小笠原諸島の母島にて。
セキモンスゲCarex toyoshimae Tuyamaが生育しているのを見つけた。
セキモンスゲはカヤツリグサ科スゲ属の一種であり、小笠原諸島の固有種である。本種は小笠原諸島内でも今のところ母島でしか分布が確認されていない。かつては父島にも分布する、とされていたが、父島のものは近年になって別種(ウミノサチスゲ)と判明している(勝山 2015)。
花序。
頂小穂(花序の先端に付く小穂※)は雄性、側小穂(花序の途中に付く小穂)は雌性である。
側小穂の拡大。花期は終わり、雌花はいずれも実になっていた。
果胞※は緑白色の雌鱗片に覆われており、先端のみが顔を出している。
雌鱗片の先端からは短い芒(のぎ)が出ている。
こちらは昨年1月に観察した際のセキモンスゲ。ちょうど花期を迎えていた。
ところで、母島の林床には広域分布種のヒゲスゲCarex boottiana Hook. et Arn.も広く生育している。
ヒゲスゲは澤田ほか(2007)において「海岸植物※」に分類されている。しかし、小笠原諸島では(例外的に?)海岸だけでなく内陸の森林内まで生育が及んでおり、時には草本層の優占種となるほど個体数が多い。
林内に生えるヒゲスゲは海岸部に生えるものと比較して葉が細く柔らかく、さらに小穂の幅が狭いものが多いため、一見するとヒゲスゲに見えないほどである。
セキモンスゲとヒゲスゲの見分けは、小穂が出ていれば比較的容易である。
ヒゲスゲの側小穂を見ると、セキモンスゲのそれと比べて随分とトゲトゲしい。これは、雌鱗片の先端の芒が長いためである。
その他には
・セキモンスゲの葉はヒゲスゲの葉よりも濃緑色であることが多い
・ヒゲスゲの葉の縁はざらつくが、セキモンスゲの葉は質が柔らかく、縁があまりざらつかない
・ヒゲスゲの方が果期が早く、1月にはほとんどの個体で結実している。セキモンスゲの果期は3月以降
なども識別の参考になると思われる。
また、乳房山林道沿いで観察すると、ヒゲスゲは主に低標高域に生育するが、セキモンスゲはより高標高の場所(約300 m以上)に限って生育しており、両種は標高に応じてある程度棲み分けているようだ。
母島に分布するスゲにはもう一種、ムニンナキリスゲCarex hattoriana Nakai ex Tuyamaがある。
母島においてはムニンナキリスゲの分布は限られているようで、見かける機会はあまり多くない。また、他2種とは形態がかなり異なっており、小穂が出ていれば区別に困ることはないと思う。
※について
・小穂(しょうすい)・・・多数の花が1本の軸に付いてまとまりを作ったもの。なお、日本語で小穂と呼ぶものにはspike(スゲ属を除くカヤツリグサ科の多くやイネ科などの小穂)と、spikeが集まってできたspikelet(スゲ属でいうところの小穂)があるそうだが、私の理解が進んでいないこともあり、ここでは説明を省く。
・果胞(かほう)・・・雌花を包む壺状の器官。外観で果実のように見えるものはこの果胞である。スゲ属の場合、果実は果胞にすっぽりと包まれているため外からは見えない。
・海岸植物・・・海と陸との境界部の立地(例えば砂浜、海崖、塩湿地)を主要な生育場所とし、それ以外の立地にはほとんど出現しない種
<参考>
・勝山輝男 2005. ネイチャーガイド 日本のスゲ. 文一総合出版.
・勝山輝男 2015. ネイチャーガイド 日本のスゲ 増補改訂. 文一総合出版.
・木場英久,茨木 靖,勝山輝男 2011. イネ科ハンドブック. 文一総合出版.
・澤田佳宏・中西弘樹・押田佳子・服部保.2007.日本の海岸植物チェックリスト.人と自然 17:85-101.
・谷城勝弘 2007. カヤツリグサ科入門図鑑. 全国農村教育協会.
・豊田武司 2014. 小笠原諸島 固有植物ガイド. ウッズプレス.
2016年4月3日日曜日
2016年3月21日月曜日
兵庫にて 春植物の観察
3月5日
早春に花開く野草たちを目当てに、兵庫県中部のとある場所を訪れた。
この場所では、山林と集落との間に位置する斜面地に様々な草本が生えている。
キクザキイチゲ Anemone pseudo-altaica
ここで咲いていた花は、いずれも淡紫色を帯びていた。本種の花色は、日本海側に行くとバリエーションが豊かになるという。
アズマイチゲ Anemone raddena
キクザキイチゲに似ているが葉の形が異なる。また、アズマイチゲでは萼片の基部が紫色を帯びる。
セツブンソウ Eranthis pinnatifida
ニホンミツバチと思われるハチが訪花していた。
セリバオウレン Coptis japonica var. dissecta
ユキワリイチゲ Anenone keiskeana
西日本に分布する。
開花のピークはもう少し先のようで、しっかりと花開いた個体は見られなかった。
今回観察した植物の中ではキクザキイチゲ、アズマイチゲ、セツブンソウが春植物の定義に当てはまる生活史を持つ。ユキワリイチゲは秋に葉を展開するが、これは温暖な西日本低地に適応して展葉期間が延びた特殊な春植物、といったところだろうか(正確なことは分からないです)。
セリバオウレンは、花は早春に咲くものの葉は年中展開しているので、いわゆる春植物とはやや異なるかもしれない。
早春に花開く野草を指す語として「春植物」や「スプリング・エフェメラル」と並んでよく見かけるのが「春の妖精」だ。春先に美しい花を咲かせ、わずか数ヶ月で地上部から姿を消す彼らを表現するのにふさわしい言葉であると思う。
しばしば「スプリング・エフェメラル」と「春の妖精」はセットで用いられることから、私は春の妖精、という語が前者を意訳したものなのだと錯覚していたが、辞書で調べてそれが正しくないことを(恥ずかしながら最近)知った。
スプリング・エフェメラル(Spring Ephemeral)の「ephemaral」は、和訳すれば「短命な、はかない」、などとなる(リーダーズ英和辞典、ジーニアス英和大辞典)。さらに、この語自体が「短命な(動)植物(ephemeral plant)」を指す(上2辞典、オックスフォード米語辞典)。調べた限りでは「妖精」を指すことはない。
すなわち、スプリング・エフェメラルの訳語は「春植物」でよく、もっと厳密に訳すなら「春型短命植物」といった感じがふさわしいと考えられる。「春の妖精」という言葉は、「スプリングエフェメラル」や「春植物」と直接対応する語ではなく、あくまで文語的な表現といえる。
<参考>
・畦上能力 1996. 山渓ハンディ図鑑2 山に咲く花. 山と渓谷社, 東京.
・Wikipedia 英語版 「Ephemeral Plant」(2016年3月閲覧)
https://en.wikipedia.org/wiki/Ephemeral_plant
2015年12月13日日曜日
嵐とマツグミ拾い
12月12日
昨日11日の兵庫県南部は、発達中の低気圧の影響で大荒れの天候となった。
最寄りのアメダス(三田)では最大瞬間風速25.4 m、日降水量55.5 mm、日最大1時間降水量16.5 mmを記録したが、いずれも12月としては観測史上1位である。
翌12日、近くの公園を訪れた。
園内の歩道には、落ちてきた枝葉が散乱している。
その中に、マツグミTaxillus kaempferiを見つけた。枝にはウメノキゴケの仲間がびっしり付いている。
マツグミはオオバヤドリギ科(エングラー体系ではヤドリギ科)の常緑低木で、モミやツガ、アカマツなどの針葉樹に寄生する。
落ちていた個体の大きさは約80 cmあり、マツグミとしてはかなりのサイズだと思う。
果実も付いていた。知り合いの方曰く、完熟したものは食べることができるらしい。
熟すのは初夏頃のため、今回見つけたものは残念ながら未熟果である。
マツグミが落ちていた横には、モミAbies firmaとツガTsuga sieboldiiが数本生えている。
これらの木のどこかに寄生しているはずだが、肉眼では確認できない。
マツグミは普段から旧葉を頻繁に落とすため、寄主木の根元を歩けば、ばらばらに落ちた葉は割合簡単に見つけることができる。
しかし、枝葉セットで新鮮なものは荒天の後でない限り、なかなか観察できないと思う。
<参考>
・気象庁 過去の気象データ検索
http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/index.php?prec_no=63&block_no=0969&year=2015&month=12&day=&view=h0 (2015年12月13日現在)
・気象庁 天気図
http://www.jma.go.jp/jp/g3/ (2015年12月13日現在)
・植物和名-学名インデックス Yリスト
http://ylist.info/index.html (2015年12月13日現在)
昨日11日の兵庫県南部は、発達中の低気圧の影響で大荒れの天候となった。
![]() |
| 11日6時の天気図 (気象庁ホームページより,一部改) |
翌12日、近くの公園を訪れた。
園内の歩道には、落ちてきた枝葉が散乱している。
その中に、マツグミTaxillus kaempferiを見つけた。枝にはウメノキゴケの仲間がびっしり付いている。
マツグミはオオバヤドリギ科(エングラー体系ではヤドリギ科)の常緑低木で、モミやツガ、アカマツなどの針葉樹に寄生する。
落ちていた個体の大きさは約80 cmあり、マツグミとしてはかなりのサイズだと思う。
果実も付いていた。知り合いの方曰く、完熟したものは食べることができるらしい。
熟すのは初夏頃のため、今回見つけたものは残念ながら未熟果である。
マツグミが落ちていた横には、モミAbies firmaとツガTsuga sieboldiiが数本生えている。
これらの木のどこかに寄生しているはずだが、肉眼では確認できない。
マツグミは普段から旧葉を頻繁に落とすため、寄主木の根元を歩けば、ばらばらに落ちた葉は割合簡単に見つけることができる。
しかし、枝葉セットで新鮮なものは荒天の後でない限り、なかなか観察できないと思う。
<参考>
・気象庁 過去の気象データ検索
http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/index.php?prec_no=63&block_no=0969&year=2015&month=12&day=&view=h0 (2015年12月13日現在)
・気象庁 天気図
http://www.jma.go.jp/jp/g3/ (2015年12月13日現在)
・植物和名-学名インデックス Yリスト
http://ylist.info/index.html (2015年12月13日現在)
にほんブログ村 ランキングに参加しています。
2015年12月1日火曜日
カヤランは1年に何枚葉を出すのか (栽培下における観察)
自宅にて、カヤランThrixspermum japonicum(ラン科)を栽培している。自生地の地面に落下しているところを見つけ、拾ったものだ。
樹上生活者のカヤランを、近くで観察できる機会はあまり多くない。栽培下の環境は自生地のそれとは異なるものの、本種をじっくりと観察するよい機会であるといえる。
成長をしばらく追ってみた。
4月23日
約3週間前に拾った個体。
成長済みの葉4枚と、新葉1枚からなる。
新葉は今年出たのか、前年からあったのかは分からないが、ここでは今年1枚目の葉と仮定し、番号1を振る。
5月21日
1枚目の葉がほぼ伸びきった。
6月2日
2枚目の葉が出てきた。
7月8日
2枚目の葉が大分成長した。
7月27日
2枚目の葉がほぼ伸びきった。
3枚目の葉が出てきた。
葉に加え、新しい根が伸長を始めた。
8月24日
3枚目の葉が大分成長した。
9月29日
3枚目の葉がほぼ伸びきった。
4枚目の葉が出てきた。
新しい根の先端が、ヘゴ棒に付き始めた。
10月28日
4枚目の葉が少し伸びた。
根の伸長が著しい。
11月28日
4枚目の葉は、10月28日と比較してわずかに伸びた。
根はかなり伸長した。
先端の緑色の部分が少なくなったので、これからしばらくはあまり伸びないかもしれない。
4月から11月までの約7か月の間に、元からあった葉1枚が伸び、新しい葉3枚を出したことになる。冬季の成長速度が分からないので何とも言えないが、1年間で展開する葉は3-4枚、と考えることができそうだ。
野生化における展葉ペースについては、年2-3枚(4月-8月で1-2枚、9月-4月で1枚)との報告がある(松村・澤田 2009)。また、年3-4枚葉を展開するとの情報がweb上にある(「カヤランの一生」四国カルストで花道楽)。
我が家の栽培個体の展葉枚数は、これらと類似したものになった。
なお、web上には年に1枚だけ展葉する、との記述もある。これが正しい情報なのかは分からないが、個体の齢数や活力度、生育環境の違いなどによっては、ゆっくりと成長する場合もあるのかもしれない。
<参考>
松村俊和・澤田佳宏 2009. 風倒木着生個体から推定したカヤランの個体群統計
カヤランの一生
四国カルストで花道楽http://blogs.yahoo.co.jp/hanadouraku2/11660970.html(2015年11月閲覧)
樹上生活者のカヤランを、近くで観察できる機会はあまり多くない。栽培下の環境は自生地のそれとは異なるものの、本種をじっくりと観察するよい機会であるといえる。
成長をしばらく追ってみた。
4月23日
約3週間前に拾った個体。
成長済みの葉4枚と、新葉1枚からなる。
新葉は今年出たのか、前年からあったのかは分からないが、ここでは今年1枚目の葉と仮定し、番号1を振る。
5月21日
1枚目の葉がほぼ伸びきった。
6月2日
2枚目の葉が出てきた。
7月8日
2枚目の葉が大分成長した。
7月27日
2枚目の葉がほぼ伸びきった。
3枚目の葉が出てきた。
葉に加え、新しい根が伸長を始めた。
8月24日
3枚目の葉が大分成長した。
9月29日
3枚目の葉がほぼ伸びきった。
4枚目の葉が出てきた。
新しい根の先端が、ヘゴ棒に付き始めた。
10月28日
4枚目の葉が少し伸びた。
根の伸長が著しい。
11月28日
4枚目の葉は、10月28日と比較してわずかに伸びた。
根はかなり伸長した。
先端の緑色の部分が少なくなったので、これからしばらくはあまり伸びないかもしれない。
4月から11月までの約7か月の間に、元からあった葉1枚が伸び、新しい葉3枚を出したことになる。冬季の成長速度が分からないので何とも言えないが、1年間で展開する葉は3-4枚、と考えることができそうだ。
野生化における展葉ペースについては、年2-3枚(4月-8月で1-2枚、9月-4月で1枚)との報告がある(松村・澤田 2009)。また、年3-4枚葉を展開するとの情報がweb上にある(「カヤランの一生」四国カルストで花道楽)。
我が家の栽培個体の展葉枚数は、これらと類似したものになった。
なお、web上には年に1枚だけ展葉する、との記述もある。これが正しい情報なのかは分からないが、個体の齢数や活力度、生育環境の違いなどによっては、ゆっくりと成長する場合もあるのかもしれない。
<参考>
松村俊和・澤田佳宏 2009. 風倒木着生個体から推定したカヤランの個体群統計
カヤランの一生
四国カルストで花道楽http://blogs.yahoo.co.jp/hanadouraku2/11660970.html(2015年11月閲覧)
にほんブログ村 ランキングに参加しています。
2015年10月16日金曜日
丹後半島にて グンバイヒルガオ
9月30日
修論調査で丹後半島(京都府の日本海側)を訪れた。
砂浜を歩いていると、所々にグンバイヒルガオIpomoea pes-caprae(ヒルガオ科)の姿が目に付く。
本種の日本における分布域(開花・結実できる地域)の北限は九州~四国だが、漂着種子から発芽した実生個体は、山形県でも確認されている。
丹後半島において、グンバイヒルガオの実生はそれほど珍しいものではないらしく、昨年の秋にも数個体を見かけた。
ただ、こうして芽生えた実生たちは冬の寒さに耐えられずに枯死する運命にある。温暖化が進行しているとされるが最近の冬の寒さは厳しいことも多く、現状の気候下での定着は困難と思われる。
丹後ではよく見かけるグンバイヒルガオだが、実家のある神奈川県の湘南海岸では、ほとんど出会ったことがない(もっとも、海水浴客が多い湘南海岸では、芽生えた実生が一掃されてしまうのかもしれない)。
神奈川よりも丹後半島の方が北に位置するが、対馬暖流が直接ぶつかるために種子がより多く漂着しやすいのだろうと思う。
![]() |
| ハマベノギク咲く砂浜海岸 |
修論調査で丹後半島(京都府の日本海側)を訪れた。
砂浜を歩いていると、所々にグンバイヒルガオIpomoea pes-caprae(ヒルガオ科)の姿が目に付く。
本種の日本における分布域(開花・結実できる地域)の北限は九州~四国だが、漂着種子から発芽した実生個体は、山形県でも確認されている。
丹後半島において、グンバイヒルガオの実生はそれほど珍しいものではないらしく、昨年の秋にも数個体を見かけた。
ただ、こうして芽生えた実生たちは冬の寒さに耐えられずに枯死する運命にある。温暖化が進行しているとされるが最近の冬の寒さは厳しいことも多く、現状の気候下での定着は困難と思われる。
丹後ではよく見かけるグンバイヒルガオだが、実家のある神奈川県の湘南海岸では、ほとんど出会ったことがない(もっとも、海水浴客が多い湘南海岸では、芽生えた実生が一掃されてしまうのかもしれない)。
神奈川よりも丹後半島の方が北に位置するが、対馬暖流が直接ぶつかるために種子がより多く漂着しやすいのだろうと思う。
にほんブログ村 ランキングに参加しています。
2015年9月9日水曜日
大台ケ原を歩く (東大台編)
8月10日
大学の先生方とともに、奈良県上北山村の大台ケ原を訪れた。
「吉野熊野国立公園」に指定地域の一つである大台ケ原は、隆起準平原からなる台地状の山である。屋久島と並ぶ日本最多雨地域であり、ブナや針葉樹などからなる広大な森林が広がっている。
豊かな自然が広がる一方、近年シカや人などによる影響が深刻であると言われ、トウヒの立ち枯れ地は象徴的な存在として紹介されることも多い。
大台ケ原ドライブウェイの終点にあたる、標高約1570mの平坦地。
ビジターセンターや土産物屋、宿泊施設があり、観光の起点となっている。
この平坦地をほぼ境に、東側は「東大台」、西側は「西大台」、と呼ばれている。
東大台方面への登山道を進むと、すぐに針葉樹林の中に入った。
中部地方以北の山岳地帯では広く見ることができる亜高山針葉樹林だが、高い山の少ない近畿地方では紀伊半島の大台ケ原や大峰山系に限って見られる。
高木層を主に占めるのは、ウラジロモミAbies homolepisとトウヒPicea jezoensis var. hondoensis。ときにヒノキChamaecyparis obtusaが混じる。このうち、トウヒは大台ケ原が分布の南限である。
ウラジロモミとトウヒは遠目にはよく似ているが、ウラジロモミの樹皮が黄褐色なのに対し、トウヒの樹皮は紫色がかった褐色なので、見分けがつく。
また、低木層にはタンナサワフタギSymplocos coreanaやオオイタヤメイゲツAcer shirasawanum、フウリンウメモドキIlex geniculata、リョウブClethra barbinervis、クロヅルTripterygium regeliiなど。
草本層はミヤコザサSasa nipponicaが優占し、ときにスズタケSasa borealisを交えている。登山道沿いなどの斜面では、ササの代わりに蘚類(コケ)が地面を覆い、ホソバトウゲシバHuperzia serrata var. serrataやイトスゲCarex fernaldiana、コミヤマカタバミOxalis acetosella、ヒメミヤマスミレViola boissieuanaなどが一緒に生えている。
トウヒやウラジロモミの根元を見ると、あちらこちらで樹皮が剥がされているのが目に付く。樹皮剥ぎを受けた木の多くは生きていたが、中には樹皮が幹一周はがされて枯死したものもあった。
関根,佐藤(1992)などによると、大台ケ原で樹皮剥ぎを行っている動物は、主にニホンジカであるという。
樹皮剥ぎ防止ネットが功を奏しているのか、多くの剥ぎ痕は随分と年数がたっているようで、新しいものは少なかった。
稜線に到着。
15km離れた太平洋から吹き付ける湿った風が斜面に直接当たるこの場所では、特に霧が発生しやすいらしい。
また強風の影響か、木々の高さは風背と比較して明らかに低い。
稜線では、ブナFagus crenataが果実(ドングリ)をたわわに付けていた。
ブナは、冷温帯(ブナクラス域)を特徴づける木である。針葉樹林が広がる東大台に生えていることに、おや、と思うが、亜高山帯(コケモモ-トウヒクラス域)の下限に位置するため、ブナが混生しているのだろう。
稜線沿いを右に進むと、トウヒの立ち枯れが目立つ正木峠に到着。ミヤコザサ草原が一面に広がる。
樹木はシロヤシオの他には、ウラジロモミの幼木などがわずかに見られるのみだった。
ミヤコザサを観察すると、あちらこちらにシカの食痕が見られた。
昭和38年当時の正木峠を示した看板。
ここはかつて林床をコケが覆う、うっそうとした針葉樹林だったという。
そこから現在の景観へと変化した要因として、看板には次のようなことが挙げられている。
①伊勢湾台風などによる樹木の多数転倒、および転倒木の搬出による林床の乾燥化。
②林床の乾燥化に伴うコケの減少と、ミヤコザサの繁茂。
③ササの繁茂による樹木の更新の阻害。
④大台ケ原周辺で増加したシカによる下層植生の採食や、樹皮剥ぎの増加。
これら様々な要因が重なり、現在に至っているという。
ササ草原内には、シカ除けネットで四角く覆われた場所があり、内側には植栽されたと思われるトウヒの若木が育っていた。
登山道を歩いていると、自然に芽生えたトウヒも点々と見られた。
その多くは、登山道沿いの日当たりが比較的良い場所で、コケ群落中や、湿った裸地に生じているようだった。
中には、発芽から間もないと思われるものだけでなく、それなりに大きな個体も見られた。
写真の個体はその一つで、高さ30cm超、枝を大きく広げていた。
ただ、このように大きく成長したものでは、新芽がシカに食べられているのも目に付いた。
正木ヶ原。
こちらは正木峠とは異なり、白骨化した枯死木と、生存木とが入り混じる。
生存木はヒノキとウラジロモミ、コメツガが主で、トウヒは少ない。また、トウヒの中にはやや衰えが見られるものも混じっており、枯死は多少なり進行中に思われた。
正木ヶ原からしばらく下ると、再び針葉樹林に入った。
左写真の奥に写っているのは、ヒノキの古い切り株。写真に写る看板や環境省のwebページによると、東大台において、大正時代に製紙材料として大規模に伐採が行われたのだそうだ。現在見られる林は、その後に実生個体から再生したものだという。
さらに進むと、林床を蘚類(コケ)やイトスゲが覆う場所になった。
大半の林床がミヤコザサに覆われる現在の東大台だが、多湿で岩が露出する斜面では、かつてのように(?)、蘚類が優占しているようだ。
翌日の西大台立ち入りに必要なレクチャーを受けるため、大蛇嵓などはパスして足早に下山。
写真は、ビジターセンター脇の球果(マツボックリ)を付けていたトウヒ。
<参考・引用>
関根達郎, 佐藤治雄 1992. 大台ケ原山におけるニホンジカによる樹木の剥皮. 日本生態学会誌, 42: 241-248.
環境省 吉野熊野国立公園 大台ケ原
http://kinki.env.go.jp/nature/odaigahara/odai_top.htm(2015年9月閲覧)
Y List 植物和名-学名インデックス
http://ylist.info/(2015年8月閲覧)
大学の先生方とともに、奈良県上北山村の大台ケ原を訪れた。
「吉野熊野国立公園」に指定地域の一つである大台ケ原は、隆起準平原からなる台地状の山である。屋久島と並ぶ日本最多雨地域であり、ブナや針葉樹などからなる広大な森林が広がっている。
豊かな自然が広がる一方、近年シカや人などによる影響が深刻であると言われ、トウヒの立ち枯れ地は象徴的な存在として紹介されることも多い。
大台ケ原ドライブウェイの終点にあたる、標高約1570mの平坦地。
ビジターセンターや土産物屋、宿泊施設があり、観光の起点となっている。
この平坦地をほぼ境に、東側は「東大台」、西側は「西大台」、と呼ばれている。
東大台方面への登山道を進むと、すぐに針葉樹林の中に入った。
中部地方以北の山岳地帯では広く見ることができる亜高山針葉樹林だが、高い山の少ない近畿地方では紀伊半島の大台ケ原や大峰山系に限って見られる。
高木層を主に占めるのは、ウラジロモミAbies homolepisとトウヒPicea jezoensis var. hondoensis。ときにヒノキChamaecyparis obtusaが混じる。このうち、トウヒは大台ケ原が分布の南限である。
ウラジロモミとトウヒは遠目にはよく似ているが、ウラジロモミの樹皮が黄褐色なのに対し、トウヒの樹皮は紫色がかった褐色なので、見分けがつく。
また、低木層にはタンナサワフタギSymplocos coreanaやオオイタヤメイゲツAcer shirasawanum、フウリンウメモドキIlex geniculata、リョウブClethra barbinervis、クロヅルTripterygium regeliiなど。
草本層はミヤコザサSasa nipponicaが優占し、ときにスズタケSasa borealisを交えている。登山道沿いなどの斜面では、ササの代わりに蘚類(コケ)が地面を覆い、ホソバトウゲシバHuperzia serrata var. serrataやイトスゲCarex fernaldiana、コミヤマカタバミOxalis acetosella、ヒメミヤマスミレViola boissieuanaなどが一緒に生えている。
![]() |
| ホソバトウゲシバ |
![]() |
| イトスゲ |
トウヒやウラジロモミの根元を見ると、あちらこちらで樹皮が剥がされているのが目に付く。樹皮剥ぎを受けた木の多くは生きていたが、中には樹皮が幹一周はがされて枯死したものもあった。
関根,佐藤(1992)などによると、大台ケ原で樹皮剥ぎを行っている動物は、主にニホンジカであるという。
樹皮剥ぎ防止ネットが功を奏しているのか、多くの剥ぎ痕は随分と年数がたっているようで、新しいものは少なかった。
稜線に到着。
15km離れた太平洋から吹き付ける湿った風が斜面に直接当たるこの場所では、特に霧が発生しやすいらしい。
また強風の影響か、木々の高さは風背と比較して明らかに低い。
稜線では、ブナFagus crenataが果実(ドングリ)をたわわに付けていた。
ブナは、冷温帯(ブナクラス域)を特徴づける木である。針葉樹林が広がる東大台に生えていることに、おや、と思うが、亜高山帯(コケモモ-トウヒクラス域)の下限に位置するため、ブナが混生しているのだろう。
稜線沿いを右に進むと、トウヒの立ち枯れが目立つ正木峠に到着。ミヤコザサ草原が一面に広がる。
樹木はシロヤシオの他には、ウラジロモミの幼木などがわずかに見られるのみだった。
ミヤコザサを観察すると、あちらこちらにシカの食痕が見られた。
昭和38年当時の正木峠を示した看板。
ここはかつて林床をコケが覆う、うっそうとした針葉樹林だったという。
そこから現在の景観へと変化した要因として、看板には次のようなことが挙げられている。
①伊勢湾台風などによる樹木の多数転倒、および転倒木の搬出による林床の乾燥化。
②林床の乾燥化に伴うコケの減少と、ミヤコザサの繁茂。
③ササの繁茂による樹木の更新の阻害。
④大台ケ原周辺で増加したシカによる下層植生の採食や、樹皮剥ぎの増加。
これら様々な要因が重なり、現在に至っているという。
ササ草原内には、シカ除けネットで四角く覆われた場所があり、内側には植栽されたと思われるトウヒの若木が育っていた。
登山道を歩いていると、自然に芽生えたトウヒも点々と見られた。
その多くは、登山道沿いの日当たりが比較的良い場所で、コケ群落中や、湿った裸地に生じているようだった。
中には、発芽から間もないと思われるものだけでなく、それなりに大きな個体も見られた。
写真の個体はその一つで、高さ30cm超、枝を大きく広げていた。
ただ、このように大きく成長したものでは、新芽がシカに食べられているのも目に付いた。
正木ヶ原。
こちらは正木峠とは異なり、白骨化した枯死木と、生存木とが入り混じる。
生存木はヒノキとウラジロモミ、コメツガが主で、トウヒは少ない。また、トウヒの中にはやや衰えが見られるものも混じっており、枯死は多少なり進行中に思われた。
正木ヶ原からしばらく下ると、再び針葉樹林に入った。
左写真の奥に写っているのは、ヒノキの古い切り株。写真に写る看板や環境省のwebページによると、東大台において、大正時代に製紙材料として大規模に伐採が行われたのだそうだ。現在見られる林は、その後に実生個体から再生したものだという。
さらに進むと、林床を蘚類(コケ)やイトスゲが覆う場所になった。
大半の林床がミヤコザサに覆われる現在の東大台だが、多湿で岩が露出する斜面では、かつてのように(?)、蘚類が優占しているようだ。
翌日の西大台立ち入りに必要なレクチャーを受けるため、大蛇嵓などはパスして足早に下山。
写真は、ビジターセンター脇の球果(マツボックリ)を付けていたトウヒ。
<参考・引用>
関根達郎, 佐藤治雄 1992. 大台ケ原山におけるニホンジカによる樹木の剥皮. 日本生態学会誌, 42: 241-248.
環境省 吉野熊野国立公園 大台ケ原
http://kinki.env.go.jp/nature/odaigahara/odai_top.htm(2015年9月閲覧)
Y List 植物和名-学名インデックス
http://ylist.info/(2015年8月閲覧)
2015年9月6日日曜日
シバンムシアリガタバチ Cephalonomia gallicola
7月21日
自宅にて、シバンムシアリガタバチ
Cephalonomia gallicolaを見つけた。
体長約2mmの小さなハチで、アリガタバチの名の通り、メスは翅を持たずアリそっくりの姿をしている。
本種の存在に気がついたのは、数日前に刺されたのがきっかけである。ごく小型のハチながら、刺された際にはかなり強い痛みがあり、その後数日間痒さが残った。
刺されるまでは気付かなかったが、その気になると床や壁を歩いている個体が目に付くようになった。
思えば、以前から床を単独で歩いていた小型であめ色のアリらしき虫が、本種だったのかもしれない。
アリガタバチは、害虫として知られるシバンムシ類の天敵(シバンムシの幼虫に産卵し、幼虫のエサとする)であり、益虫の一種といえる。
一方で、人を刺すという点では害虫に区分される。僕にとっては、今のところ目に見えた被害が見えないシバンムシよりも、実害のある本種の方が困った存在である。
再び刺されるのは御免だが、見た目・生態ともに変わったハチであり、いつかオスバチや、シバンムシの幼虫への産卵シーンは見てみたいと思う。
<参考>
イカリ消毒オンラインショップ シバンムシアリガタバチCephalonomia gallicola(ASHMEAD)
http://www.ikari.jp/gaicyu/33010d.html(2015年9月閲覧)
自宅にて、シバンムシアリガタバチ
Cephalonomia gallicolaを見つけた。
体長約2mmの小さなハチで、アリガタバチの名の通り、メスは翅を持たずアリそっくりの姿をしている。
本種の存在に気がついたのは、数日前に刺されたのがきっかけである。ごく小型のハチながら、刺された際にはかなり強い痛みがあり、その後数日間痒さが残った。
刺されるまでは気付かなかったが、その気になると床や壁を歩いている個体が目に付くようになった。
思えば、以前から床を単独で歩いていた小型であめ色のアリらしき虫が、本種だったのかもしれない。
アリガタバチは、害虫として知られるシバンムシ類の天敵(シバンムシの幼虫に産卵し、幼虫のエサとする)であり、益虫の一種といえる。
一方で、人を刺すという点では害虫に区分される。僕にとっては、今のところ目に見えた被害が見えないシバンムシよりも、実害のある本種の方が困った存在である。
再び刺されるのは御免だが、見た目・生態ともに変わったハチであり、いつかオスバチや、シバンムシの幼虫への産卵シーンは見てみたいと思う。
<参考>
イカリ消毒オンラインショップ シバンムシアリガタバチCephalonomia gallicola(ASHMEAD)
http://www.ikari.jp/gaicyu/33010d.html(2015年9月閲覧)
にほんブログ村 ランキングに参加しています。
登録:
投稿 (Atom)















































