(小笠原諸島 固有植物ガイド 豊田武司)と記述があり、以前から知られていたものと分かった。果実の中には1個の種子が入っているとのことである。
許可なしの採取はできないので顕微鏡などでの観察はできなかったが、果実に他の目立った構造物はなく、粘液で覆われている様子もないので、恐らく乳頭状突起が”のり”のような役割を果たしているのではないかと思う。
シマゴショウは、果実の特徴から何者かにくっ付いて分布を広げる「付着散布」の戦略を取っていると考えられる。
シマゴショウのように木の幹や岩などに張り付いて育つ植物を「着生植物」といい、シダ植物やラン科植物などが主なメンバーである。彼らは非常に細かい胞子や果実(種子)を風で飛ばし、樹上にたどり着くことができる。
シマゴショウの果実は小さいとはいえ、風で飛ばされるほどのものではなく、どうやって樹上や岩上にたどりついたのか疑問だったが、恐らく樹上を歩き回る小動物の体表にくっ付いてあちこちに運ばれているのだろう。小笠原諸島において、固有種のメグロやハシナガウグイスなどの小鳥、外来種のクマネズミなどがその役割を担っているのかもしれない。
もっと大きな時間スケールで考えると、付着散布という特性を持っていたがために、シマゴショウの祖先は鳥にくっ付いて小笠原にたどり着くことができたのかもしれない。
近縁のサダソウの果実も良く似た構造を持つようで、同様に付着散布であることが伺える。他のサダソウ属Peperomiaの植物がどのような種子散布戦略を持つのか、気になるところである。
<参考・引用>
・小笠原諸島 固有植物ガイド, 豊田武司著, 株式会社ウッズプレス発行, 2014年12月15日 初版第1刷発行
・愛媛県レッドデータブック2014 サダソウ
http://www.pref.ehime.jp/reddatabook2014/detail/09_08_005690_2.html(2015年1月20日閲覧)
![]() |
| 固有種のヒメツバキ、タコノキ等から成る森林 |
大陸と一度も繋がったことのない海洋島の小笠原は、ここでしか見ることのできない固有の生物が多く、このうち植物は自生種の約4割が固有種である。
コショウ科のシマゴショウPeperomia boninsimensisも固有種の一つ。小笠原諸島のうち父島、兄島、母島、それから火山列島に分布する。
四国・九州~琉球の海岸近くに生育するサダソウP. japonicaなどが近縁種とされる。
海から離れた林内の樹木の幹や岩などに張り付くように生育し、とりわけ霧がかかりやすい高標高域で個体数が多いようだ。
シマゴショウは茎の先に花序を上向きに付け、小さな花を咲かせる。花後に付ける果実も大きさ約1mmと目立たない。
サダソウ(ペペロミア)属の植物は多肉質の葉などが美しく、観葉植物に広く用いられるが、多くの種が同様に地味な花と果実を付けるようである。
しばらく観察しているうちに、手に細かな粒が付着していることに気が付いた。
シマゴショウの果実である。たまたま花序を触った際にくっついたらしい。
軽く払ったくらいでは外れないことから、小さなトゲか粘液を出しているのではないか、と考え、果実を詳しく観察することにした。
手持ちのデジタルカメラ(STYLUS TG-3)のマクロモードで撮影する。
拡大してみると、果実の表面に白色のボツボツが沢山生えていることが分かった。カギ針が生えているか、粘液で覆われているか、と考えていたので、思いがけない構造に驚く。
後日、図鑑を開いてみると、この構造について、「子房は球形で表面に乳頭状突起がある」(小笠原諸島 固有植物ガイド 豊田武司)と記述があり、以前から知られていたものと分かった。果実の中には1個の種子が入っているとのことである。
許可なしの採取はできないので顕微鏡などでの観察はできなかったが、果実に他の目立った構造物はなく、粘液で覆われている様子もないので、恐らく乳頭状突起が”のり”のような役割を果たしているのではないかと思う。
シマゴショウは、果実の特徴から何者かにくっ付いて分布を広げる「付着散布」の戦略を取っていると考えられる。
シマゴショウのように木の幹や岩などに張り付いて育つ植物を「着生植物」といい、シダ植物やラン科植物などが主なメンバーである。彼らは非常に細かい胞子や果実(種子)を風で飛ばし、樹上にたどり着くことができる。
シマゴショウの果実は小さいとはいえ、風で飛ばされるほどのものではなく、どうやって樹上や岩上にたどりついたのか疑問だったが、恐らく樹上を歩き回る小動物の体表にくっ付いてあちこちに運ばれているのだろう。小笠原諸島において、固有種のメグロやハシナガウグイスなどの小鳥、外来種のクマネズミなどがその役割を担っているのかもしれない。
もっと大きな時間スケールで考えると、付着散布という特性を持っていたがために、シマゴショウの祖先は鳥にくっ付いて小笠原にたどり着くことができたのかもしれない。
近縁のサダソウの果実も良く似た構造を持つようで、同様に付着散布であることが伺える。他のサダソウ属Peperomiaの植物がどのような種子散布戦略を持つのか、気になるところである。
<参考・引用>
・小笠原諸島 固有植物ガイド, 豊田武司著, 株式会社ウッズプレス発行, 2014年12月15日 初版第1刷発行
・愛媛県レッドデータブック2014 サダソウ
http://www.pref.ehime.jp/reddatabook2014/detail/09_08_005690_2.html(2015年1月20日閲覧)
にほんブログ村 ランキングに参加しています。
登録:
投稿 (Atom)




























