2019年7月19日金曜日

ハルツ山麓の重金属植生 (Heavy metal vegetation)


IAVSエクスカーションの最初の観察ポイントは、ハルツ山地から流下する川辺の植生。鉱山跡地から流出した鉱滓(こうさい Slag)が堆積し、亜鉛や銅、鉛、カドミウムといった重金属に富む立地になっている。ハルツ山地での鉱業は3000年以上の歴史を持ち、この立地はかなり持続的に保たれてきたらしい。



人の活動によって生まれた立地環境だが、特殊岩地に特有な植物たちが多く生育している。彼らの自然条件下での生育場所の多くは現在失われており、その代替立地として重要であることから保全の対象になっている。

Armeria maritima subsp. halleri (Plumbaginaceae イソマツ科)

A. maritima(ハナカンザシ)は塩性湿地などに生育するが、本亜種は重金属に富む立地に特有。

Minuartia verna ssp. hercynica
(Caryophyllaceae ナデシコ科タカネツメクサ属)

重金属立地に特有。日本にはM. vernaの変種のホソバツメクサ(var. japonica)が分布する。ホソバツメクサは蛇紋岩地などに限って分布しており、ハルツでの生育環境との関連を感じる。

Arabidopsis halleri
(Brassicaceae アブラナ科シロイヌナズナ属)

重金属立地に特有?
日本にはA. halleriの亜種ハクサンハタザオ(ssp. gemmifera)およびそれらの変種が分布する。

Silene vulgaris ssp. humilis
(Caryophyllaceae ナデシコ科マンテマ属)

シラタマソウ(S. vulgaris)は欧州に広く分布するが、亜種humilisは重金属立地に特有。






以下の種は重金属立地に特有な分類群ではないが、立地に適応した生態型を有しているらしい。

Campanula rotundifolia
(Campanulaceae キキョウ科ホタルブクロ属)

ツリガネニンジンに見えるがホタルブクロ属。

Agrostis capillaris
(Poaceae イネ科ヌカボ属)

スイバRumex acetosa
(Polygonaceae タデ科スイバ属)

日本でもおなじみのスイバは、ドイツを含むヨーロッパでも広く自生している。

Thymus pulegioides
(Lamiaceae シソ科イブキジャコウソウ属)

Stereocaulon vesuvianum
地衣類の一種。

いわゆるコケ(地衣類と蘚苔類)にも重金属立地に特有なものが含まれており、保全の対象になっている。
今回のエクスカーションでは、維管束植物と一緒に蘚苔類や地衣類の解説も多かった。
観察地の一部では、定期的に表土の剥ぎ取り(耕耘?)が行われている。現在では上流からのスラグの供給が止まっており、放置していると土壌がたまって表層の重金属濃度が低下し、特有の植物群落が失われるためである。

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