2015年1月20日火曜日

シマゴショウ Peperomia boninsimensis その種子散布について

2015年1月

固有種のヒメツバキ、タコノキ等から成る森林
小笠原諸島を訪れた。

大陸と一度も繋がったことのない海洋島の小笠原は、ここでしか見ることのできない固有の生物が多く、このうち植物は自生種の約4割が固有種である。

コショウ科のシマゴショウPeperomia boninsimensisも固有種の一つ。小笠原諸島のうち父島、兄島、母島、それから火山列島に分布する。
四国・九州~琉球の海岸近くに生育するサダソウP. japonicaなどが近縁種とされる。
海から離れた林内の樹木の幹や岩などに張り付くように生育し、とりわけ霧がかかりやすい高標高域で個体数が多いようだ。


シマゴショウは茎の先に花序を上向きに付け、小さな花を咲かせる。花後に付ける果実も大きさ約1mmと目立たない。

サダソウ(ペペロミア)属の植物は多肉質の葉などが美しく、観葉植物に広く用いられるが、多くの種が同様に地味な花と果実を付けるようである。


しばらく観察しているうちに、手に細かな粒が付着していることに気が付いた。
シマゴショウの果実である。たまたま花序を触った際にくっついたらしい。
軽く払ったくらいでは外れないことから、小さなトゲか粘液を出しているのではないか、と考え、果実を詳しく観察することにした。

手持ちのデジタルカメラ(STYLUS TG-3)のマクロモードで撮影する。

拡大してみると、果実の表面に白色のボツボツが沢山生えていることが分かった。カギ針が生えているか、粘液で覆われているか、と考えていたので、思いがけない構造に驚く。

後日、図鑑を開いてみると、この構造について、「子房は球形で表面に乳頭状突起がある」(小笠原諸島 固有植物ガイド 豊田武司)と記述があり、以前から知られていたものと分かった。果実の中には1個の種子が入っているとのことである。


許可なしの採取はできないので顕微鏡などでの観察はできなかったが、果実に他の目立った構造物はなく、粘液で覆われている様子もないので、恐らく乳頭状突起が”のり”のような役割を果たしているのではないかと思う。
シマゴショウは、果実の特徴から何者かにくっ付いて分布を広げる「付着散布」の戦略を取っていると考えられる。

シマゴショウのように木の幹や岩などに張り付いて育つ植物を「着生植物」といい、シダ植物やラン科植物などが主なメンバーである。彼らは非常に細かい胞子や果実(種子)を風で飛ばし、樹上にたどり着くことができる。
シマゴショウの果実は小さいとはいえ、風で飛ばされるほどのものではなく、どうやって樹上や岩上にたどりついたのか疑問だったが、恐らく樹上を歩き回る小動物の体表にくっ付いてあちこちに運ばれているのだろう。小笠原諸島において、固有種のメグロやハシナガウグイスなどの小鳥、外来種のクマネズミなどがその役割を担っているのかもしれない。
もっと大きな時間スケールで考えると、付着散布という特性を持っていたがために、シマゴショウの祖先は鳥にくっ付いて小笠原にたどり着くことができたのかもしれない。

近縁のサダソウの果実も良く似た構造を持つようで、同様に付着散布であることが伺える。他のサダソウ属Peperomiaの植物がどのような種子散布戦略を持つのか、気になるところである。


<参考・引用>
・小笠原諸島 固有植物ガイド, 豊田武司著, 株式会社ウッズプレス発行, 2014年12月15日 初版第1刷発行

 ・愛媛県レッドデータブック2014 サダソウ
http://www.pref.ehime.jp/reddatabook2014/detail/09_08_005690_2.html(2015年1月20日閲覧)






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2014年11月16日日曜日

ヒメシロアサザの種子散布 その2

11月14日

先日から次々と種子を放出しているヒメシロアサザNymphoides coreana
前回の記事(→リンク)で、種子が表面張力によって水面に浮かび、水の流れで散布されるらしい、ということを書いた。

では、果実から出た種子がどのようにして水面へと達するのだろうか。

ヒメシロアサザの果実。

まず、果実を付けた花柄が水面近くまで伸び、果実が水面で割れることで種子が浮かぶのではないか、と考えた。
しかし、少なくとも我が家の栽培株においては、成熟したと思われる果実を付けた花柄も多くが下を向き、水面近くまで達することはなかった。

そこで、水中で果実が割れた場合に種子がどのように水面へ到達するのかを確かめることにした。
果実が割れる瞬間をずっと待ち続けるわけにはいかないので、果実を水中で強制的に割ることにした。

果実に割れ目を付け、種子を押し出す。
すると、種子とともに気泡が姿をあらわした。

種子をまとった気泡はそのまま水面へと上昇、気泡がはじけると同時に種子は水面に浮かび上がった。

外部から空気が入り込まない水中での実験であり、自然状態でもこれに近い形で水面へと運ばれるのではないかと思う。



種子ではないが、沖縄の海に生えるウミショウブは、水中で形成された雄花が気泡とともに浮かび水面を滑走して雌花にたどり着くことで有名で、時々メディアでも紹介される。
ヒメシロアサザの種子散布はそれを彷彿させるもので、興味深いものだと思った。





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2014年11月13日木曜日

ヒメシロアサザの種子散布

花期の様子。花径は1cm以下と小さい
2014年10月31日

栽培しているヒメシロアサザNymphoides coreana が今年も結実した。
埼玉県のとある工事予定地の休耕田から希少種を移植するアルバイトに参加した際、無数に発芽していた幼個体をいくつかいただいたものだ。



本種は自家受粉を行うためよく結実する。
環境さえ整えば爆発的に増える種と思うが、現状は開発などの影響を受け、国のレッドデータブックで絶滅危惧Ⅱ類。採取地の埼玉県では絶滅危惧Ⅰ類に指定される。

割れた果実から飛び出した種子は水面に浮かぶ(そのまま水底に沈むものもあるかもしれないが)。
茶色い粒々が浮かんでいるのを見つけた時、最初はそれが何なのか見当がつかなかったが、しばらくしてヒメシロアサザのものと気づいた。


表面張力で浮かんでいるようでちょっと突くだけで沈む。自然界でも水面を流れて移動した種子が、波などを受けて適当な所で沈み、広がっていくのだろう。
種子や果実の内部に空気をため、その浮力で浮かぶ戦略を取る植物は多いが、表面張力を利用するものはあまり多くないと思うので、面白い。


・11月15日 追記
追加の記事を書きましたのでリンクを貼ります。
→「ヒメシロアサザの種子散布 その2

・11月26日 追記
ヒメシロアサザの種子散布について、記事を書いた時にはそれに関する情報を見つけられなかったのですが、その後に「ため池の自然-生き物たちと風景 (浜島繁隆・土山ふみ・藤蔵繁生・増田芳樹 編著 信山社サイテック 2001年」に、ヒメシロアサザの種子について、”種子の表面は水をはじき1~2日浮遊した後沈むが、その間、水の働きで種子散布が行われる”、との記述を見つけました。この本の記述は著者の一人の浜島さんの論文が引用されているようなので、そちらにはもっと細かい内容が書かれているのかもしれません。機会があれば読んでみたいと思います。

ただ、僕が観察した限りでは種子は1~2日の浮遊ののちに沈む、というよりも、波などの影響で適当なタイミングで沈む(言い換えれば穏やかな水面では自動的に沈むことなくかなり長時間浮かび続ける)のではないかと思います。自生状態を観察したことがないので、偉そうなことは言えないのですが・・・。






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2014年10月24日金曜日

佐渡の植生 海岸湿地の植物たち

10月21、22日

佐渡の西側の海岸で、塩性湿地に生える植物を観察した。

自然豊かな佐渡島であるが、大部分の海岸線で護岸工事やテトラポットの設置がなされており、海岸が自然のまま良好に保たれている場所はそう多くない。人の生活圏と接する海岸植生は開発の影響を受けやすく、今日の佐渡において特に脆弱な存在の一つであると考えられる。



岩礁海岸に成立する植物群落。小さな岬の付け根に当たる場所であり、多少なりとも日本海の荒波から守られていると思われた。
右側の赤茶色で背丈の低い群落の主な構成種はヤマイFimbristylis subbispicata (カヤツリグサ科)、左側の背丈の高い群落の構成種はヨシPhragmites australis (イネ科)とシオクグCarex scabrifolia (カヤツリグサ科)など。


(写真は佐渡の別の場所で撮影したもの)
海側の最前線に主に見られたのがウミミドリLysimachia maritima (サクラソウ科)。

北方系の植物で、佐渡は分布の南限に近い。(日本における分布南限は石川県の能登半島)

卒論で、東北の海岸に成立する湿地の植生を扱った自分にとってはなじみ深い植物である。



ヤマイ群落内から流れ出る水
塩性湿地というと塩分(海水)の影響が着目されやすいが、実際には陸側からの淡水の流入も大きく影響していると思われる。

つまり、塩性湿地の水質は海水とイコールではなく、海水と淡水の混じった汽水である。

陸側から流れ込む水が開発等により遮断されたり、または極度に汚染された場合、塩性湿地の植物たちに何らかの影響が及ぶことも考えられる。


この場所でも明らかに陸側から水が流れ込んできており、ヤマイはその水が流れたり湧き出していると思われる場所に生育していた。

写真では分かりづらいと思うが、靴の先の辺りを右から左へ水が流れていた。

その他に見かけたもの。

左写真はドロイJuncus gracillimus (イグサ科)。
イヌイとも迷ったがおそらく本種。

湿地に生えていたものとしては、他にトウオオバコ、アキノミチヤナギなど。

湿地の背後の礫地にはハマゴウVitex rotundifolia が生育していた。

ハマゴウは暖かい地域の海岸を代表する低木で、本州の暖温帯域の海岸を北限に、沖縄の海岸でも普通に見かける。



北方系のウミミドリが生育する湿地の背後にハマゴウが生える構図は、通常異なる気候下で生育する植物が同所的に見られる佐渡を象徴するかのようで、とても面白かった。

佐渡島の希少植物のうち海岸植物として、ウミミドリをはじめ北方系のハマベンケイソウやハマハコベなどが挙げられているが、今回の観察では発見できなかった。次回訪れた時は見つけたいと思う。



<参考>
・Y List 植物名検索
http://bean.bio.chiba-u.jp/bgplants/ylist_main.html (2014年10月24日現在)
 

・高木政喜・白井伸和 2013.  上野海岸におけるウミミドリの生育環境 ~植生調査と土壌塩分濃度の測定から~, , 石川県立自然史資料館研究報告 第3号 : 1-9.
http://www.n-muse-ishikawa.or.jp/motto/docs/%E7%A0%94%E5%A0%B13%E5%8F%B7_1-9.pdf(2018年2月28日現在)
※2018年2月28日 リンク先を修正しました





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佐渡島の植生 安養寺のブナ林

10月22日

植生学会の観察会で佐渡島を訪れた。


今回訪れた場所のひとつが安養寺。
大佐渡山地と小佐渡山地に挟まれた国中平野に位置する。

標高約60mの当地には佐渡島で最も低標高に成立しているブナ林が見られる。

ブナ林の外観。


林内。

白っぽい樹皮の木がブナ、真ん中の褐色の木はスギ。高木層には他にアカシデ、ホオノキなどがあった。
スギは佐渡島では自然林の構成種で、尾根部にスギ林も形成しているが、お寺の隣なので植栽起源かもしれない。

林床を覆う低木は日本海側のブナ林の構成種のひとつであるヒメアオキ。

丸く大きな葉が特徴のオオカメノキ(ムシカリ)。
本種もブナ林の低木層の重要な構成種。

このように、安養寺のブナ林ではブナだけでなく、ブナ林を構成する植物が多く出現していた。
低木としては上記以外にハイイヌツゲ・エゾユズリハ・オオバクロモジ・ハウチワカエデ、ヤマモミジなど、草本としてコシノカンアオイなどが見られた。

(背後に写るサクラはウワミズザクラ、ササは恐らくヤダケ。)

ブナ林、つまり冷温帯域の植物が多く見られる一方で、暖温帯の常緑広葉樹林(照葉樹林)で見られる植物も混生していた。

写真の右側に写るのは、冷温帯で見られるヒノキアスナロ、左側に写るのは常緑広葉樹林の構成種であるシロダモ。

主に暖温帯で見られる植物として他に見られたものはヒサカキ、ヤブコウジ、ヤブツバキなど。少し離れた所ではスダジイの大木もあった。
ちなみに小佐渡山地では日本海側ブナ林に生育するユキツバキも見られるそうだが、ここではヤブツバキのみ。


当地の気候は、気温をもとにすれば暖温帯域に属するといえる。
最も近いアメダス(両津)で観測された1981年~2010年平均の月別平均気温をもとにWI(温量指数)、CI(寒さの指数)を算出すると、WI=105.5、CI=-4.5となる。
暖温帯のWIは85~180、CIは-10以上とされているので、これに当てはまる。
両津のアメダスの標高は5mと少し低いが、安養寺の気候もこれと大きくは違わないはず。

(WI(温量指数)については説明が長くなるので、詳しくは「Wikipedia 暖かさの指数」などを参考にしていただければ、と思います。)

ブナの幼個体(高さ約40cm)。発芽から5年くらいだろうか。
暖温帯域でブナが見られる例はいくつかあり、例えば東京近郊で有名なのは高尾山のものがあげられる。
高尾山のブナは、200~300年位前の小氷期の時代に生育したものの生き残りと言われ、現在残るのはいずれも成熟個体。充実した果実が形成されず、次世代への更新はできていないと考えられている。

一方、佐渡の安養寺のブナ林では少ないながらも幼個体が見られた。また、亜高木~高木層に達した個体も直径は様々で、一次的に成立して消えつつある群落ではなく、ある程度持続的な群落であると思われた。

伊藤邦男氏の1984年の調査報告によれば、安養寺のブナ林のブナの樹高や幹径は小さく、その他の構成種などから「伐採など人為の加わった若いブナ林の特徴」があるという。
つまり、安養寺のブナ林は原生的な森林ではなく、人為が大きく加わった存在であると考えられる。お寺の周囲は田畑が広がり、人々の生活空間にきわめて近い場所に成立していること、近くには雑木林でよく見られるコナラやクヌギなどが見られたことからもそれが伺えた。

暖温帯域の二次林、つまり雑木林には冷温帯域で主に見られる植物が構成種に現れるというが、佐渡でも本来、スダジイを始めとした暖温帯の植物が生育する場所に、人の手が適当に加わり続けたことで、ブナを始めとする冷温帯の植物が進出して両気候帯の植物が混在する独特の森林が形成されたのかもしれない。(

ただ、佐渡島では異なる気候帯(暖温帯~亜高山帯)の植物が同時に現れる例がしばしば見られるので、人為だけでなく佐渡特有の気候(雪、強風、暖かい冬と涼しい夏など)が成立に関わっているのかもしれない。佐渡島低地の自然林がほとんど残っていないので、この場所が元々ブナ林が成立する条件であるのか、それとも常緑樹林が成立するのか、この2つが混じった林ができるのかは何とも分からない。

伊藤氏の調査からちょうど30年たった今、報告に書いてあったよりもブナは大きくなり、また高木に挙げられていたアカマツはほとんど枯れていたようだった。また、「林内には林縁に生育する植物が多く見られる」という内容の記述があったが、今回はそれらの植物はそれほど目立っていなかったように感じた。
安養寺のブナ林は、今の姿のまま安定することなく、これからも少しずつ姿を変えていくのではないだろうか。




<参考文献・URL>
・植生管理学, 福島司著, 朝倉書店, 2006年3月30日 第2刷

・佐渡の花 携帯版, 伊藤邦男・村川博實著, 山歩きガイドクラブ, 2008年3月31日 改訂版第2刷

・気象庁 過去の気象データ検索
http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/index.php?prec_no=54&block_no=0518&year=&month=&day=&view=(2014年10月23日現在)

・佐渡の貴重な植物群落1 佐渡:安養寺のブナ林 佐渡における最低海抜のブナ林, 伊藤邦男
http://dspace.lib.niigata-u.ac.jp/dspace/bitstream/10191/10222/1/03_05_0006.pdf (2014年10月23日現在)

・Wikipedia 暖かさの指数 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9A%96%E3%81%8B%E3%81%95%E3%81%AE%E6%8C%87%E6%95%B0 (2014年10月23日現在)

・高尾通信 1-5 元禄ブナの危機
http://www.takaosan.info/mame1-5.html (2014年10月23日現在)


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2014年9月21日日曜日

植物検疫 オーストラリアから日本への持ち込み

※2018年12月記
植物防疫法の改正に伴い、情報を更新します。端的に言えば、この記事で書いた方法では植物を海外から日本に持ち込めなくなった、ということになります。
記事の内容は、一旅行記として楽しんでいただくに留めてもらえると幸いです。

最近になり、植物防疫法が厳しくなったようです。植物防疫所の”海外からの植物の持込みに関するご質問”(http://www.maff.go.jp/pps/j/trip/oversea/faq/index.html#imp_faq)などに説明がありますが、要約すれば、「海外から植物を持ち込みたい場合は、帰国前に必ず輸出国政府(植物を持ち出す国)の植物防疫機関で検査を受け、検査証明書を発行してもらう必要があり、証明書がなければ廃棄処分になる」ということになります。
ただし、以前から検疫の対象外だったもの(害虫がいないことが明らかな木製品など)については今まで通り、検疫の必要はないようです。

なお、私は法改正後に植物を持ち込んだ経験がないため、詳しい説明は避けます。
詳しくは植物防疫所のwebサイトをご覧ください(http://www.maff.go.jp/pps/)。


以下、元記事


9月18日

約3週間のオーストラリア旅行を終えて帰国しました。
旅行中も更新を続けていく予定でしたが、忙しさとパソコンの不調で滞ってしまいました。これから少しずつ書いていきます。


西オーストラリア州パース郊外の園芸店(nursery)の種子販売コーナーにて。


左右の大きな棚が野菜の種子で、その間のコーナーが西オーストラリア原産の植物の種子。。
山野草店を除く日本の園芸店で見られる在来の野草というと、せいぜいキキョウやリンドウ、それからオミナエシやカワラナデシコといったところだろうか。それと比較すると非常に大きな売り場だった。

以前からオーストラリアの植物に関心があった僕は、いくつか購入した。


購入したのは
Xanthorrhoea preisii(ススキノキ科) 和名ススキノキ Grass Tree。
Nothofagus cuninghamii(ナンキョクブナ科) 和名ナンキョクブナ(の一種) Myrtle Beech。
Swainsona formosa(マメ科) Sturt (Desert) Pea。
Rhodanthe chlorocephala(キク科) Everlastings。

その他に※市街地で採取したもので
Schinus areira (S. molle var. areira)(ウルシ科) ピンクペッパー、コショウボクと呼ばれる仲間。南米原産
Tipuana tipu(マメ科、ジャケツイバラ科) Rose woodとして木材利用される。南米原産。
以上が種子。

・Melilotus sp.(マメ科) 日本にも同属のシナガワハギなどが帰化。
・Trifolium tomentosum(マメ科) 日本にも同種と思われるものが帰化していて和名フウセンツメクサ。
・Erodium sp.(フウロソウ科) 日本にも同属でツノミオランダフウロなどが帰化。
・Cotula sp.(キク科) 日本には同属でオーストラリア原産のマメカミツレが帰化。
これらは土のついた根を切り取って乾燥標本にした。

(※オーストラリアでは動植物の採取は国立公園や自然保護区などにおいて厳しく規制されているが、市街地の道端などではその限りではないらしい。もっとも、市街地であっても在来種が生えていることはあり、種ごとによって扱いが異なるのかは分からない


ところで、海外から日本に植物を持ち込む際は生の植物体、乾燥植物、種子のいずれの場合も植物検疫での申告が必要となる。植物検疫を受けるのは初めての経験で、若干緊張をしながら準備を進めた。
主に参照したのは日本の植物検疫所のホームページ、それからCITES(日本ではワシントン条約として知られる)のホームページ。

まずは、各植物種(もしくは属)が規制対象になっているかを検疫所の「輸入条件に関するデータベース」から検索。
上記6種のうち4種は通常検査でOK。RhodantheTipuanaはリストに表示されなかった。
 
次に、CITESのページでリストにかかる種がないかを検索。該当種はなく一安心。
(ちなみに、普通に園芸店で売られる植物の中にも、例えばドラセナ(Dracaena)やエアープランツの一種Tillandsia xerographicaのようにCITESの指定種が含まれており、これらは国内移動は可能でも国間での移動には許可証が必要。お店で買ったものなら問題なく日本に持ち込めるわけではない。)

僕が悩んだのは、植物検疫のリストに載っていない植物があったこと、それから事前にオーストラリアの検疫所で検査を受けて検査証明書をもらう必要があるのか、それとも必要ないのか、ということの2点。
まずリストに載っていない植物については情報がないので、とりあえず持ちこむことにした。

それから検査証明書についてはページによって記述が異なっていた。
「輸入条件に関するデータベース」で各種について検索すると、条件のひとつに”輸出国政府機関が発行した検査証明書があること”、と記述されていた。一方、「旅行者(携行品)・郵便物」のページには証明書が必須である、とは書かれていなかった。自分の場合は旅行者携行品に当たると考え、現地の検疫所を訪れることなく日本の空港に向かうことにした。

関西国際空港に入港。入国審査を終え、荷物を受け取ってから植物検疫コーナーに向かう。
検疫を受ける前には、事前に申告書に持ちこみ品目の種類と個数を書き、それを検疫コーナーに持っていく必要がある。
植物に関するものは念のため検疫を受けた方がよいだろうと、木製品のブーメランとディジュリドゥも持っていくことにした。

植物検疫担当の方は1名。他に検査を受けている人はおらず、並ぶことなく検査開始。

まず、木製品については持ってきたものについては検査対象外とされた。
次に検査官は種子の袋をカッターでひとつずつ開封し、中を確認。採取した種子や乾燥標本はティッシュや紙に挟んでいたので、それも開封して中を確認。中を確認ののち、切り口に「植物検疫 Plant Quarantine」とプリントされたシールで封をし、まとめて入れておいたビニール袋に検査合格証印を押した紙を貼られて終了。
10分程度で検査は終わった。


検査中に科名や属名を聞かれたので、事前にメモした紙を見ながら回答。その他に、特定外来生物に当たるような種はないかと聞かれたので、ないと回答。 

検査終了後、入国前に悩んでいた2点について質問。
まず、データベースに載っていない種については、通常検査でOKな種と同じ扱いでよいとのこと。
検疫では日本の農林業に悪影響を及ぼす病虫害の侵入を防ぐのが主な目的であるから、「許可された植物しか持ち込めない」ではなく、「何らかの形で規制された植物は持ちこんではいけない」と考えた方が適当なのだろう。(ちなみに、植物検疫所のデータベースにはCITESは反映されていないようなので、注意が必要である)

それから、現地国の検査証明書については本来どんな場合であっても必要なのだが、商業・研究利用目的でない旅行者の少量の携行品(お土産など)であれば、証明書はなくても大丈夫、とのことだった。

検疫を終えると次は税関。検査を受けた植物を見せる。
税関では麻薬取り締まりなど異なる観点から検査を受ける。コショウボクのタネが袋越しに大麻の種子などに見えたのか開けて見せるように指示されるが、他は問題なく終了。趣味でタネを持ってきた、と言うと、変わったやつだなという風な顔をされた。
以上で全ての検査が完了。


検疫官の皆様、日々のお仕事お疲れ様です。


参考
・植物検疫所 ホームページ
http://www.maff.go.jp/pps/index.html (2014年9月21日現在)

・CITES ホームページ(英語)
http://www.cites.org/ (2014年9月21日現在)


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2014年9月2日火曜日

8月26日 西オーストラリア パース(Perth)の雑草

8月26日
学会と旅行のため、オーストラリアを訪れている。

オーストラリアはコアラやカンガルーなどの動物だけでなく植物も固有のものが多い。
例えば、ヤマモガシ科(バンクシア属など)やマメ科(アカシア属など)、フトモモ科(ユーカリ属など)は多様な種に分化していて、それらによって形作られる景観は日本とは全く異なるものである。


一方、市街地を歩くと道端には見覚えのある植物が目立つ。
上の写真は芝生地を撮影したもので、セイヨウタンポポ、オランダミミナグサ、シロツメクサなど日本でもおなじみのヨーロッパ原産の草本が生えていることが分かる。

街を歩いていると、他にも様々な草本に出会った。

Poa sp.(イネ科)

スズメノカタビラに似た草本。

Cardamine sp.
(アブラナ科)

タネツケバナの仲間。
日本においてはミチタネツケバナ(C. hirtsuta)やコタネツケバナ(C. debilis)が帰化種として知られている。

ノボロギク
Senecio vulgaris (キク科)

日本でもよく見かけるノボロギクと思う。

チャボタイゲキ
Euphorbia peplus
(トウダイグサ科)

日本にも帰化しているが、それほど多くは見られない(と思う)チャボタイゲキ。
ここパースでは数多く見られた。



同じトウダイグサ科ではホルトソウ(Euphorbia lathyris )と思われるものもあった。

ニセカラクサケマン?Fumaria capreolata (ケマンソウ科orケシ科)

こちらも日本ではあまり一般的でないニセカラクサケマンと思われる植物。
パースにおいては特に目立つ種の一つで、公園や道端のあちこちで繁茂していた。


本種を含むFumaria属のうち、日本には本種とカラクサケマン、セイヨウエンゴサクがヨーロッパ原産の帰化種として侵入しているらしい。

上で紹介した他にもノゲシ、ヨツバハコベ、タチイヌノフグリ、カラスムギの仲間、チチコグサの仲間などが見られた。

今回観察した道端の草、いわゆる雑草が日本で見られるものと同種なのか、それとも同属の別種なのかは、しっかりと種同定を行っていないので分からない。少なくとも、日本でもよく見かけるヨーロッパ原産の草たちが帰化しているのは間違いなさそうだ。
雑草として生えていたもののうちオーストラリア原産の種はマメカミツレくらいで、しかも本種は日本でも目立つ帰化種の一つである。パース市内の雑草はほぼ帰化植物で占められていると言ってよいと思う。

日本から遠く離れた地でも、同じ温帯域であれば市街地に現れる植物はそれほど変わらないことを実感した。むしろ、一部に在来種を含む日本の雑草群よりも、より帰化種の存在を強く感じた。

オーストラリアにおいて8~9月は春に当たる。日本においても春季の雑草にはヨーロッパ原産の帰化種が目立つ。
一方、日本では夏になるとセイタカアワダチソウやオオアレチノギクを始め、北米大陸や熱帯域からやってきた種が多くなる。パース市の夏季の雑草がどのようなものか気になるところである。



最後に西オーストラリアらしい植物をひとつ。

Kings Parkで見かけたCaladenia latifolia(ラン科)。
現地ではPink fairyと呼ばれている。


オーストラリア在来の植物についても写真を整理し次第紹介したい。




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